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07. その後のヒロイン

ヒロイン視点です

 アゼリアはまとめていた髪を解くと、軽く頭を振って髪を波打たせる。

 するとピンクの髪は色が抜け、明るいストロベリーブロンドにと変化した。


 髪に付与する色変えの魔法は、元の髪の色を元にした色に変化させることが多い。髪が陽に透けたときに、元の色が透けて見えるからだ。桃を思わせるピンクなら、透けてストロベリーブロンドに映えたとしても、気付かれないほど判り辛い。


 例外は濃い色の場合だ。同系色にしてしまえば黒に近い色になるが黒髪は珍しい。明るい色にすれば、陽の光に透けず不自然になる。だから同じくらい濃い別の色に変える。


 ダスティンははこげ茶の髪だったから紺や深緑などの茶以外の濃い色味だろう。


「フォスティーヌ様、準備はよろしいでしょうか?」


「ええ、問題ないわ」

 アゼリアは偽名だ。身元が判らないように、よくある名前の中から、貴族女性に名付けられてもおかしくないものを選んだ。


 ゆったりとした旅装に身を包んだフォスティーヌは、護衛騎士の手を借りて馬車に乗り込む。


 これから一か月の長旅を経て郷里に帰るのだ。


 できるだけ身体への負担が少ないように、苦しくない装いに替え、車内はいくつものクッションを置いてある。大型馬車の中は広々としていて横になることもできる。途中、馬を替えずに移動する。大きく休憩を入れるのは、馬と同時にフォスティーヌの身体を労わってのこと。至れり尽くせりだった。



  ☆ ☆ ☆



 謁見の間にてフォスティーヌは頭を垂れる。

「よく帰って参った」


 頭を上げよと声がかかるのを待ってからゆっくりと見上げる。

 目線の先には懐かしい顔があった。


「して首尾は?」

 女王の顔をした母が問う。


「上々にてございます。直に腹が目立つことでしょう」


 フォスティーヌは愛おしそうに腹を撫でる。


 よくみなければ判らないほどだが、少し腹が出始めている。確かに子が宿っている証拠だった。


「……ということだ、殿下」

 女王は横に座る王配に声をかける。


「まだ孕んだとはわからぬだろう? それに万が一腹に子がいたとして、誰とも判らぬ種を喜べというのか?」


 怫然とした表情だったが、誰とも判らぬというのは女王が認めざるを得なかった、王族の血を引かぬ二人の異母弟の方だろうと想う。王配の愛人はかろうじて貴族の末端に存在できる程度の女なのだから。


「相手の素性は調査済みにてございます。外交問題になる故、秘匿としておりますが」


 お前の愛人とは違うという意味を言外に含ませながら、フォスティーヌは静かに報告する。女王を母に王配を父に持つフォスティーヌは、王女であり正当な王位継承権を持つ未婚の王女だ。本来なら婚姻前の妊娠など醜聞以外の何物でもない。


 しかしこの国の事情が、フォスティーヌの妊娠を正当な行為としていた。


「王配殿下におかれましては、我々の成果をご確認いただければ」


 そう言うと、後ろを振り向き扉を開けるように合図を送る。


 入ってきたのは妙齢の女性ばかりが二十人ほど。皆、腹が膨らんでいるか、子を腕に抱いているかのどちらかだった。


「帰参致しました者たちは皆、三年の間に他国にて妊娠、出産いたしました。何れも国内では石女と誹りを受けた者ばかりにてございます。他に長旅に耐えられぬ者が数名、現地に留まっております」


「種が悪かった、という証明になりましたな」

 女王が口を開く。


「皆、大儀であった、ゆるりと休むが良い」


 女王の言葉に、謁見室に入ってきたとき同様、皆、静かに退室していった。


「フォスティーヌも休め、一人の身体ではないのだから労われよ」


 気遣いの言葉に、フォスティーヌも一礼して退室する。


 後の話し合いは、女王と王配、閣僚たちの間で行われるのだろう。


 結果がどうなるのかは不明だが、そう悪くないことになるのではないかと、根拠がないままに思う。




「まさかフォスティーヌ殿下まで、この計画に参加されるとは思いませんでしたわ」


「姫様はまだ十代ですのに」


 謁見室に入ってきた女性たちは皆が二十歳を超えた貴族の婦人たちだった。


 何れも国では子を生せず、罵られて婚家を追われた経験のある者たちばかり。


 その場にいた女性たちの殆どが、女王の提案に乗って良かったと言う。女王の前では無言だった彼女たちだけれど、控えの間では賑やかにおしゃべりを楽しんでいた。


 子供たちも好きに遊んで良いとあって、きゃっきゃっと声を上げて楽しんでいる。


 異国の靴を脱いで寛ぐ風習は、何処にでも直ぐに座り込む幼子や、まだ歩けない赤ん坊が遊ぶのに適している。


「だって私が子を生さなければ、王位は王族の血を引かない異母弟にいくかもしれなかったのだもの」


 父である王配は王族の血を引いているとはいえ限りなく薄く、王位継承権を持ってさえいなかった。


 しかし女王が王子を産めずにいる間に、根回しして自分と愛人との子に王位継承権を認めさせた。男尊女卑甚だしい国の事、女王であっても頭ごなしに夫を非難することができずにいることをいいことに。


 二人目の娘であるフォスティーヌを産んだ女王は産後の肥立ちが悪く、二度と子を生すことができない身体になったことも、王配に都合が良かった。なかなか子を作れぬ母の血を持つ子よりも、子を生せる可能性がある方が、跡継ぎの問題が少なかろうというのが理由だった。


 先代国王も先々代国王も子が一人しかおらず、いつ王家が断続するかと危惧されていたから猶更だ。


 しかし女王は子を生せぬのは女性が悪いのではなく、男性にも非があるのだと言い切り、証明するために婚家を追い出されて行き場を無くした女性たちに提案したのだった。


 異国に行って、自分に非が無いことを証明しないかと。


「はしたないことをって実家で言われなかったかしら?」


 フォスティーヌは母である女王が言い出したことだから、肩身の狭い思いをすることはない。


 でも他の女性たちはどうだろう?


 既婚でも夫婦間以外で子を生すことをはしたないと詰られなかったのかしら?


 新たな家族を得るために元からの家族を捨てるというのは、あまりに寂しいことである。


「ちっとも! 元夫側から私に瑕疵があると責められていたので、喜々として迎え入れてくださいましたわ」


「私も同じです。婚家から役立たずを送り込んだと責められただけでなく、責任を取れと膨大な慰謝料を請求されましたもの。お父様は何倍にもして返させると息巻いてましたわ」


 彼女たちの実家は婿養子の父の立場が弱いか、両親の仲が円満な家庭かのどちらかだ。


 でなければ、婚家での扱いが酷かった娘を労わることも、婚家に憤ることもなかっただろう。女王の提案に乗ったのは、単に娘の名誉を回復させ、婚家の鼻を明かす一番の手段だからだった。


「ところで、これで王子殿下が王位に就く可能性はなくなりましたの?」


「ええ、女王陛下が絶対に阻止すると息巻いてましたわ。二人とも継承権を認めないと……。お姉様が立太子される日もきっと近いわ」


「当然といえば当然のことですわ。女王陛下の血を引いていない王子が継承権を持つことが、そもそもおかしかったのですから!」


 この場にいる女性たちは、謂われのないことで肩身の狭い思いをしたという気持ちが強い。


 非嫡子の王子たちは理不尽の象徴だった。

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