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第4話 キノコ狩りに行こ~よ!

【前回のあらすじ】クックとまったり異世界ライフの始まり始まり~。

 クックと山暮らしを始めてから数日が経った……気がする。


 時計がないから、正確なことは断言しかねるのだ。


 単純に眠りについた回数で判断しているので、数日という結論を出しているだけだ。


 ま、それもめちゃめちゃテキトーだけどな。


 何でって……困ったことに、ここには夜が来ないから。原理はさっぱりわからん。とにかく、ずっと太陽が昇ったままなのだ。


 ……ってことは太陽系の星なのかな? 人間が生きていけるだけの水も空気もあるみたいだしな。


 それに…………あーだめだ。これ以上の考察は無理そう。


 俺が地学の授業を真面目に受けてると思うかい? 至って普通に真面目に寝てるよ。


 なので、俺の繊細な体内時計はとっくに異常をきたしてしまったというわけだよ。


 それにしても…………することがない。


 スローライフ満喫してるっちゃしてるんだけど……ぶっちゃけ退屈。


 今はまだそんなに苦痛には感じていないけど……ふと疑問に思う時がある。


 ――本当にこれでいいのかな、って。


 そんな感じで、そろそろ何かしらイベントが起こらないかなぁ、と思っていた矢先――。



「ねぇタマキ、キノコ狩りしよ?」



 俺にここに残れと懇願しておきながら、終始ほったらかしにしている馬鹿猫が珍しく話しかけてきた。本日(適当)初めての会話になる。



「……それは俺の童貞を狩るってことで相違ないか?」


「相違ありまくりだよ! 最低っ!」



 そこまで言うことないだろ。俺だって何日(適当)もほったらかしにされたら、ボケたい衝動にも駆られるっての。


 ま、俺的に、一つだけクックのいいところは、下ネタ耐性があることだと思う。


 俺の周りには、顔真っ赤にして手で顔を隠すっていう至って教科書通りの反応をそのままやってのけるやつ、もしくはガチでドン引きするやつしかいなかったからな。どちらにしてもこのような元気な反応が返ってくることはなかった。


 会話に詰まったらすぐさま下ネタに頼り寄せたい俺としては、めちゃ助かる。


 あと、美少女と猥談をしているって状況が、なんか……いいんだよな。



「冗談だよ。……俺たち、もうそういうのも許した関係だろ?」


「勘違いされちゃうから、そういう意味深な言い方やめてよ!」



 言い方がいやらしいのはお前も大概だろ。



「……何が意味深なんだ?」


「それはその……タマキもわかってるでしょ?」


「いや、わからん。お前が今の言葉で何を想像したのか、是非ご教授願いたい」


「それは……えと……え、エッチしちゃった…………みたいな……?」


「ふーん……………………淫乱」


「やめてよお……!」



 こいつ、絶対マゾなんだよな。



「ま、弄りはこのくらいにして……そのキノコ狩りってのは?」


「一気に疲れた……。はぁ、文字通りキノコを採りに行くんだよ……」


「つまり、俺の解釈は間違ってないということ――」


「大間違いだよ! むしろよくそんな突飛な発想が思いつくよね……」


「それについていけるお前もお前だよ?」


「嫌だ嫌だ嫌だぁ! こんな変態と同類だなんて!」


「おいおい、山ん中だからって騒ぐんじゃない。静かにしろ」



 あー、俺の発言が全部強姦魔のそれに聞こえてきた……。



 ―――――



「タマキと話してたらどんどん脱線していくよ……。こほんっ、タマキもそろそろ猫じゃらしだけじゃ飽きてきたでしょ?」



 そうそう、ここでの衣食住についてあまり言及してなかったな。


 結論を先に言っとくと、山ん中の生活もそんなに悪いもんじゃないぞ。


 衣は……ちょっと不便してる。なんせユニフォーム一着しか持ってきてないからね。


 それは、クックが簡単な服を仕立ててくれたんだけど……その、下着の替えがな。


 お風呂も入れるし、洗濯も水洗いでやってるんだけど……そろそろ、な。


 住は、言わずもがな。寝床があるだけで充分だ。


 で、食だけど……食用猫じゃらしとやらで飢えをしのいでいた。


 これが何かと言うのは…………クックのみぞ知る。いや、だって頑なに作り方教えてくれないんだもの。


 最初はちょっと抵抗あったけど、食べてみるとどっこい、意外とおいしい。


 蜂蜜を塗りたくった麩菓子みたいな感じで、甘くてサクサクしている。


 それに、腹持ちが相当いい。ここに迷い込んでから一番の発見だと思う。


 ま、甘いものはいつまでも食べ続けられないってのは、みんな何となくわかるだろ?


 数日(適当)も食べてると、そりゃ飽きが来るってもんで……ちょうどそのタイミングだったわけだ。



「うん……確かにな」


「でしょでしょ?」



 でしょでしょ……って、俺が来る前からずっと、こいつは猫じゃらし食ってたんだろ? よく今まで飽きが来なかったよな。


 いや、クックがどのくらいここに暮らしているとか知らないけどさ。



「そのキノコはどこに生えてるんだ?」


「ここからちょっと行ったところに洞窟があるんだ」


「洞窟?」



 そっか、キノコだもんな。じめじめしたところに生えてそうな印象がある。



「そう。この時期になるとおいしいのがいーっぱい生えるんだ。たくさん採っておいて、冬に備えるんだよ」



 猫じゃらしだけ食ってたってわけじゃない……ってことか、なるほどな。


 あと、こいつなりに厳しい自然の中で生き抜くための術は心得ているらしい……それでもこいつが馬鹿って評価は覆らんけどな。



 ―――――



「タマキ、ここの道を左に行くともうすぐ洞窟の見える丘が見えてくるよ」


「……クック、そっちは右なんだけど」


「えっ……あ、あははっ、わかってるよ! 右ね、右! ……本当にこっちが右?」


「大丈夫か、お前?」


「大丈夫大丈夫! どっちでもいいよ! こっちこっち!」



 どっちでもいいことはないだろ。


 先が思いやられる……と心配しても、俺はただついていくことしかできないんだけど。


 山道には相当慣れているようで……クックはすいすい枝をかき分け、道なき道を進んでいく。


 いくら普段から走っているとはいえ、平地と起伏のある地形では、全く使う筋肉が違う……気がする。


 加えて、空気が薄いのだろう、呼吸も少しだけ上がってしまう。普通にしんどい。


 ……そんな不安を抱きつつ俺はだらだらとクックの背中を追いかけていると――。  


 

「ほら見て、タマキ! あそこに見えるのが洞窟だよ!」



 ふぅ、ようやくか。先々進みやがって。案内人としては向いてないな、こいつは。


 ……って、あれ?



「……俺の思ってる洞窟じゃないんだけど」



 洞窟って、岩に囲まれた、暗くて、じめじめしてて、コウモリとかいそうなところだよね?


 俺の見たそれは、木々がドーム状に盛り上がったもの。その内側から光が漏れ出ているのが、遠目からも見える。


 つまりそれは、通常洞窟とは呼ばれ得ないものだった。


 しかし、ただならぬ場所だということはわかった。


 不思議さ、非現実的さ、神聖さを孕んだオーラが、ここからでも伝わってくる。


 あー、俺って本当に地球ならざるところに来たんだな――と、本能的に確信した。


 ……きっと洞窟と呼ばれている大層な理由があるのだろう。


 その大いなる謎を解き明かしていく感じか……燃える展開じゃんか!



「あー、それは私が勝手に洞窟って呼んでるだけ」



 …………謎、もう解決しちゃったじゃん。つか、全然謎でも何でもなかった。


 忘れていた、ここは夢のようでも、あまりに夢のない世界だった……。


 

「それにあれ、、厳密には洞窟じゃないよ」



 もはやお前の思考が謎だよ! 



「いや、じゃあその呼び方やめろよ……ややこしいだろ」


「じゃあさ、タマキが名前付けたらいーじゃん』



 え、そーゆーのありなの?


 最初に発見した人の名前を付ける的なあれか……そういうことならどんな名前に――。



「まぁ、私は頑なに洞窟って呼び続けるけど」


「意味ねぇじゃねぇか!」



 ちょっとはしゃいだ俺の方が馬鹿みたいだ。



「でもさ、お宝ありそうって意味じゃ洞窟っぽくない?」



 こいつやっぱり、感覚でそう呼んでやがったな……。


 …………ま――。



「……意味わからんけど、言いたいことはわかるかも」



 何かいいことがありそうな予感は、俺の足をちょっとだけ軽くした……ような。



 ―――――



 ――あれからまた、どのくらい歩いただろうか。


 目的地の…………えーと……あー、もう洞窟でいいや、洞窟の目の前まで来た。



「到着! さぁてタマキ、感想をどうぞ!」


「……めっちゃ遠いよ!」



 俺、こいつが言ったこと忘れてないからな! ちょっと行ったところにって言ってたからな!


 そして、何でこいつはこんなに元気なのだろう。



「これで遠いとか、本当に男の子なの? ……キノコついてんの?」


「おい、最低だなお前」


「うわっ、ひどっ! そこまで言うことないじゃん」



 いざ自分が言われてみると、同じ感想が生まれるもんだな。ごめんよ、クック。



「はいはい。……この通り、ちゃんと付いてるよ」


「どの通り!? わかんないよ」


「お前、ここで俺に脱げってか?」


「いや、それはいい……仕返ししたかっただけだし」



 そこは引くのかよ……。あと、下ネタの仕返しとかいらないわ!



「それじゃあ気を取り直して……一狩り行こうか!」


「お前マジで怒られっぞ」


「……何で?」


「ごめん、こっちの話だ」


「もう、変なタマキ」



 ……思わずツッコんでしまった。


 ま、使い方としては間違ってないからな。


 あと、一応言っときますけど…………キノコ狩りですからね?



 ―――――



 洞窟は近くに来ると、いっそう輝きが増して見えるのだが……眩しいというよりは、ずっと目を開けていられる優しい光だ。


 それに、ここだけ木々の密度が高くなっている。一つの木造建築のように規則正しく、びっしりと。


 入り口は、人がやっと一人入れるだろうかというくらいの小さな隙間が一つ……。


 まるで、外からの異物の侵入を拒んでいるかのように――邪推だろうな。



「あ、忘れてた。洞窟に入る前に君にプレゼント……はいっ!」



 クックがポケットから取り出して渡してきたのは、小さな冊子のようなもの。表紙はまっさら、何が載っているのだろうか。



「……これは?」


「簡単に言うと、キノコ図鑑だね! まぁ、ちょっと開いてみ。見方、教えてあげるから」


「お、うん」



 クックに言われるがまま、エロ本の袋とじを開ける時のようなドキドキした心境で(なお、未成年のためそのようないかがわしい本に手を出した経験は一度もないが……)表紙をめくると、キノコの絵がでかでかと真ん中に描かれていた。


 その隙間には、小さい文字で何か説明書きが足されていた。幸い文字は俺でも読める。


 ……くっ。でも細かい字見てると、頭がむず痒くなってくる。勉強嫌いの弊害が――。



「最初に載ってるのは、イタイタシイタケだね。これ食べると、50%の確率ですんごい力に目覚めるよ」



 そっちの意味でイタくなるのか……胡散臭い……。



「右側に載ってるのはウットウシイタケだね。これを食べると、低確率でおしゃべりが止まらなくなるんだよねー」



 確かに鬱陶しい……てか、何で確率?


 でも、すごいな。いかにもファンタジーの世界設定ぽくない?



「いろいろあって面白いな!」


「面白がってるだけじゃダメだよ、覚えることはちゃんと覚えておいてね」


「……覚えること?」


「そうだよ、中には採っちゃいけないキノコもあるから」



 ……採っちゃいけないキノコか、いわゆる毒キノコかな。



「じゃあ、早く目を通して、私に返してね。……私も覚えてないから」



 ……お前なぁ。



「そういうことなら、もう一冊持って来いよな……」


「ないよ。私の手書きだもん、それ」



 ……はぁ。来るの間違えたか……これ。


 しかもよく見てみたら……キノコの絵が全部一緒なんだが?


 アイドルがみんな同じ顔に見えるのと同じ現象かなぁ? そんな本作るんじゃねぇよ。


 つーか、どうして小屋でぐーたらしてる間にこれを渡しておかないんだ、無計画も程があるだろ。



「……慣れだよ、慣れ! 採ってる間にわかってくるよ」


「お前に言われると無性に腹立つな、間違ってたら教えろよ」


「わかってるよ、まぁ、採った時点で多分取り返しつかないことになると思うけど……」


「……やっぱ今からでも帰っていい?」 

【ありがとうございました】

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