静まれ心臓、両手は口に
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「すみません。お店の洗面室を借りても?」
「え?」
「お恥ずかしいことに、こちらへ来る途中、子供とぶつかってしまい、このように……」
と、ズボンを指差すと、たしかにジュースでズボンが濡れていた。うん、グレープはけっこう手強いぞ。
そんなズボンの染みから視線を上に向ける。
青い髪と瞳がとても印象的な男性だった。
まるで南国の海を思い起こさせるような鮮やかな青に思わず惹き込まれてしまう。
そんなわたしを見てか、彼は微笑む。
「少し水で洗いたいのですが」
わっと、そうでした。
「あっ、はい。シミが定着しちゃうと大変ですしね」
わたしも早く戻らないと色々な尊厳が大変になりそうだし。
「では、失礼」
そう彼が言った直後だ。急に、わたしの視界がぐわりと持ち上がった。
わたしの背中と膝裏に温かい肌感触がして、自分がいわゆるお姫様だっこをされていることに気がつくのに、そう時間はかからなかった。
「面接時間をずらすわけにはいかないので、少し急ぎます」
「ひゃ──」
悲鳴まったぁ!! 静まれ心臓、両手は口に。
何かの詠唱のように心の中で唱えて、わたしは口に手を置く。溢れ出しそうな悲鳴が、頬をプックリとハムスターのように膨れさせる。
ここで悲鳴をあげれば、列に並んでいる人たちが一大事だと勘違いをして、この人を傷つけてしまうかもしれない。
わたしが必死に堪えていると。
「体調のほうは大丈夫ですか?」
と、心配そうな面持ちでわたしを見下ろす南国碧眼の破壊力よ。というか──。
「知ってたんですか?」
わたしが男酔いをしていることを……。表情に出さないように頑張っていたのに。
彼は、少し申し訳なく苦笑した。
「はい。顔色がよくなかったので。それとは別に、何か悩みでもあるのでしょうか。少し表情が沈んで見えたのが気になってしまいました」
おおう。なんという観察眼。
話してもいいものか迷ったけれど、彼のやわらかい雰囲気ならば受け止めてくれるのではないかと思い、わたしは封印していた口をゆっくりと開いた。
「……実は」
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