18 もう一つのブルーデイジー:恵まれている
東条晃は恵まれている。
日本でもトップクラスの財閥である東条グループの御曹司。
百七十九センチを超える身長。
見目も良い。
家族仲はあまり良くは無いが、過度な干渉が無い事は気に入っている。
ただ一つ。
晃には弱点がある。
『花食み』だという事だ。
だがそれも最近変わった。
今までは『花生み』との相性が良くなかったが、新たに来た『花生み』は最高だと言っても過言ではない。
栄養価の高い『花』をポンポン生んでくれる。
最近は三日に一度届く。
何年にも渡って飢餓状態が続いていた身体にはまだまだ足りないが、それでもあの耐え難い、渇きにも似た飢えは治りつつある。
今週から学校に通い始めたらしいので、平日『摘み』にはいけないが、明日は土曜日だ。
今日は『花』を沢山食べられるだろう。
首を絞めた日は合計五つ咲かせてくれた。
最初の一輪をちぎり取ったら三つまとめて一瞬で咲いてしまうのだから、とても感動した。
あの日は久しぶりにゆっくり眠る事が出来たのだ。
飢餓感で夜中に目覚める事が無いというのはとても良い。
死んでしまうから「直接食べてはならない」「自分で摘んではいけない」「『花』が咲いたら医療班を呼ぶ」「平日は『温室』に行かない」と浩二と瀧本にしつこく約束させられた。
不服ではあるものの、あの『花』を食べられなくなるのは嫌だ。
アレは本当に可愛い。
育った環境のせいなのか、細身で栄養が足りず、陽に当たっても焼けない肌は白く透き通っている。
真っ直ぐの黒い髪は、できた『花』を隠す為だろう、長く伸ばされ、背中で揺れている。
女性としては比較的整った見た目をしているだろう。
そんな少女が、恐怖に震えながら『花』をどんどん生み出して捧げてくれる。
(たまらない……)
首を絞めるのはダメだと言われてしまった。
今度はどうやって『花』を咲かせてもらおうか。
本日分の仕事の処理をしながらアレが帰ってくるのを待つ。
(嗚呼、本当に、オレは恵まれている)
部屋の中に晃の鼻歌が流れていく。
涼菜が屋敷に着くまで残り十五分。
まだまだ晃の中では涼菜はアレ止まり。
涼菜=食糧庫の認識。




