14 枝垂れ柳:悲哀
神様、私、何か、悪い事を、したのでしょうか?
さっき、いや、正確には二日前。
「坊ちゃん」もとい、東条晃に首を絞められ、『花』をむしり取られた私は気絶して、まるまる二日目を覚まさなかったらしい。
気を失っている間にも、悪夢にうなされ二輪程『花』を咲かせてしまったと聞いた時、ゾッとした。
このまま目が覚めない可能性もあった、と医療班の人に教えられた。
坊ちゃんには咲いた『花』は、必ず医療班に採取させる様約束させたから安心して欲しいと瀧本に言われたが、安心出来る要素が一ミリもない。
何故なら『花』が咲いたら、という事は“坊ちゃんが咲かせに来る”という事は防げていないからだ。
目が覚めたから何は無くとも栄養剤を飲め、と普段飲まされる量の倍量を渡された。
飲み干すとやはり睡魔が襲い掛かってくる。
「身体が回復しようとしているのです。逆らわずにゆっくり休んでください」と寝かしつけられる。
優しく背中を叩かれて、子供の頃に戻った様に泣きながら眠った。
転校は延期になった。
首にクッキリとついたアザが消えなかったからだ。
あれから何度も夜中に悲鳴を上げて起きる様になってしまった。
寝ているだけで、三日に一度は『花』が採取出来る程だ。
サンルームは中に入るだけで、『花』が咲くくらいに恐い場所になってしまった。
それでも回復には日光浴が必要だとの事で、温室へ出られるよう手配してもらった。
沢山の植物が、咲き乱れる美しい箱庭。
午後の日の光を浴びて、濃い緑が目に眩しい。
栄養剤を定期的に摂って、食事もキチンと摂取している。
しかし夢を見て『花』を咲かせてしまうので、二歩進んで一歩戻る様な状態だから、体力は中々回復しない。
温室でクラシックを聴きながら、うとうとと微睡む時間が唯一心安らぐ時間だ。
うなされそうになると、瀧本が手を握って頭を撫でてくれる。
時折、幸せな夢を見る事もある。
何か素敵なものが身体に染み渡ってふわふわと幸せに浸る様な夢だ。
それでも、部屋に戻るとふとした時に恐怖が蘇り、『蕾』ができてしまう。
毎日の様に瀧本に確認しても家族からの面会予約は入っておらず、スマホもいつの間にか没収されてしまっていた。
私は、このままいつか、東条晃に殺されてしまうのだろうな、と呟くと思いの外、胸が重くなった。




