頑張らないと……
シルスさんに声をかけて、再びキッチンへ戻ってくると、パンの焼けるいい匂いがより一層部屋いっぱいにひろがっていた。
そろそろかな。
ミトンをして窯を開けると、中には山型の食パンが二斤、ちょうどいい焼き具合でそこにあった。
焼けた食パンを切って籠に入れて、食卓に置く。
ちょうどそこへシルスさんもやってきて、朝食の時間となる。
リフさんが、食パンをちぎって口の中へ放り込むや、すぐさまキラキラした目で呻る。
「うまっ!」
「おいしいね。これなら店頭に並べてもいいんじゃないかな」
マクマクさんも一口食べて頷いてくれたけれど、わたしのほうは苦笑して首を横に振った。
「ううん。売り物にする予定はないんです。みんなと……か……家族と食べたかったから」
恥ずかしさに目が泳ぐ。顔に熱が集まる。
「これが、あなたの家族の味、ですか」
シルスさんが感慨深くパンを見つめているところ申し訳ないけれど、ちょっと違うの、とそえる。
「まだ何か違うの。わたしはお母さんの食パンを朝食に食べるだけで、作るところは見てないから、その……レシピがなくて」
そうなんだ。
わたしは母の食パンは食べる専門だったから、本当にわからない。何がどれくらい入ってるのか、とか。隠し味はなにか、とか。
他のパンは一緒に作ったりしたのに、肝心の家族の象徴のような食パンだけ、なにもわからない。
それがなんだか悲しくて。
みんなとちゃんとした家族になれるのかな、って不安になる。
そんなわたしに「楽しみにしてるね」と、笑いかけてくれるのはマクマクさんだ。
「でもまぁ、あんま根詰めるなよ」
リフさんは心配そうに苦笑して、シルスさんも頷く。
みんな、温かくて優しい人たち。
三人のためにも、お仕事も食パン作りもちゃんと頑張らなくちゃ。
それからのわたしは、今まで以上に仕事はもちろんのこと、食パン作りや家事なんかにも精を出した。
わたしは、いつもの倍の量の仕事をこなす。
お店に並べるための新しいパン作りの研究。仕入先ルートの開拓。お客様を満足させて経営を安定させたい。経営が安定すれば、収入も安定して、それがみんなを守れることにもつながる。そう信じて頑張っていた。
もちろん、母の食パンの再現にも挑戦していた。けれど、なかなか進展が見込めていなかった。
食パン、もっと色々加えてみようかな。
料理上手だった母のことだから、隠し味の二つや三つ入れていたのかもしれない。
そう思い、試行錯誤して作った食パンは、なんだかとても美味しくなかった。
「なんで……」と、悲しい気持ちになった。
「ミハルちゃん。どこに行くの?」
昼ラッシュに向けて、各自が仕事をしているときに、わたしは上着を着てカバンを持つ。
「……委託販売先を開拓してきます」
こねているマクマクさんが手をとめて、こちらへやってくる。心配そうな面持ちで屈み、わたしに目線をあわせる。
「これ以上量を増やしてどうするの?」
「利益は多いに越したことはないし、みんなのお給料も増やせますし。皆さんの負担にならないようちゃんと考えてますから」
「僕はそういうことを言ってるんじゃなくて、交渉とかは気力や体力を消耗するから、ミハルちゃんの身体が心配なんだ」
売り場のほうにいたリフさんもわたしのところにやってきて、少し腰を曲げてわたしに目線をあわせて、グシグシ頭を撫でる。
「あまり女一人で出歩くな。危ないだろ」
書類を持ってカウンターにいたシルスさんも心配そうだ。
「わたしがついて行きましょうか」
わたしは羽織物を肩から羽織り、微笑む。
「右騎士様の加護があるから大丈夫だよ」
そう言って、皆に「行ってきます」と頭をさげて、なかば強引に店を出た。
みんなを守るため、頑張らないとね。
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