13 二輪目のマリーゴールド:絶望
スラリと伸びた身長は百七十後半。
もしかしたら百八十センチあるかも知れない。
小さな顔に切長の目。
なのに甘やかな作りをしていて、顔色はあまり良くない。
さらりと揺れる髪は、烏の濡れ羽色。
パリッとノリの効いたシャツに、爽やかなサマーセーターの合わせが品良く、育ちの良さを表している。
東条晃。
私が、『 温室』に来ることになった原因。
そんな彼が、今、苛立ちを隠そうともせずに目の前に立っている。
「ねぇ、なんとか言ってよ。新しい『花生み』さん」
こてり、と幼児の様に首を傾げる。
ただそれだけなのに、何故か身がすくむ。
無表情から無邪気な表情に変わるのだけれど、それがより一層恐怖をあおる。
手がブルブル震えて、逃げたいのに足が動かない。
「『強いストレス』で咲くんだっけ?ねぇ、どうやったら、君は、ストレス、感じるのかな?」
ゆったりとした歩調で距離を詰めてくる。
「晃様、本日はタッピングだけだとお約束しましたよね?」
「勿論『水やり』はするさ。その前に一輪くらい貰っても良いだろう?笑えるくらいに回復したんだから」
なんとか止めようとしてくれる瀧本に、一度も視線を向けず、ギラギラと凶悪な光を宿して近寄ってくる。
「オレだって乱暴したい訳じゃないんだ。ただ、君は『強いストレス』じゃないと『花』を咲かせてくれないんだろ?仕方ないじゃないか」
ゆっくりと白く筋張った長い指が私の首に掛かる。
「このまま、締めていったら、咲かせてくれる?」
優しく、蕩けるように甘く、美しい笑顔で、容赦なく首を絞め始めた。
「かヒュ……ッ?!」
息が詰まって胸が苦しい。
こめかみが破裂しそうな内圧を感じる。
苦しい!苦しい!
首に掛かる指をなんとか外そうと試みるけどちっとも外れない。
苦しい。
怖い。
恐い。
痛い。
『 温室』に来てから何度も走った痛みが、首から背中に走る。
痛みと、息ができない苦しさとで喉の奥が鳴る。
「ぅ……ぁかはっ……っぐ」
「そう、そうだよ。頑張って。早く『 花』を咲かせてよ」
酸素を求めて、大きく開いた私の口を舐めつつ、首を絞める指は緩む事はない。
痛くて、苦しくて、怖くて、悲しい。
『花』は彼の望み通り大きく膨らみ花開く。
私の苦痛と反比例する様に、開花の香りを振り撒いた。
「良い子だね。そのまま食べたら痛いんだよね」
「かはっげほっげほげほっ」
首を絞めた指を解くと、咳き込んで苦しむ私の頭を撫でる。
優しく涙を指先で拭い取ると、抱きしめて……
ーーー 一息に『花』をむしり取った。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」




