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嘘吐き・友情2

 場所を中庭に移し、姫芽は美紗と昼食を食べることにした。ちなみに手作りの弁当を持ってきている美紗に対して、姫芽は今日も購買のパンである。

 食事をしながらの会話とは、なかなか弾むものだ。食べ終わる頃にはすっかり仲良くなっていた。昨日まで会話をしていなかったとは思えないほどだ。

 二人は美紗が持ってきたクッキーをつまみながら、お喋りを続けていた。


「でも、私とお昼一緒で良かったの? 美紗ちゃん、一緒に食べる人いたんじゃ……」


 姫芽はペットボトルのお茶を飲みながら美紗に問いかけた。この昼休みで、姫芽と美紗はお互いちゃん付けで呼び合うようになっている。

 美紗は笑って首を左右に振った。


「良いの。私、いつもは部活の子達と部室で食べてるんだけど、皆来たりこなかったりするんだ」


「それなら良かった」


 ちなみに、美紗の部活は家庭科部らしい。元々別々だった手芸部と料理部が一緒になった部活だそうだ。何年か前に、部員が確保できずに同好会にされそうだった手芸部を、料理ばかりで部費が足りなくなっていた料理部が取り込んだのだと美紗がさっき話していた。

 今では手芸も料理もできる部活として人気で、部員増加に伴い部費も潤沢になっているらしい。


「あ、姫芽ちゃん。さっきクラスの人達と話してないって言ってたけど、もしかして文化祭のこと聞いてない?」


 姫芽は美紗に言われて、その行事の存在を思い出した。


「文化祭……そういえば、予定表にあったような」


「今週末だよ!?」


 美紗が目を丸くして驚いている。姫芽は困ったように苦笑して、肩の辺りの髪をゆるゆると指先で玩んだ。


「授業は聞いてるけど、休み時間はここにいたし……校内も見て回ってなかったから」


 高校生にとっては重要なイベントの一つだと思っていたが、転校したばかりでそれどころではなかった。


「そ、そんな顔しないで。うん、あのーそうだ! うちのクラスってなにやるの?」


「英国風喫茶だよ。保健所に届け出もしてるから、結構本格的なのできるって」


 美紗はそれから、出し物は夏休み前に決めていたことや、衣装は家庭科部の採寸にあわせて作ることになっていることなどを教えてくれた。部活動等で終日クラスに顔を出せない人以外は、接客と裏方でシフトが組まれるということだ。


「すごいね」


 姫芽が前いた高校は、ペットボトルのお茶をそのまま出したり、仕入れたアイスを売ったりするだけだった。調理にあたることを全て省いていたのだ。


「すごいねって、姫芽ちゃんもやるんだからね? 今週は午後が全部文化祭準備になるんだから!」


 美紗が勢い込んで言う。姫芽は僅かに俯いた。


「でも私、まだクラスに馴染めてないし……」


「そんなの、文化祭準備皆でやってたらすぐだよ!」


 楽しそうだと、思う。でもやはり、突然の転校生としてはなかなか受け入れられないだろうと、消極的な気持ちが強くなってしまう。ここ一週間の独りで過ごした時間が、余計にその気持ちを後押ししてしまっていた。

 今の姫芽は面倒臭い。姫芽はそう自覚しながら、どうにか笑顔を浮かべようと顔を上げた。そのとき、がさがさと誰かが近付いてくる音がした。


「……あ、やっぱりいた!」


 がさり、と近くの草が掻き分けられる。そこから、見たことがある顔が覗いていた。

 爽やかな笑顔に、遊ばせた茶髪。誰が見ても軽そうだと思うだろう外見の歩は、制服に草を付けてへらりと笑っていた。

 姫芽はじとりとその顔を見る。


「飯島くん、何してるの?」


「何って、姫芽ちゃんの顔見にー。あれ、美紗ちゃん?」


「ひゃっ、飯島くん……!」


 美紗が頬を染めて、突然現れた歩から目を離せずにいる。


「ひゃって何? かーわいー」


 歩はそんな美紗との距離を縮めて、美紗が持っていたクッキーをぱくりと食べてしまう。美紗はそんな歩に更に顔を赤くしてしまう。よく見ると、瞳が潤んできているような気もする。

 姫芽が歩を止めようと口を開きかけたとき、歩のシャツが後ろに向かって引っ張られた。しゃがんでいた歩はそのままがくんと尻餅をついてしまう。


「お、わ!?」


「……歩、止めとけ」


 歩を止めてくれたのは櫂人だったようだ。一緒に来ていたのならもっと早く止めてあげて欲しいと思ったが、口にはしない。

 美紗がくるりと背を向けて、深呼吸を始める。

 歩が座り直して、櫂人に文句を言っている、櫂人もその横に座って、呆れたような口調で言い返していた。


「園村くん。もしかして、何か用事あった?」


「──……いや。その……」


 姫芽が問いかけると、櫂人は若干居心地悪そうに視線を彷徨わせた。歩がそんな櫂人の肩をべしべし叩く。


「櫂人ってば、教室で姫芽ちゃんに話しかけたら困らせるだろうって。友達といるとこ邪魔したら一緒だよねー」


「……別に、良いよ」


 どうやら櫂人は、姫芽が教室を出るのを追ってきてくれたようだ。行動自体はどうあれ、教室で櫂人と話をするとなると目立って仕方ない。

 それなら、まだ美紗と話しているときの方がましである。姫芽にはどこが良いのか分からないが、美紗はどうやら歩のことを(恋愛的な意味で)意識しているように見える。そう考えると、四人で話すのも悪くないかもしれない。

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