大木戸犯科帳〜狙われる高齢者!子どもを思う親心に忍びよる悪徳不動産業者の魔の手!自宅の売却契約はクーリングオフ不可の罠!!〜
時代劇をよく観ていました。
ここは、大木戸町。
どこにでもあるような、ちょっと高齢者の人口比率の高い町だ。
ご近所付き合いもそれなりにある。
ちょっと古めかしいが普通の町だ。
おや、庭付き戸建ての家から誰かが咳き込む声がする。
ちょっと覗いてみよう。
「ごほっごほっ!」
「おとっつぁん、はい、お水飲んで」
「いつもすまないねぇ、おみよ」
「おとっつぁん、それは言わない約束だよ」
咳き込む老人は、彦次さん。
先日、傘寿の祝いを済ませたばかり。
その彦次さんの背中をさするのは、嫁に出した末娘のおみよだ。
まあ、五十過ぎだが、彦次さんにとってはいつまでもかわいい末娘に違いない。
ピンポーンピンポーン
晴れた午前中の光が満ちる彦次さんの家に突然の来訪者。
「あら、お客さんだわ。はーい」
おみよが玄関まで出てみれば、何やら見慣れぬスーツ姿の男。
「こんにちはぁ。今、お時間いいですかぁ?」
「あ、はい」
「ワタクシ、阿久大カンパニーと申しますぅ。不動産屋ですぅ」
やけにニコニコと愛想がいい。
あやしい男だと、世間の荒波に揉まれた50過ぎのおみよは思った。
「はあ。何の御用でしょうか」
「いえね、こちらのお宅を土地も含めて売っていただけないかと思いましてぇ」
「え、結構です」
「いえいえ、ちょっとお話だけでも」
「あの、今忙しいので、お引き取り願います」
「おーい、おみよ、お客さんか?上がってもらいなさい」
「お客さんじゃないわ、おとっつぁん。…すみませんけど、今ちょっと、鍋を火にかけている途中なので」
「あぁ〜、そうですかぁ。それでは失礼しますぅ」
あやしい男は、おみよが思うよりもあっさりと引き下がって帰っていった。
名刺も何も置いていかなかったので、おみよはそのまま男の事は忘れて、彦次さんの部屋へ戻った。
そして、翌日。
「おとっつぁん、本当に大丈夫?おはなと遊びに行くのはまた今度でも」
「いやいや、ずっとわたしの面倒ばかりでお前も疲れただろう。昼飯に握り飯も作ってもらったし、夕方まで遊んで来なさい」
おみよは、彦次さんの面倒をみるために実家に一時的に戻っている。
それを知った高校の同級生のおはなから、一緒に街でホテルランチをしないかと誘われていたのだ。
毎日、年老いた父親の面倒ばかりでは、おみよも腐ってしまうだろうと、彦次さんはおはなと出掛ける事を最初から強く勧めていた。
なあに、ちょっと肺炎をこじらせてしまっただけで、妻が亡くなった後も一人でこの家に暮らしていたのだ。
おみよが1日くらいいなくても、困ることはない。
彦次さんは、にこにことおみよを見送る。
おみよは、彦次さんを気遣いながらも、久々の友人との外出に、うきうきと舞い上がっている。
「そう?それじゃあ、何か買ってきて欲しいものある?」
「ああ、気をつけてな。…ああ、そうだ。街に行くなら、黒飴を買ってきてくれないか」
「わかったわ。桐島屋の黒飴ね。いつも通りに1袋買ってくるわね」
おみよが家を出て、しばらくすると。
ピンポーンピンポーン
誰かが訪ねてきた。
「こんにちはぁ〜」
知らない男の声だ。
「おみよ、は、出掛けてるか。
よいせっと、うう、はぁい、ちょっとお待ちを」
彦次さんが、ソファからゆっくりと立ち上がり、玄関へと向かった。
「あ、こんにちはぁ、おじいちゃん」
玄関には見知らぬスーツ姿の男が何がおかしいのか、ニコニコと笑って立っていた。
「ごほっ、ごほっ。はい、何でしょうか」
「こちらのお宅のご主人様でいらっしゃいますか?」
「はい、そうですが」
「こちらいいおうちですよねぇ。駅から近いのに庭までついてらっしゃる。素敵なおうちですねぇ」
「はあ、親から受け継いだ唯一のものですから、ははは。ごほっ、ごほっ」
「ああ、お体がどこか悪いのですか?」
「ああまあ、色々と。娘がいるから、面倒みてもらっていますが、何も返せなくてねぇ」
すると、男は嬉しそうに頷いた。
「娘さんはこちらにお住まいで?」
「今はこっちに来てくれているが、もう嫁にいってます。旦那を置いてわたしの世話をしてくれているのが、ありがたいけど、申し訳なくてね。ごほっ」
「おやおや。それならば、こちらのお宅と土地をワタクシに売ってくださいませんか?今なら勉強させていただきますよ。
結構な金額になりますから、娘さんにも喜ばれること間違いなしです」
立板に水のように、男が流暢に話し出した。
彦次さんは急に人生設計を持ち出されて困惑気味だ。
「いやぁ、急に言われてもね」
「それでは、これから微に入り細に入りご説明させていただきますので、あ、おうちに上がってもいいですか?」
「え?あ、ああ、お茶くらいしか出せないが」
「いえいえ、お構いなく。では、失礼します」
男はにっこりと笑みを浮かべると、「失礼しますよ」といいながら、ゆっくりと革靴を脱いだ。
「ごほっ、ごほっ」
「ええ、ですから今契約をしていただければ」
2時間後。
「ごっほ、ごっほ!」
「体もつらいでしょうが、ワタクシも辛いのですよ。契約をしていただけないと、今月の給料も出ない。かわいい娘にプチッキュナのお菓子も買ってあげられない」
さらに2時間後。
「うえっほぉ!うえっほぉ!ひーひー、はぁ、はぁ」
「ほらほら、この契約をすれば大金入るし、娘さんの世話もいらない老人ホームに入ることもできるんですよ。ほらほら、契約をお願いしますよ」
夕方の子どもたちの帰宅を促すメロディが、防災無線放送のスピーカーから物悲しく流れくる。
茜色の陽射しが差し込む居間で、彦次さんはソファに項垂れて座っていた。
「うう、もう、勘弁してくれ…」
「だーかーらー、おじーちゃん、きーてますかー?この契約書に書いてくださいよー」
「わ、わかった、書く。書くから帰ってくれ…」
昼飯も食べず、お茶だけを目の前に座る男と飲んでいた。
帰って欲しいと言うと、「営業ノルマのために、もう少しお話を聞いて下さい」などと様々な言い方で、帰ろうとしない。
肺炎をこじらせただけだといいながらも、彦次さんは入院前の体力にまで、まだ戻っていない。
いつもならば、決してしないような判断をしてしまった。
彦次さんが書類に手を伸ばす。
阿久大カンパニーの男がにんまりと笑みを浮かべた。
その時。
「ちょおっと待ったー!!」
庭に面した居間の両開きのガラス戸が、勢いよく開けられた!
「うわぁ!なんだお前は!」
阿久大カンパニーの男が身構える。
夕陽を背にした三つ編みの立派な体躯の男が仁王立ち姿で立っている!そして、朗々とした声を張り上げた!
絣の着物に袴姿だ!
「家人の不在を狙って、強引に自宅の売却をさせる阿久大カンパニー!貴様の悪行も今日限りだ!」
彦次さんは、疲れた目を見開き、男を凝視した。逆光で目をすがめたが、すぐに気がついた。
「あ、あんたは!ごほっ!」
「おう、とっつぁん、久しぶりだな。しぶとく生きてるじゃねぇか」
彦次さんはこの男を知っていた。
「よ、由蔵…!」
昔は木の枝のように細っこい体だったのに、立派になりやがって、年寄りの涙腺は脆いんだと一人呟きながら、彦次さんは袖で目元を拭った。
「な、何だお前は!」
「おうおうおう、見忘れたとは言わせねぇよ!この長い三つ編みの一族を!」
「はっ!まさか!」
阿久大カンパニーの男は、腰をあげて、逃げる態勢に入った。
それを見て、にやりと立派な体躯の男ーー由蔵は不敵に笑った。
そして、怒りを込めた声を張り上げた。
「おう、ようやく思い出したか。オレのじいさんの家に朝から晩まで居座り、自宅不動産の売却をさせたことを!あげくに、いいマンションを紹介しますだとお?
てめぇの言ってるマンションはあの吹けば飛ぶようなボロアパートのことか!
じいさんの持ち家を売却する不動産契約は、クーリングオフの対象にならないことを黙った上で、契約させたお前らの悪行、忘れたとは言わせねえ!
それになぁ、一人暮らしの高齢者が新しい住居を賃貸で探すことの大変な苦労をてめぇら、知った上であんな紙みてぇなアパートを斡旋した上に、月10万の家賃だぁ?
孤独死で事故物件になることを恐れて、大家が貸すことを渋ることぐらい、お前らお見通しだろうがよぉ!
そこにつけこんで、アパートは高くつくからと、訳あり格安戸建てを高額で売りつけようとしていたのをまさか、忘れたとは」
どん!と由蔵が片足を縁側にかけて、腹に響く声で叫んだ。
「言わせねえよ!!」
「そ、そんなことが…!」
彦次さんの顔が驚愕に歪む。
「じいさんが少しでもオレたちに金を残せればと、そんなことを望む気持ちがあったばかりに…!」
由蔵がぎゅっと拳を握る。
怒りを向けられながらも、阿久大カンパニーの男は悪びれる様子もなく、立ち上がると笑った。
「はははっ!被害妄想も悪化すれば、喜劇だな!だが、我々阿久大カンパニーでやったのは、ただの売買契約だ!法的になんの問題もないぞ!」
「てめぇらにねぇのは、道徳観念だろうが!体の弱っている年寄りの家に、飯も食わせねえで、だらだらと居座りやがって!
だが、残念だな…。お前らの悪行も今日までだ!
この町では、もう商売出来やしねぇぜ!!」
にやりと由蔵が笑う。
「ふ、ふん!まっとうな不動産売買の契約だ!お前に何が出来る!」
あくまでもただの不動産売買契約。家にも上がっていいと許可を貰った上で、入っている。
阿久大カンパニーに非はないと主張する男を由蔵を睨みつけた。
「お前らの社員は、全員覚えた。三つ編みのオレの一族が大木戸町に毎日張り付いていることに、気がついてないのか?」
「なっ!」
男の顔は驚きで一瞬口を開けたが、そういえばやけに三つ編みの住人が多いなぁと思っていたんだと、日常の謎が一つ解けてスッキリしたような顔になった。
だが、その顔はすぐに由蔵によって険しくなる。
「あまりにも長時間出てこない時は、近所の人たちと一緒に訪問している。ご近所さんの繋がりで、お前らの顔はもうバレているだよ!」
大木戸町に配置した全社員を全て覚えられたら、もう商売があがったりだ!
男はさっさと撤退することに決めた。
「くっ!」
だが、庭へ出るためのガラス戸は、由蔵が立ち塞がっている。靴が脱いである玄関へ戻る事も考えたが、背中を見せた途端に由蔵が捕まえにくるだろう。
違法性がないただの訪問による説明をしていただけだか、由蔵に捕まれば安全に解放されるのか、それすら危うい。
男は素早く由蔵の目の前に立つと、着物の襟を掴んだ。
瞬時に男はすっと体を落とすと、胸を合わせるように由蔵に密着した。由蔵がはっとした時にはもう遅かった。
由蔵の左足が男の右足で払われ、そのまま由蔵は背中から庭に落とされた。
由蔵はとっさに両手で頭をかばったが、背中を庭石で強打した!
「うっ!」
「なんて見事な大内刈りだ!」
彦次さんが驚きの声をあげた。
男は倒れた由蔵を避けるように庭へ飛び降りた。その一瞬の間に、由蔵は立ち上がり、肘をゆるく折り曲げた状態で両手を構えた。
「ふっ…まさか、逃げ切れるとは思っていねえだろう?」
「負けず嫌いを発揮するなら、別のところでお願いしましょうか。ワタクシは暇ではないんですよ!」
男は由蔵の袖の真ん中と襟を掴むと、右足を踏み込み、由蔵の右腕を上に上げるとそのまま目にも止まらぬ速さでくるっと回転した。
「ああ!一本背負いだ!」
彦次さんが悲鳴をあげる!
あんな美しい一本背負いの形になるのでは、由蔵も組み手を防げなかっただろう!あの男は投げながらそのまま由蔵の胸元から身を離さずに体重をかけて、地面に叩きつける気だ!
投げられてしまったら、由蔵は肺を強く打たれてしまい、身動きもできなくなってしまうだろう!
ああ、由蔵危うし!
彦次さんが一瞬で脳内ナレーションを流す。
しかし、次の瞬間、どこをどうしたのか、由蔵は男から右腕を引き抜くと、前に移動した重心を男が戻す前に、後ろから腰に両腕を回した。
そして、男の重心が定まる前に、由蔵は左手で男の右腕をつかみ、残った右手でベルトをつかんだ。
「うらあっ!」
由蔵が掛け声を放つと、そのまま男の体は後ろ側へ弾かれたように飛び上がり、なすすべもなく、固い地面へと叩きつけられた!
「ぐはぁっ!」
「なんて早さの裏投げだ!」
彦次さんが咳を忘れたように叫ぶ。
男が一本背負いを仕掛けたにもかかわらず、由蔵はありえないことに腕を引き抜き、さらには目にも止まらぬ早さで裏投げの体勢へと移行した。
そして、渾身の力で男を背中から庭へと叩きつけたのだ!
あの裏投げは幼少の由蔵に、彦次さんが教えた技だ。あれからずっと鍛錬を欠かさなかったことを技に入る動きからすぐに彦次さんは理解した。
「由蔵、立派になりやがって…」
彦次さんが涙を滲ませる。
由蔵は素早く身を起こすと、寝技に入らずに両腕をあげて組み手をするために構えた。
しかし、男は動かない。
これで決着かと彦次さんが思った時。
「うっ…」
うめき声を出した男が起き、ゆっくりと立ち上がった。
「おう、まだ大丈夫そうだな。さあ、かかって来いよ」
由蔵は片手を上に向けると指をくっくっと自分の方に折り曲げた。
再戦の誘いだ。
「ふっ、まだこんな男が日本にいたとはな…。だが、お前の相手をしている暇は無いんだ」
男は、スーツの内ポケットに手を入れると、取り出した名刺入れを庭に投げつけた!
あっという間に庭が煙で満ちる。
「煙幕だ!ごほっ!」
彦次さんが咳き込む。
急ぎ由蔵が煙の外に走り出るが、男の姿はどこにも見あたらなかった。
「ちぃ!逃げられたか!」
由蔵はスマートフォンを取り出し、仲間たちにグループ連絡で一斉送信する。これで、近くにいる三つ編みの仲間が警戒してくれるだろう。
由蔵は庭に戻り、煙の中から彦次さんを連れ出した。
彦次さんは慣れた様子で煙幕から出ると、庭の水道水で目と顔を洗い、口をゆすいだ。ふう、と息を吐いて近くのベンチに腰をかけると、由蔵の袖を掴んで問い詰めた。
「由蔵くん!吾郎蔵の親分は、大丈夫なのか…?」
「とっつぁん、あれは罠だよ。隠れ家の一軒だけ、売っちまったが、元々曰く付きの物件でな。暇潰しの相手になったからってさ。じいさんは政子のあねさんと一緒で、相変わらず気楽な隠居の身分さ。
まあ、ちいっとばかし、連中の手の内を見たかったから、相手したってのもあるが。」
「あ、ああ!よかった!よかったよ!ご、吾郎蔵の親分があんな若造に騙されるなんて、老後の蓄えを狙われるなんて、そんなことあるわけがねぇと…!」
「あたりめぇよ。とっつぁん、痩せたな。昔はオレのことをぶん投げていた腕も、今じゃ鶏ガラのようじゃねぇか。」
「てっ!由蔵!てめぇ、言うようになったじゃねぇか!」
「おっと、怖ぇなぁ、とっつぁん。まあ、元気になってくれよ。これは、じいさんからだ。」
「へぇっ!ご、吾郎蔵の親分が、こんな、ずいぶん前に足を洗わせて貰ったわたしに…!」
「隠居の身だから、大した額じゃねぇが、許せってよ。」
「じ、充分なものを。吾郎蔵親分にくれぐれもよろしく伝えてくれよ…!」
「おっと、年寄りの涙なんか汚くて見ていられねぇ。じゃあな、とっつぁん、元気でな!」
ぼろぼろと彦次さんが涙を流すのをさも見たくないというように、由蔵は三つ編みをなびかせて、颯爽と走り去った。
夕方の陽射しを浴びながら、彦次さんは嗚咽をこらえながら、泣き続けた。
日が暮れて、家のカーテンを閉めて回っていると、玄関のドアの開く音がした。
「ただいま〜、おとっつぁん、留守番お疲れ様。
体は大丈夫?」
出掛ける前よりも元気な様子のおみよが、紙袋をいくつも提げて彦次さんの体調を確認した。
彦次さんは、一寸考えるように間をあけたが、にんまりと顔に笑みを浮かべる。
「ああ、なんだか今日はちょいと具合が悪くなったが、その後は元気になったよ。」
「具合が悪いって…本当に大丈夫?」
「元気も元気、大元気さ。」
「あら、本当ね。なんだか顔の血色もいいみたいね。」
「久しぶりに昔世話になった人から便りを貰ったんだよ。」
にこにこと廊下のカーテンを閉めながら、おみよに答えた。
咳こむこともなく答える彦次さんを見て、おみよは納得したように相槌を打つと、持っている紙袋の内のひとつを彦次さんに渡した。
「へぇ、そうなの。はい、桐島屋の黒飴。」
手渡された紙袋には桐の紋の焼印がついた木箱が薄手の白い紙に包まれて入っていた。
「これは、桐箱入りの一番上等なものじゃないか!一体どうしたんだ、おみよ!」
「なんだかキツネにつままれたみたいなんでけど。
聞いてよ、おとっつぁん。若い女を連れた三つ編みのおじいさんが買いすぎたから、貰ってくれって。桐島屋の店の中で。変な話だと思ったけど、その場で買ったものだからあやしいものでもないし。一緒に行ったおはなちゃんも貰ったから…。こんな都合のいい話、あるのね。」
「ふっ、そうかい。その若い女は、実は50過ぎのおみよよりも年上の大年増なんだが…相変わらず若いままだなぁ。」
「おとっつぁん?」
「いやいや、なんでもないよ。大年増なんて言ったら、酷い目に遭う。ありがとよ。なんだか、元気になりそうだ。」
「変なおとっつぁん。」
おみよは笑いながら着替えのために部屋へと向かった。
彦次さんは、そっと桐箱を開けて、中の黒飴を一粒口にした。黒糖の甘さがじんわりと口に広がった。
その甘さを楽しむかのように、そっと目を閉じた。
まぶたの裏に浮かぶのは、若かりし頃の彦次さんと、吾郎蔵親分の姿だ。
今日も大木戸町は平和な1日を終えようとしている。
明日もきっと平和な1日に違いない。
[完]
お読みいただきありがとうございました。
ラジオで高齢者と不動産売買契約のトラブルを聴き、「こいつぁ、とんでもねぇ話だぜ…」と思ったことが契機に出来上がりました。詳しくは国民生活センターのホームページなどでご確認下さい。筆者はこれ以上の知識がありませんので、感想等で質問されても回答できません。(>人<;)