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3話 事情を聞かせてくださいな

ルビナは令嬢と腕を組んで休憩用に用意されていた部屋へ入った。

彼女は観念した様子で、ぐったりとソファーに座り込むと、

「本当にすみませんでした」

と頭を下げた。


ルビナは自分が狙われたわけでもないので、その謝罪を不思議に思った。


「大丈夫ですよ、きっと誰も気づいていないでしょう。でなければ今ここで平和にしゃべっていられるわけがありません」


そう言いながら、ドアのところに戻って外の様子を伺う。

誰かが追ってくる様子はなかった。


「ああ、本当に、一体なんてことを」

「何か事情があったのでしょう?」


「ええ、そうです」


「お話ししたいですか?」

「聞いてもらえるなら、吐き出したいわ」

「いいわ、話して」


ルビナは誰かをよんで紅茶を頼もうかと思ったが、やめておいた。

できる限り誰の印象にも残りたくない。

彼女の隣に座って、縮こまっている彼女を勇気づけるように背中を撫でさすった。



始まりは王子の婚約者が亡くなったことだった。


それによって空前の婚約破棄ブームが到来したのは、新聞でも報道されているので、庶民でも知っていることだ。


この国は娯楽が法律によって禁止されている。

その理由はルビナにはわからないが、前世でサーカスが一日しか公演させてもらえず、観客も王子とその護衛だけだったのだから、よっぽどのことだろう。


だから人々は全く楽しめることがない。

その中で唯一楽しめるものが新聞だ。


新聞紙がいくら面白おかしく掻き立てようと、新聞がこれは情報だと言えば、娯楽にはならないようだ。


そういうわけで、現在新聞では王子の婚約者の死亡が面白い推理ゲームに、新しい婚約者選びが、賭けゲームのように日々書き立てられている。


正直醜い行為にしか見えないが、それで楽しんでいる人たちは思いのほか多いらしい。


「それで、兄の婚約者も、破棄してしまったんです。それからが大変で……」


彼女の兄は、それからギャンブルにハマってしまったらしい。


「兄はとても気落ちしてしまって。それで、毎日夜に出かけるようになって。何日かはカードで勝ったと言って、ひどく酔って帰って、大盤振る舞いして、母や私に髪飾りやネックレスを買ってくれていたんです。それがある日、一夜にして、我が家の資産のほとんどが無くなって、最後には、家を売っても返せないほどの負債をおってしまいました。だからもう、我が家は没落するしかないのです」


ルビナはその話を聞いて、その兄はただ、ギャンブルをやるための理由を待っていただけではないだろうかと思った。

普段だったら止められる行為も、人が傷ついている時には止め難くなる。

今は仕方ない、放っておくしかない。そう言って皆んなが目を逸らしているうちに、同じように借金で大変なことになってしまったサーカスの仲間がいた。


でもそんなことを言ってもなんの意味もない。

ルビナはただ「大変ですのね」とだけ言って、慰めた。



「ええ、でも彼女に危害を加えようなんて、間違っているのはわかっていたんです。気晴らしだと理由をつけてギャンブルに出かけたのは兄だったんですから。でも私、あの人がこのまま兄と結婚して、兄の面倒を見てくれると思い込んでいたものですから、なんだか腹が立ってしまって」


やはり彼女の兄は性格に問題を抱えているのだろう。


もしかしたらその婚約者も彼女の兄から逃げる理由を何か探していたのかもしれない。


「ああ、あの兄をどうしたらいいのか……」


彼女はものすごく困っているようだった。

だけど話を聞く以外ルビナにできることはない。


ルビナは彼女をなぐさめて、そろそろ家に帰ろうと思った。


彼女の手を握り、手の甲を親指で撫でた。


ルビナが成金男爵家に生まれて、愛情深い母親から学んだテクニックだ。


悲しんでいる女性には、こうやって優しくするのが落ち着かせるのに効果的らしい。そして母親の優しい喋り方を真似て、彼女に語りかける。


「そうね、でも他にも方法があるわ」


にっこり笑うと、彼女はルビナの顔を惚けたように見た。


「復讐はやめて、嫁ぎ先を探しましょう。もし良い方にお嫁さんにしてもらえれば、少なくともあなただけは実家の没落からは免れますわ」


 彼女は驚いた顔をした。


「そうでしょうか?」


「ええ、そうよ。あなたの家は貴族なのだから、貴族の娘と結婚したい殿方はたくさんいらっしゃるわ。お金だけはある下位貴族の方だったり、貴族と繋がりが持ちたい商家の方だったり。後妻が欲しい方だったり。頭の良い方ならあなたの実家の借金もなんとかしてくださる可能性も高いわ。妻の実家がギャンブルの借金で潰れたなんて、気になる方も多いでしょうから」


「そうね、確かにそうだわ」


「皆んなに人気の王子様でなくてもいいと思えば、マシな人はいくらでもいるのよ。それに、優しい人であれば、後継を産んだ後は好きにしていいと言ってくださるかもしれませんし」


彼女はルビナの話で勇気付けられてきたらしい。

手に体温も戻ってきたし、頬もやっと色を取り戻して来た。


「ああ、そうよね。いつも友達同士で、あの人はダメ、この人はダメと言われていたけど、きっとそんなことはないわよね」


「ええ。優しい方はいくらでもいるわ。顔がいいだけが男の価値じゃないのよ。顔が良くても、悪い人は沢山いるんですもの」


そう、実際サーカスにいた顔のいい男は「声をかけて微笑めばいくらでも女はついてくる」と言って、とても誠実とは程遠い男だった。


ふと、ルビナは彼女の名前を聞くことにした。

揉め事に巻き込まれないように名前を聞かないほうがいいかと思っていたが、兄のことを思い出した。


ルビナの兄も、上位貴族との関わりが欲しくて、その辺りのご令嬢と結婚できないものかとチャンスを狙っていた。


出来れば初婚が願わしいとも。


「ねえ、私たち、私たち、自己紹介していないわね。私はルビナ・オルーブ、男爵家よ。あなたは?」


「メイメル・アリアカ。伯爵家の娘ですわ」


ルビナは伯爵家と聞いて、ニンマリした。

彼女は兄が求めていた令嬢の条件とぴったり一致している。


「あなた伯爵令嬢なのね、ではうちがお手伝いできるわ。うちの兄と結婚なさいませ。うちこそがあなたを救う成金男爵家ですわ」

読みにくかったので書き直しました。

読んでくださってありがとうございます!

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