19 彼岸花:あきらめ
学校は少し憂鬱だ。
多分、麗が居てくれるから、通えていると思う。
初日のお弁当のせいで「お嬢様フードファイター」とかいうあだ名が付いたみたいだ。
陰でコソコソ話しているのが聞こえた。
基本的に虐められる事はないが、みんな遠巻きにこちらを見るだけだ。
ヒソヒソコソコソ話されてチラチラ見られる。
私だけじゃなくて後藤もかなり参っている。
今は多分私より話しかけられているんじゃないだろうか?
「後藤さーん、お菓子、たべるー?」
「いえ、仕事中ですので」
「キャハハ!真面目か!」
弄られている。
私は挨拶くらいしか返してくれないけど、後藤はこの扱い。
日頃、私のプライベートを東条家に赤裸々に報告している後藤なだけに、少しだけざまぁみろって思ったのは内緒だ。
「おはよう涼菜」
「麗!おはよう」
優雅に美しく、麗が席に着いて挨拶してくれる。
本当に麗は所作が美しい。
「そんなに見られたら流石に恥ずかしいよ」
「あ、ごめん」
頬を赤く染め、照れて笑う麗も素敵だ。
今日もいつもの様に授業を受けて、麗とお弁当を食べて、午後の授業が終わると後藤に急かされてお屋敷に帰る。
今日は金曜日。
やっと一週間が終わる。
毎日ずっとヒソヒソコソコソ、本当に飽きない人達だった。
今日は一段とひどく、他の学年の人まで見に来ていた。
私は見せ物じゃない。
そう思いながら耐えていたら、昨日出来た『蕾』が開いてしまいそうなくらい成長してしまった。
早くご飯を食べて眠ってしまいたい。
きっと今日はよく眠れるだろう。
車の中でぐったりとシートに寄りかかる。
車椅子と同じ様に首の部分が大きく開かれた特別仕様になっているのでとても楽だ。
「お疲れのご様子ですが、栄養剤は必要ですか?」
「美味しく無いのでいりません。『温室』に帰ればオヤツがたっぷりあるので大丈夫です」
そう。
栄養剤は美味しくない。
沢山ご飯を食べたら回復するから大丈夫。
心配してくれた後藤には悪いけれどお断りだ。
あっという間にお屋敷に着いて、『温室』まで先導されると、後藤と別れる。
いつもであれば「では」だけで終わるのに、なにかを言おうとして、止めて去って行った。
首を捻りつつ中に入る。
鞄を下ろし、『蕾』を瀧本に確認され、お茶の用意されたテーブルに向かう。
リビングに足を踏み入れた瞬間、後藤がなにを言いたかったのか、わかった。
「やあ、おかえり」
観葉植物の影のソファーに東条がいた。




