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05

 

「……これは、俺にはどうしようもない気がしてきた」

「えっ、九十九くんってば、どうにかしようと思ってくれてたの?」


 ヘーゼルナッツみたいに、丸くて甘い色をした瞳を見開いて、小鳥遊が振り返る。手には、いちごミルクのパック。昼休みと……それから時々、放課後に。すっかり、この屋上が俺達の集合場所になってしまっていた。


「知った上で放っておくのは……なんか、違うだろ」

「へえ、優しい人なんだ」


 からかうでもなく、純粋そうな瞳でそう言われて、ぐっと喉が詰まる。


「でもね、いいんだ。こうやって見てるだけで、幸せなの……こんなこと、言うようになるなんて思わなかったけど」


 彼女が言葉を口にするたび、甘いイチゴの香りがした。その視線の先には、伊藤先生がクラスの男子に混じってサッカーに興じる姿がある。今どき珍しい教師、だとは思う。彼がシュートを決めたり、楽しそうに笑ったりするたび、小鳥遊の輪郭が光に()き尽くされるかのように揺らぐ。泡になると言うよりも、この表現が近いと最近気付いた。


「……このままだと、君は消えるんだろう。想いを伝えるくらい、許されないのか?」

「そう、だね。でも、恋心を押し付けるのって……たぶん、愛ではないから」


 彼女の言葉は、いつだって謎掛けのようで俺には理解できない。


「九十九くんも、恋をすればきっと分かるよ」

「俺は、恋なんてしない」


 自分の口からこぼれた言葉が、意図していたよりもずっと冷たい響きで、柔らかい空間を傷付けたことに後から気付いた。



「……ごめんね」



 それは、俺が言うべき言葉だと知っていたから、今にも消えてしまいそうなクラスメイトから目を背けることしかできなかった。



 *




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