08
バンっ、と。
立入禁止のドアが開いて、静かな放課後の屋上に、叩きつけるような音が響いた。
「小鳥遊……?」
「づぐもぐんっ……わだじっ、わだじぃっ!」
濁音だらけで何を言っているのか分からなくても、その顔を見れば何があったのかくらいはすぐに分かった。つまり彼女は……一世一代の告白に、失敗したのだ。
崩れ落ちる小鳥遊を、咄嗟に身体が動いて抱き留めていた。どんな言葉で、彼女をなだめたのかは分からない……ただ、その熱と震える肩を感じた瞬間、この小さくて脆い存在を守らなければならないと、それだけが頭の中を埋め尽くして。
「大丈夫だ、小鳥遊……お前の恋は終わってない。頼むから、消えるなよ。なあ……」
何度もそう呟いて、薄い背中を恐る恐る撫でて。そうして、なんとか連れ帰って来た教室で、泣き疲れた小鳥遊は眠ってしまった。そこでようやく落ち着いた俺は、自分が屋上に鞄を置き忘れてきたことに気付いた。
教室に眠っている女子を一人で取り残すのは心配だが、天気もあまりよろしくないから俺の鞄も捨て置けない。早足で屋上に行って、無事に鞄を確保した俺は、教室に戻って来て……中の様子を確認した瞬間、思わず扉の陰に隠れてしまった。
(いや、いやいやいやいや……?)
教室に、伊藤先生がいる。いや、それだけなら隠れる必要はなかった。問題は、彼が眠る小鳥遊の頭を、ひどく優しい表情で撫でていたことだ。可及的速やかに、ここを離れろと本能が告げていた。それなのに俺は、本能に逆らって一部始終を見届けてしまった。
伊藤先生は、指先でサラリと小鳥遊の前髪を掬うと、壊れ物にでも触れるかのようにそっと……優しいキスを、彼女の額に落とした。
「ごめんな……」
それだけを告げて、彼は教室を出ていった。慌てて隣の教室に隠れた、俺の姿にも気付かずに。
(それは、犯罪だろ……!)
いや、それは言い過ぎか?額は挨拶とか、親愛の印だからセーフか?いや、アウトだろう、たぶん。心の中で怒涛のようにツッコみながら、心臓は百メートルを全力で走らされた時のように早鐘を打っていた。
ズルズルと、足から力が抜けてへたりこむ。この、胸をのたうつ感情は、なんだろう。怒りか、悲しみか、やるせなさか。
「なん、で……ごめん、って何だよっ……どうして直接、言ってやらないんだよっ」
あんなにも、大切だって顔を、見せつけておいて。
「くそったれっ……」
吐き捨てた、吐き慣れない悪態が、かすれて教室の床に染みを作る。外には、雨が降り始めていた。
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