表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/71

10 バイカウツギ:回想

 名月浩二は困惑していた。


 首尾良く『花生み』を手に入れ、タイミング良く『花』を生んだ『花生み(涼菜)』を『温室』に閉じ込めて、晃に『花』を届ける。


 運が良かったとはいえ、普段から行なっている事だ。

 確かに普段渡している『花』よりも大きく、晃の栄養不足を補えるかもとは思っていた。


 しかし、その日の晃は普段とは全く様子が違った。


 テーブルまで持って行くのを我慢出来ず、部屋に入るなり皿から『花』を奪う様に取り上げ、獣の様に口に押し込む。

 数度咀嚼したかと思うと、恍惚の表情で嚥下した。


「はああぁぁぁ……っ」


 同性の浩二ですらハッとする程の色気を滲ませて、感嘆のため息を吐く。


 うっとりと唇をぬぐう姿に目を奪われていると、人とは思えぬ速さで襟首を締め上げられた。

 晃から発せられたとは思ぬ程低い声で『花』の出処を問われるが、浩二は息が出来ず答えられなかった。


 その内、自分の中で答えが出たのか、己よりも大きい浩二を文字通り放り投げて、温室に向かう。

 普段の晃からは信じられない程のスピードで部屋から出て行った。


 浩二は痛む身体で、息を整えながら後を追いかける。

 このままでは涼菜が殺されかねない。


 『温室』の渡り廊下に着くと、チャイムを連打して、扉を叩く晃が居た。


「早く、早く開けろ!中にいるんだろ?!」


 完全に目の色が変わっている。

 警備担当者が慌てて鍵を開けると、するりと中に駆け込む晃。


 まだ酸欠でふらつく身体を叱咤して中に入ると、土下座している涼菜の頭を抑えて首に生えた『花』が咲くのを観察する晃が居た。


(また咲かせたのか!)


 恐怖に震えて、涙を流す涼菜から芳しい香りが溢れ出した。

 この匂いは知っている。

 二つ目の『花』が咲いたのだろう。

 「咲いた、咲いた」と晃がはしゃいでいる。


 晃は、震えて身を固くする涼菜に覆い被さるように、咲いた『花』の花弁に噛み付くとそのまま勢いよく噛みちぎる。


「あああぁぁぁぁっ!」


 悲痛な叫び声を上げ、涼菜の身体が跳ねる。

 ガクガクと身を震わせ、泣きながら「切り取って欲しい」と懇願する涼菜。

 その姿に、見ている場合では無いと思い出す。


 慌てて動きだそうとした時には遅かった。

 再度涼菜の悲鳴が上がる。

 晃の齧った『花』の隣に、もう一つ『花』が咲き始めていた。

 驚きのスピードで咲いた『ソレ』は香りも大きさも先程の比ではなかった。


 ストレスの強さにより、咲く『花』の質が変わるのだろうか?

 晃は狂った様に喜びはしゃぐ。


 このままでは、涼菜はすぐに衰弱して死んでしまう。

 本日だけで既に三つも『花』を生んでいる。

 早急に栄養剤を飲ませなくては。


 一番近くにいた瀧本が、「『花生み』が死んでしまう」と言い聞かせて晃を止める。

 浩二も晃を引き剥がし、医療班を呼んだ。

 ピクリとも動かない涼菜に、万が一を想像してしまったが、なんとか生きているらしい。


 手早く『花』を採取して栄養剤を与えた。

 腕すら上がらない様子で、瀧本が頭を支えて幼児の様に飲ませている。


 採取した『花』を二つ食べると落ち着いたのか、晃は静かになった。

 しかし、『花』を諦めてはいないのか、物欲し気な瞳で、ただただ涼菜を見つめている。


 赤ん坊の頃から知っている晃が、自分の知らない 何か(怪物)に見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ