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食パン

『実春、おはよう』

 母の笑顔とともに、食卓に焼きたての食パンが置かれる。

 毎日焼いて大変じゃないのかな。

 わざわざ焼くより、スーパーで買ってきたほうがラクで安上がりなんじゃないかな。

 こんな、わたしなんかのために……。


 そんなことを思ったときもあったな。



  





「ミハル?」

 キッチンの窓に、花とともに飾ってあるベビーリングが通されたネックレスを眺めてぼーっとしていたところを、リフさんに後ろから声をかけられた。

「どした?」

「あ、ううん」

 あのときと同様、キッチンの中は、食パンの焼けるいい匂いにふんわりと包まれていた。


 お母さんとの思い出がありすぎる食パンを作ることだけは、ずっとずっと出来なかった。

 パン屋を開店させても、食パンだけは作れなかったんだ。


 でも──。


 フライパンの中で、卵が焼ける音がする。ベーコンの燻された匂いが食欲をそそる。

「ミハルちゃん。目玉焼きできたよ」

 フライパンを傾けて、それらをお皿の上に滑らせてのせる。手際がいい。

「リフくん、フォーク準備してくれる?」

「ああ。ってか、サラダ準備してねぇじゃん!」

「わっ、そうだった!」

 笑い合う二人。

 何気ない光景が、日常が、温かくてとても眩しい。


 家族。


 みんな大切な家族だから、食パンが作りたいんだ。

 お母さんが作ってくれた食パンを。


「リフくん。朝食だから、シルスさん呼んで来てくれないかな」

「っす」

「あっ、わたしが呼んできます」

 わたしはパタパタと廊下に出て、シルスさんがいる事務室へと急ぐ。


 シルスさんが来てくれたことで、わたしは厨房や売り場にも顔を出すことができて、本当にありがたいことだなって思った。

 こうして朝ラッシュが終わると、みんなで食卓を囲んで賑やかな朝食の時間になることも定番になってきた。

 シルスさんは、出納の関係で、朝はどうしても事務室にこもるため、こうして誰かが朝食の声掛けをする。


 事務室の前に立ち、コンコンとノックをする。

 はい、と返事を聞いてから部屋に入る。

「朝食の準備が出来ました」

「ありがとうございます。この書類だけやってしまいますね」

 余裕の笑顔。書類をパラリとめくって、シルスさんは小気味よい筆音で書類を片していく。

 さすがは経験者。わたしなんかよりも効率的にこなしていく。

 いつも朝早くから夕方遅くまで、本当に頭が下がります。

 そんな彼の後ろにある窓で、ドサリと雪が落ちる音が聞こえた。

 わたしが驚いたように見えたのか、シルスさんが笑む。

「今朝は天気がいいですから、雪も溶けてしまいますね」

 振り返って雪景色を眺めるシルスさんを見て思った。

 事務机の後ろに窓があるのって、背中寒くなるよね?

 わたしはソファーに置いてある自分の羽織りものをシルスさんの肩にそっとかけた。

 シルスさんは、宝石のような青い目をシパシパさせて、わたしと羽織りものを交互にみる。

「これは……」

「あの。窓が後ろにあると背中が寒くないかなぁーって」

「……」

 な、なんかシルスさんが固まっている。

 ひょっとして失礼なことをしたのでは。

 いや、そもそも寒かったら部屋暖めますよね、普通。

 いたたまれない気持ちになって、「わたし、薪をとってきます」と言って、部屋を出ようとした。すると、シルスさんが立ち上がってこちらに来て、先ほど羽織らせた羽織りものを逆に肩にかけられた。

「薪はわたしがやります。あなたのほうこそ、身体を冷やすのはよくない」

 シルスさんとは、お互いの利益のために、このような夫婦のかたちになっている。恋愛感情というものは存在していない。

 でも……。

 シルスさんの真綿のような笑顔や、こうして羽織りものをかけてくれる手つきから、なんというか……妙に心臓がドキドキしてしまう。そして、いきなりの優しさにどうしたらいいのか戸惑ってしまう。


 パタンと部屋を出て、それから少しその場で胸をおさえる。


 近かったのに……嫌じゃなかった。

 ううん。思えば、マクマクさんやリフさんとも自然に会話をしている。なんだかいることが普通になって、安心してる自分がいる。


 これって、男性に対しての偏見がとれてる、ということなのかな?


 脳裏に三人が浮かぶ。

 わたしの旦那様、なんだよね。

 それでいて大切な従業員で。

 わたしの中で、ふたつの縁が一つに絡み合う。

 異世界人であるわたしのことを受け止めてくれる大切な旦那様で従業員の皆さんを路頭に迷わせるわけにはいかない、よね。

 経営者であるわたしがしっかりしないと。

 みんなを守らないと。


 わたしは、幼いなりに世間の偏見から母親を守ってきたつもりでいた。母親を揶揄する男子には文句を言ってきた。母親の笑顔をずっと見ていたかったし、貧しくても温かい家庭で暮らしていくのだと思っていた。信じていた。

 けれど、現実はそれを打ち砕いた。

 母親のいなくなった部屋は、寂しい。わたしの心の中は、母親で満たされて温かかったぶんぽっかりと暗い穴になってしまって……。


 ──だから。


 わたしにとっての大切な人を、今度はちゃんと守りきりたい。そんなふうに思うんだ。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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そして、いつも忙しい中「いいね」をつけて下さったり、ブクマを外さず継続して下さったり、評価をして下さったり、誤字脱字を教えて下さったり。

本当に感謝です!ありがとうございます(◡ω◡)


更新は毎週金曜日17時〜20時の間に行います!



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