4話 お兄様、結婚はいかがですか?
1〜4まで、読みにくいので書き直しました。
大筋は変わっておりませんが、少しずつ入っている話が後ろ側にずれて来てます。申し訳ありません
ルビナはそのままメイメルを連れて自宅へ帰った。
メイメルはひどく萎縮しているが、このまま帰すつもりはない。
なんとしても兄に合わせなければ。
ルビナはメイメルとガッチリ腕を組んで兄の書斎に向かって歩いた。
メイメルが震えた声をかける。
「ルビナさん、私やっぱり……」
「何も無体なことは働きませんから、安心してくださいませ」
「いえ、そんな事を心配しているわけでは……私、ご迷惑にならないかと」
「兄は迷惑がったりしませんわ。とびっきりの紳士ですのよ」
ルビナは落ち着かせるように満面の笑みを作った。
メイメルはその顔をじっと見つめ、それから頬を赤くして俯いてしまう。
「あの、もしかして」
「なに?」
「ルビナさんのお兄さん、てことは……とてもかっこいい方なんじゃないかって、私気おくれして……」
ルビナはびっくりして立ち止まったが、そこがちょうど兄の書斎の前だったので、そのままドアをノックした。
メイメルの今の発言はどういう意味だろう?
兄がかっこいいと何か問題があるのかしら?
ルビナの兄は、身長が高く、顔のパーツのバランスも良い。
ルビアと同じ茶色の髪と目だが、ルビナと違って全然平凡ではない。
そして商売でお付き合いのあるご婦人方はこぞって兄のファンを公言している。
彼女たちは、ルビナくらいの歳の子供がいるような方やお孫さんがいるような方達でも、兄の前に出ると少女に戻ったようにモジモジしたり、キャアキャア騒いだりするのだ。
これは黙っていたほうがいいかしら?
でももう、このドアを開けたら本人がいるんだけど。
ルビナはなんと答えるか悩んだが、それより先に返事と共にドアが開いた。
ドアを開けたのは兄の秘書だったが、眼鏡で陰気そうな彼を見てメイメルはあからさまにホッとしたように息を吐いた。
「入りなさい」
奥からかかった声に、メイメルはそちらに目をむけ、兄の整った顔を見た瞬間、気圧されたように、体を震わせた。
「お兄様、ルビナです」
「ああ、今日はパーティーではなかったか? 確か王子の婚約者選びを……」
兄は手元の書類を見たまま話だし、途中で顔を上げた。
そしてメイメルに気づくと、軽く首を傾げた。
「そのご令嬢は? 攫って来たのか?」
「お兄様、この方と結婚なさってくださいな」
ルビナは準備無しで本題を口にした。
隣のメイメルはビクリと体を動かし、ドアの取ってを掴んだままだった兄の秘書もハッと息を呑んだ。
兄はメイメルをじっと見て、頷いた。
「なるほど、いいだろう」
メイメルが絶句している間に兄はさっと立ち上がると、長い足でスマートに二人の前まで歩み寄った。
「私はこの家の長男でハルアー・オルーブという。よろしく」
そして手を差し出し、よくご婦人を悩殺している笑顔でメイメルを魅了した。
メイメルは驚いて声も出せない様子だ。
「この方はアリアカ伯爵家の令嬢、メイメル様ですわ。私と同じく十七歳です」
「ああ、それは素晴らしい。やはりお召し物や所作から上位貴族のお嬢さんだと思っていたが。素晴らしい。ルビナ、よく紹介してくれた」
兄は露骨にそう言った後、メイメルの前に片膝をついてひざまづいた。
「メイメル嬢、ぜひ私と結婚しましょう」
メイメルは状況についていけず、しかし兄から目が逸らせないようだ。
見るまに頬が真っ赤に染まっていく。兄の笑顔は若い令嬢にもきちんと効果を発揮するようだ。
ルビナは今まで熟女キラーかと思っていた。
「何か問題があるなら解決しますよ。私の妻になる方のためですからね」
兄は優しく囁いた。
メイメルは魔法にかかったように口を開く。
「あ、あの。うちは兄のギャンブルで没落寸前なので、私などと結婚されたら、ご迷惑を……」
「あのバカな借金か。聞いている。すぐに精算してあげよう」
「気にしないでください。うちはお金だけは沢山あるんです」
ルビナは付け加えて身も蓋もないことを言った。
兄は根気強くメイメルの前で跪いたまま、手を差し出している。
「どうして私のような、没落寸前の娘と結婚してくださるというんですか? ハルアー様は、あの、とても女性にモテないようには見えないのですが」
「そうだね、君も正直に没落のことを教えてくれたし、正直に行こう。私はね、母が商家の出で、父は金のために母と結婚したんだ。だが私はそれを悪いことだと思わない。貴族同士もやっていることだ。だが相手が商家だというだけで貴族からは下に見られる。そうするとできる商売の数や、信用についても色々言われてしまうんだ」
「わかります」
メイメルは正直だった。
「だから、私が上位貴族のお嬢さんと結婚できれば、その圧力も減るとずっと思ってきた。商売についてもだが、母に対する扱いも少しは変わるだろうと期待している。だが、私が商家の娘の子供ということで、やはり上位貴族のお嬢さんは私を相手にしてはくれない。デートするには良いとは言ってくれるがね。彼女たちは見た目の良い男を連れ歩きたがるから」
兄は一息ついた。
これはルビナも生きている上でいつも感じることだ。
ただルビナは前世が孤児だったから、兄よりは少しだけ、その疎外感に慣れていた。
「だから、申し訳ないのだが、どこかの上位貴族のお嬢さんが、何か金銭で問題を抱えるかどうかするのをずっと天に祈って待っていたんだ。酷いとは思うが、仕方ない。そのくらいのことが起こらないと、彼女たちは私のところまで降りて来てはくれないのだから。そのために私は運が向いてくるまで、懐に金を貯める事だけに精を出して来たんだよ」
兄は最後ににっこりと笑った。
「こんなことを聞いて、君が私と結婚してくれる気がなくならないと良いのだが。嘘はつきたくないからね」
メイメルはゴクリと唾を飲んだ。
きっと頭の中では、家族の顔が浮かんでいるのだろう。
兄の手を取らなければ、バカな兄のせいで両親や使用人、領民までもが辛い目に遭うのだ。
今、兄が正直者なことは証明されたと思う。
これが気に入らないと言われたらそれまでだが、だとしても、彼女は兄の手を取るだろう。
「はい。私、結婚させてください」
「ああ、ありがとう」
兄は彼女の手を握ると、スッと立ち上がった。
それから彼女の掌を両手で握りしめて持ち上げ、チュッとキスをした。
「これからよろしく頼むよ」
兄はとても嬉しそうに見えた。
メイメルも、お金の面での解決策が手に入り、ホッとしているようだ。
兄は決断したら、実行する人間だ。
結婚を決めたのだから、それに対して全力を尽くすだろう。
だが、それは付き合っていかなければわからないことだ。
一つくらいメイメルの不安を解消してあげようとルビナは口を開いた。
「お兄様、私にも責任のある話ですから、愛人などは作らないでくださいますね?」
「もちろんだとも。私は女性は一人で満足するタイプだ。メイメルと、そしていずれ生まれる私たちの子供だけを愛して行くと誓うよ」
兄はメイメルのことを気に入ったようだった。
メイメルはポッと顔を赤くして、兄に体を寄せるように近づいた。
ルビナはあとは二人の幸せを祈ることにした。
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