見入ってしまった
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「どうかな?」
マクマクさんを街のショップにつれて行き、試着室から出てきたマクマクさんを見た瞬間、感嘆のため息をこぼした。
「よくお似合いですね」と、ショップの男店員が決まり文句を言ったけれど、声の抑揚から、多分本当に似合っているんだということを言ったんだと思う。
だって、わたしもそう思うもの。
このショップへ来た理由。お店で着るマクマクさんの制服を買いにきたんだ。そのことは、街を彼と歩いているときに、彼には説明した。彼は快く承諾してくれた。
白いシャツに黒いズボン、その長い脚があるからこそ映える焦げ茶色のギャルソンエプロン。世の女性がこの場にいたら卒倒案件だ。魅了事故だ。わたしは、マクマクさんが喜んでくれるならそれでいいかな、と思った。服で自分の気持ちが弾むというのはいいことだし、必要なことだと思うから。
わたしだって──。
ちらりと女性ものがある場所──の更に奥、生地コーナーを眺める。
実はわたし、針仕事が好きで、あっちの世界でもよく家でシュシュとかポーチとかを作っていた。きっかけは、まぁ貧乏だから、服やカバン等を繕っていたところから興味をもったんだけれど。今では服まで作れるようになった。
こんなの着られたらテンションあがるよね! という服を店がお休みのときに、ストレス解消も兼ねて少しずつ作っていることは、わたしだけの秘密だ。
「ミハルちゃんはどう思う?」
マクマクさんの声に、わたしは脳内で展開されていた趣味空間より浮上を余儀なくされた。
「はい。とっても似合ってると思いますよ」
やっぱりこのロング丈のギャルソンエプロン、背が高い人がつけるとハンパなく似合うな。わたしがこんなのつけると、魚屋さんのバイトに間違われそうだ。
彼は、満面の笑みで鏡を見ている。
うん、どうやらこれで決まりかな。
わたしは店員さんを呼んで、この服を購入することを伝えると、店員さんが「お支払いは既に彼がしました」と言った。
ええと……はい?
訊くと、入店して服を選んだ際に、そこで支払いを済ませたそうだ。試着は丈の確認のためのようで、もちろんわたしは「従業員の制服を従業員に買わせるのは変なので、わたしが買います」と食いついた。けれど、マクマクさんに爽やかに却下された。
包装紙に服を包んでもらい、わたしたちは店を出る。せめて服は自分が持つと言い張ったが、「荷物を持つのは男の役目だよ」と、これも微笑んで却下されてしまった。
それからわたしたちは、少しだけ街なかを歩いた。マクマクさんが案内してくれた広場で行われている大道芸の人の芸に思わず拍手をおくったり、屋台のクレープ屋で甘党であることがバレて、わたしが止めてもマクマクさんが買って渡してくれたり。清々しいほどの強引ぶりでした。
そんなことをしていたら、時間もあっという間に過ぎて、気付けば空は茜色に染まっていた。
明日は、いよいよボールパン二百個を作って、夜会に届けなければいけない日だ。
マクマクさんも早く休ませてあげなければ。
「あの、わたし一人で帰れますので。マクマクさん、ここで別れたほうがお家近いですよね?」
そう言って見上げると、夕焼け色に染まったマクマクさんの顔が困ったように笑った。
「ミハルちゃんは、僕に気を遣って言っているみたいだけど、その気遣いは不要だよ。僕はキミをちゃんと家まで送りたいから」
なんの混じり気もないその笑顔に、思わず見入ってしまった。
こんなに男性をじっと見てしまったのなんて、初めてなんじゃないかな。
マクマクさんのチョコレートブラウンの瞳にわたしが映り込む。映り込んだわたしは、いったいどんな顔をしているのだろう。
胸が……ちょっと苦しい。
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