バイト採用
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急遽お店を休んで迎えた面接の日。
わたしは店の前にいる応募者の数に、目が点になった。
マクマクさんから持たされた整理券──確かに足りないかもしれない。
それだけの人数が集まっていて、そしてなんか野太い喧騒となっていた。
わたしの中では採用優先が高い女性は、うん、一人もいなかった。
でも、こうして来てくれたことには感謝せねば。
わたしは店の扉を開けて、一人一人に整理券を渡す。五十枚目を渡し終えた以降の人たちには、申し訳ないのだけれど、真っ直ぐに並んでもらった。
ざっくり百人はいるよね……。
本当は丁寧に面接をしたかったけれど、それでは夕方になっても終わらない。なので、急遽実技だけを見ることにした。
とりあえずは、明後日のボールパン二百個を作れる即戦力がいるのだ。
店の売り場に作った臨時の作業台で、パン生地を作る手つきで合否を決めることにした。
ふるいに落とされても、何人かは残るかなと思っていたのだけれど──。
「はい。次、お願いします」
わたしがオッケイを出すことはなく、最終グループをむかえてしまった。
窓の外でしおしお帰る男性たちを申し訳なく思い、でもこの面接はあくまで仕事重視なんだと心に決めて、目の前の最終グループの手つきを見る。
大量に作らねばならないボールパンは、わたしひとりだけでこねるには限界がある。だから一緒に、もしくは交代で出来る人がどうしてもいるんだ。
この最終グループに即戦力になる人がいなかったらどうしよう。土下座してでも依頼を断るか数を減らしてもらうしか──。
そんなネガティブなことを考えながらわたしは、一人の手に目がいった。
繊細な手つきでパンをこねる。すごく手慣れてる感がある。うんうん、生地を伸ばして、うん、そう手元に戻して、うん、いい。いいよ! すごく上手!
わたしは最終グループで鮮やかな手つきの人に向けて「採用です!」と、喜びと同時に顔をあげて「へ?」と、間抜けな声を出した。
急な採用通知に、相手の人もわたしと同様の声を出す。
チョコレートブラウンの瞳と目があった。
マクマクさんだった。
面接を終えた頃には、すっかり夕方になっていた。
採用されたマクマクさんが、テーブルを拭いて片付けてくれたり、売り場の床を掃除したりしてくれた。昨日に続いて本当に申し訳ない。
わたしはわたしで、明日のチキンナゲットの仕込みをしていた。
いつもはレジを締めて、売り棚があるほうを掃除して、キッチンも綺麗にして。そうして一日を終えてから仕込みにかかる。だからけっこう夜遅くなってしまう。けれど、マクマクさんが売り場を綺麗にしてくれたので、いつもよりずっと早い時間に仕込みが出来ている。ありがたいな。
けれど、ひとつ気がかりなことがある。
マクマクさんは、雑貨屋なんだよね。
「あの、雑貨屋さんのお仕事は大丈夫なんですか?」
こっちで一日仕事となると、雑貨屋との両立は難しいよね。
わたしがキッチンからそう呼びかけると、売り場の清掃を終えたマクマクさんが、キッチンへと戻ってきた。
スラリとしているマクマクさんは、その身体の半分以上が脚なのではと思うくらい背が高い。豆みたいなわたしの近くに来ると、なんか小動物が大型動物に見おろされているような感覚になってしまう。おおう、反射で一歩さがってしまったよ。
でも、そんなマクマクさんは、相変わらず優しく笑いかけてくれる。
「店のほうは、弟がいるから大丈夫だよ」
それよりも、と腰をグイッと曲げて、珍しく訝しげにわたしを見る。
「決めてくれたのは嬉しいけど、面接はいいの? 君の将来を決める大事なことだよ?」
将来? たしかに従業員は大事なんだけどというか近いな!
わたしはイケメン圧から逃れるように、クルリと背を向けた。目の前に端正なお顔があると、緊張してうまく言葉が出てこないし、この距離は、やはり少し怖い。
「そ、即戦力がほしかったので、あまりこだわりは。それに、こんな丁寧に作る人に悪い人はいないと思うの、で──」
ふわりとわたしの頬に布が触れたと思ったら、後ろから大きな手で抱きしめられた。
それはまるで、わたしが壊れないように、新雪の表面だけに触れるような慎重で、繊細な優しさ──。
「僕を選んでくれてありがとう。改めてよろしくね、ミハルちゃん」
なのだろうけど、わたしにそれを感じれというのは無理な話だ。
ぎゃああ! という悲鳴とともに跳び上がれば、マクマクさんの顎に直撃して、頭上で呻く声が聞こえた。
バッと振り返る。
「ななななんですか急に! えっ、まさか悪い人なんですか!?」
「……えっ?」
キョトンとわたしを見る無垢な眼。
どうして「え?」なんですか? そこは「ごめん」なのでは?
バイトをただ単に雇ったわたし。
それに応募して採用された彼。
字面だけでいえば雇い主と従業員の関係で、わたしだって普通にそう思っていた。けれど、そこには果てしないお国の違いが潜んでいるなんて、このときのわたしはまるで思っていなかった。
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