わたし、この世界にいてもいいの?
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父親との離婚後、しばらくして母親が亡くなって。親戚がアパートの家賃や光熱費を出してくれて、わたしは食費を稼いでなんとか暮らしながら学校に行って……。そこで起きたまさかの異世界転移。
こんな話、頭がどうかなったんじゃないかと思われても仕方がないことなのに、旦那様たちは、それを真剣に聞いてくれた。
「この話は、右騎士様にもお話していません。ずっと、自分の胸の中に隠してきました。でも、これから皆さんと長くいることを考えると、ちゃんとお話しなければと思って……。その……信じる信じないかは皆さんのご判断にお任せするとして……ええと……」
カミングアウトしたくせに、変な言い訳を探している自分がいて、情けないやら恥ずかしいやらで胸が飛び出しそうで痛かった。
ああ、だめだ。不安定な感情で涙腺がゆるむ。
異世界と聞いて、皆のわたしを見る目が変わることが怖いんだ……。
裁きを待つ罪人のように、わたしは項垂れて言葉に詰まる。
「ミハルちゃん……」
びくっと反応するけれど、見上げるのが怖くて、固まってしまう。
ああ、顔をあげないとますます変な雰囲気になっちゃう……。だからあげなくちゃ……あげなくちゃなんだけど、うまく動かない。
ふわり。
そんなわたしの頬をかすめて、衣擦れの音が鼓膜を揺らす。
温かくて大きな手が、わたしの後頭部にそえられたかと思うと、そのまま引き寄せられて、気付くと誰かの胸にすっぽりおさまっていた。
驚いて、一瞬悲鳴をあげそうになったけれど、両手を口に持ってきて堪えた。
大丈夫……大丈夫。いい加減学習しなさいミハル。ここには怖い人はいないんだよ、と己に言い聞かせて、心の中でドキドキ跳ねる心臓を撫でてあげる。
わたしが心臓を撫でることに呼応するように、後頭部に触れている大きな手も、さわさわと優しく撫でてくれる。
ふわふわでさわさわ。
「……あ……」
こういうことはなかなか慣れていないけれど……でも……。
あったかくてちょっと……。
──気持ちいい。
わたしの強張った体がゆるんだのを確認してからか、わたしを抱き寄せる旦那様が、少し屈んでわたしに微笑む。
「安心して。僕達はミハルちゃんの味方だから」
チョコレートブラウンの優しい瞳……マクマクさんだった。
けれど、その優しさにわたしはうまく寄りかかれない。少し引っかかることがあるから。
「あの……でも」
わたしは戸惑う。口ごもって、でもせっかくカミングアウトしたのだから、やはり伝えたほうが誠実なのだろうと、なけなしの勇気をしぼり出して、彼と瞳をあわす。
「い、異世界からなんて、得体が知れなくて。その……気持ち悪くないですか?」
言った。というか、マクマクさんの美丈夫な顔が近くて、色々な意味で心臓が飛び出しそうだ。
そんなマクマクさんはというと。
目玉がこぼれ落ちそうなくらい大きく見開いて喫驚した。いや、そのあとに口元を押さえて「ふ」と、もらす。
今、笑ったよね。
「マクマクさん? わたし、何か変なことを言いましたっけ?」
「ごめんね。ミハルちゃんは、真剣に悩んでいたのに」
小さく笑っているマクマクさんに、わたしは口を尖らせた。
「そ、そうですよ。この世界の住人じゃないんですよ? 未確認生物ですよ、わたし?」
「うん、そこ。それ」
「?」
「逆で考えてみて。ミハルちゃんはこの世界の人に、得体が知れなくて気持ち悪いとかって思った?」
「あ、いえ……」
マクマクさんが頭をぽんぽんと撫でてくれる。
「そういうことだよ」
「っ」
わたしの瞳が見開かれて揺れた。
微笑むマクマクさんの表情からは、偏見の一欠片さえ見つけることはなかった。
純粋を具現化したような彼に、わたしの心がきゅうっとなる。
リフさんとシルスさんを見ても彼と同様だ。
両親の離婚という経験から、偏見の目には慣れていた。母の死で、学校が苦しかったし、居場所がないことにも慣れていた。
慣れてしまえば、学校では自分から求めなくなってしまった。求めなくなったかわりに、わたしの手の中に残ったものは、凝縮された男性への偏見。
幼い頃からの降り積もった怨嗟で、いつしか、自分が偏見の目をもつようになっていた。
この世界に来て、女性店員を募集していたのだって、男性への偏見と、あと、誰かと話したいという寂しさ。学校で、本当はそうしたかったという渇望。クラスのみんなに対して、もっと明るく会話をしてみたい。お母さんと話していたみたいに、多分みんなとそうなりたくて……現実はそうはならなくて。
でも、そんなわたしにマクマクさんやリフさん、シルスさんは温かくて、優しくて。
陽だまりのような日常をくれる。
色々な感情が、いっきにふきだした。
喉奥と唇が、言葉を発したくて震える。
わたし……。
わたし……。
零れ落ちる涙を拭うことさえ忘れ──。
「わたし、この世界にいてもいいの?」
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