腰が……
脱字報告ありがとうございます!
早速なおしました!
わたしは裏路地に正座をして、助けてくれたみんなにむかって頭をさげ、ごめんなさいと謝る。
みんなを守ると息巻いていたのに、結局は守られてしまった。
「ごめんなさい……」
二度目の懺悔。
情けなさで声もしおれる。
項垂れて正座をしているわたしの隣にリフさんがやってきた。体育座りをして、「ん」と、紙袋に入ったパンを渡される。
なぜパン!? と、瞬いてしまう。
リフさんは自分の頭を掻く。
「あー、その。腹減ってんじゃないかと思って。これ引っ掴んで店出てきた」
その優しさが、今はじわりと身に染みる。
「お前さぁ。なんでそんなに追い詰められてんの?」
ここまで皆に迷惑をかけて、今更誤魔化すのも失礼なことだよね。
少し言葉を選んで口がもごついたけれど、観念して「実は」と切り出した。
「お店の収入が安定すれば、みんなの生活を守れると思って、ひとり空回っていました」
俯いて白状したから、みんなの表情はわからない。あちこちで嘆息するような音が聞こえると、幻滅されたのかな、と怖くなる。
そう思うと、正座をして太ももに置かれた両手に自然と力が入る。
「お母さんを守ったみたいに、みんなをわたしが守らなくちゃって……」
それでも、お母さんの全部を守りきれなかったから、今度はちゃんと全部を守りたい。
──そんな器じゃないってことはわかってる。けど……。
俯くわたしの視界に、誰かの足先が入る。
それからポンポンと、頭に置かれる大きな手。
「そうやってキミは、ずっと生きてきたんだね。そんな小さな体で……ずっと頑張ってきたんだね」
マクマクさんだった。
撫でられる頭に、更にずしりと何かが載る。
「これからはオレたちが守ってやんよ。っつーわけで、安心して守られてろ」
更に更に、遠慮がちに何か載っかる。
もうこれ、手によるホットケーキ三段重ねとかになっているのでは?
「自分ひとりで抱え込まず、もっと甘えてください。経営者、という立場も理解出来ますが、気を張らずにゆっくり自分らしく、ですよ」
旦那様たちからの温かい言葉。
ああ……。
わたしはこれがほしかったのか。
離婚して、母を泣かせる人たちから母を守って……けど、子供の力じゃ限界があって。守りきれなくて……。
ずっと幼心に気を張って。
でも、小さい心には、抱えきれないものだったのかもしれない。
わたしは、本当は守られたかったのか……。
自分で自分のことを紐解いた瞬間、肩の荷がどっとおりた。
抑えていた年月分の涙がとめどなく溢れて、手で拭くけれど、そのうちに顔が涙でベショベショになって拭くのを諦めてうわうわ泣いた。
もう、子供のように豪快に。
ひとしきり泣くと少し落ち着いて。そうしたらリフさんが紙袋を指さして「塩分補給」と笑う。
紙袋から取り出して、ぱくりと食べてみた。
塩パンだった。
塩しか入っていないシンプルなパンだけど、親しみのある、温かみのあるやめられない味。
なんだか……なつかしい味がする。
色々悩んでグチャグチャになったけれど、答えはいたってシンプルだった。
ゆるやかに自分らしくいること。
気を張るくらいなら、ちゃんと悩みを打ち明けること。そうすれば、悩んでいるときよりも、ずっと良い道を見つけられるのだと思う。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
マクマクさんが立ち上がったので、わたしも立ちあがろうとしたけれど。
ん? あれ? 腰が。
「ミハルさん。どうしたんですか?」
「あ……なんか安心したら腰が……ええと、腰が抜けたみたいで……」
は? と、リフさんが抉るようにこちらを見る視線が痛い。ですよね。安堵して腰抜けるとかって、変ですよね。わかってます。めっちゃ恥ずかしいです。
羞恥で動揺していると、「ほら」と、リフさんがわたしを抱きかかえた。
ほわっぁ!?
あまりに突然だったので、わたしは顎が外れるほどに大きく口を開いた。
「リ、リフさん! これは」
「だって、動けないんしょ。ならこれで帰るしかないじゃん」
「でも、大通りに行けば人の目が! 目がぁ!」
「っつか、シルスさんの面接のときに抱えられてたし、何を今更じゃね?」
「でも、でも……」
あわあわ落ち着きがないわたしの目の前に、スッと背中が現れ、わたしの動作がピタリと止まる。これは……シルスさんの背中?
少し前傾姿勢になっていて、頑張ればはりつけそうだ。
「リフさん。ミハルさんをのせて下さい。抱えられるよりは注目度は下がります」
「ひぇ」
これはまさか。おんぶというやつでは。
「ったく。ほらよ」
と、リフさんは、わたしをシルスさんの背中にはりつかせた。
リフさんの力ではりつかせられても、シルスさん、何もよろめかない。体幹がしっかりしてるのかな。まぁ、あんな蹴りが出せるのだもの。鍛えられていて当然よね。
「じゃあ、歩きますよ?」
ひとことわたしに断ってから、シルスさんはゆっくりと歩き出す。
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