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11 ピンクのアスター:甘い夢

 昼食に胃に優しい物を、とたっぷりの雑炊とうどん、ほろほろに煮込まれたチキンスープ、ヨーグルトに沢山の刻まれたフルーツが入った物が持ってこられた。


 確かに一つ一つは胃に優しいだろうけど、この量はおかしくない?

 大食い番組並みに全てが山盛りだ。

 どう見ても食べきれないよ?


 そう思って食べ始めたのに、おかしなくらいスルスルと全てお腹に収まり、栄養剤と、食後のお茶まで戴いてしまった。

 今まで満腹になった事は無かったのだけれど、もしかしたら『花生み』というのは沢山食事を摂る必要があったのかもしれない。


 食後は用意されていた車椅子に乗せられ、二階のサンルームへと連れて行かれた。


 特製の車椅子の様で、首の後ろが背もたれに当たらない様に大きく開いている。

 なのでゆったりと頭を預けることが出来る様になっていて、ぐっすり寝たのにまだまだ怠い身体に大変優しかった。


「まだ、お身体が回復しきっていないので、こちらでゆったりとお過ごしください」


 瀧本がそう言うと大きな装飾された箱を操作して、音楽を流し始める。

 バイト先のカフェで流れていたクラシックだ。

 ゆったりとした優しい曲調で、とてもリラックス出来る。


「お好みの曲を掛けることも出来ますよ。如何されますか?」

「いえ、このままでお願いします」


 瀧本は静かに頷き、部屋の隅に移動する。

 壁に埋め込まれたタブレットを操作しているのは、私のことを何か報告しているのかもしれない。


 それでも、彼女の向けてくれる優しさが、胸に沁みる程嬉しかった。

 ぽかぽかと優しい日差しに微睡みながら静かに午後を過ごした。


 微睡みの中で、とても美味しくて幸せな何かを飲む夢を見た。

 あんなに沢山食べたのに食べ物の夢を見る自分に少し呆れてしまった。

 夢の中で少し笑って、もう少し眠ることにした。


 日が陰り始め、肌寒く感じる頃、またベッドルームへと連れていかれた。


 『蕾』が出来ているので出来る限りうつ伏せで寝て欲しいと申し訳なさそうに言われたが、いつもの事なので構わない。

 今までも、花が咲くまではうつ伏せで寝ていた。

 なんと言っても、枕に『蕾』が触れると痛くて目が覚めてしまうのだ。

 自分の為にもうつ伏せで寝させてもらうよ。


 温かいミルクとしっとりとした上品な味のマドレーヌをオヤツに戴き、再びベッドに横になる。

 一昨日までは触れた事もなかった様な、フカフカふわふわのお布団と枕は私をすぐに夢の世界へと誘った。


 夕食ですよ、と優しく揺り起こされ、料理を並べられる。

 身体はびっくりするほど回復しており、食事と睡眠は大事だな、と感じた。


 食事を摂りながら瀧本に家族が会いに来ていなかったか聞くと「私は何も伺っておりません」と返ってきた。


 「毎日会いに行く」というのはどうやら言葉の綾だったらしい。

 とても美味しかった料理がちょっとだけ味気なく感じられた。


 たっぷりの食事が終わったらまた栄養剤を戴いて、お風呂に入る。

 初日の様に身体を洗われるかもと警戒していたが、脱衣所に控えていると言われ、広い湯船を独り占めしてしまった。


 なんとも贅沢な一日だ。


 昨日の怖かった事が嘘の様に、ふわふわとした優しさと温かさに包まれて眠りに落ちた。

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