第3話 違和感
【前回のあらすじ】すっかり仲良くなりました。
眠りから覚めた後も、俺の夢のようなひとときは変わらず続いていた。
「タマキさ、貯蔵庫から食用猫じゃらし取ってきてよ」
…………これが夢なら、何て夢のないことだろうか。
「……貯蔵庫? それ、どこにあるんだ?」
つーか、食用猫じゃらしって何だよ。そこら辺に生えてるのと何か違うんだろうか?
「貯蔵庫は外だよ。それじゃよろしくね」
「嫌だよ、めんどくせぇ」
「よろしくねって言ったじゃん」
「何で俺が取りに行く流れになってんだ?」
「私が動きたくないからだよ」
「は?」
「難しいこと言ったかな? 私がぐーたらしてたいから、必然的にタマキが動くしかないでしょ」
……なんちゅうわがまま女だ。
「自分のことは自分でやる。……当たり前のことだろ?」
「君の当たり前を私にまで押し付けないでくれるかな? それにさ、君、私ん家でそんなにくつろいでおいて、その口ごたえは何なの?」
「口ごたえというよりは躾だな」
「屁理屈は聞いてないんだよ。てかさ、タマキって歳いくつ?」
「今年で17歳だけど」
「……タマキ、早く猫じゃらし取ってきてよ」
「は? 意味わかんねぇし」
「わかるよ。私年上だもん。年上の命令は絶対、これこそ当たり前でしょ?」
こいつ、年上なのかよ……まことに残念なおつむをお持ちで。
「年功序列はもう過去のものだ。その凝り固まった考え……お前、結構ご年配なんだな」
「私まだ19だよ……全然若いからね」
「ふーん、それじゃ猫じゃらしぐらい自分で取りに行け。……ついでに俺のつまみもよろしく」
「調子乗んな!」
「お前だって、さっき同じことを俺に言ったんだぞ」
「……いいから、さっさと取りに行けよ。住まわせてやってんだろ」
「お前のわがままで、こっちが残ってやってんだろうが。どっちかと言えば、俺はお前のそれはもう待ちかねた大事な大事なお客さんだぞ。ほら、もてなせや」
「タダで止めてくれる宿があると思うな! ……大人しく働けよ」
「よく堂々と宿なんて言えたもんだ。犬小屋とそう変わらねぇじゃねぇか。それに大人しく働くって矛盾し――」
「犬小屋? ……犬小屋つったかコラ」
「あーごめん間違えた……猫小屋だった」
我ながら巧いと思ってしまった。
「ふざけんな! ……私がね、どれだけ時間をかけて、この家を作ったと思ってるのさ!」
「……8時間くらいか?」
「子どもの工作じゃねぇんだよ!」
「はぁ、お前本当にうるさい。とにかく、俺は絶対取りに行かねぇからな。疲れてんだよ、俺。」
「何がそんなに疲れるって言うのさ」
「主にお前の相手だよ、クソニート」
……疲れてるのは本当。高校に上がってからというもの、休みなんてほとんどなかったからな。
投げ足りないとは言ってたけど、疲労は確実に蓄積しているのだ。
もちろん早く帰らないとはいけないけど、この休息の機会をフルに活かしたい。
「あとは……普通に試合疲れだよ」
「……試合? 何の?」
「野球の試合だよ。風貌からして何となくわからないか?」
「いや、さっぱりだよ……」
最近髪切ってなかったからかなぁ……。
坊主=高校球児って結びつかないものか? ……それこそ古びた当たり前なのかもしれないな。
「てか、やきゅう……イントネーションわからないな……やきゅうって何?」
……そっから?
「え……野球知らない?」
「知らない」
「……baseballは?」
「何それ、おいしいの?」
使いどころが違う気もするが……。
それにしても、こいつ本当に知らないのか……。ま、ずっと山暮らしだと知らないのも無理ないのか……な?
布教ついでに教えておくか。
「食べ物じゃないぞ、大食い競争じゃねぇんだ。野球ってのは、簡単に言うと……球を棒で打つスポーツだな。結構メジャーだと思うんだけど……」
「ちょっと待って、すぽーつ……って何?」
……こりゃ、どう説明したらいいの?
もっと大きなスケールから話してやらないとか……馬鹿だから、こいつ。
「スポーツってのはなー、地球っていう星で定着してる身体運動の総称でな、その範囲は広く――」
「待って。…………ちきゅうって、何?」
「お前、馬鹿だとは思ってたが……限度があるだろ。話が進展しないからやめてくれるか」
「だって、知らないものは知らないんだからどうしようもないでしょ?」
「自分の生きてる星くらい覚えとけよ、義務教育だろ……習ったよな?」
「やけに歯切れ悪いなぁ……。でも、知らないものは知らない」
「……ボケてるんじゃないよな?」
「……ボケてないよ?」
……さすがにシャレにならん。
これはあまり考えたくはないんだけど……ここは、地球ではないってことか?
それを立証することはできないが……ここが地球だという証拠もまたないわけで。
とにかく今は情報が少なすぎる、都合のいいように捉えておくのがモチベも保てるかな?
――ここは異世界! 俺はここで猫娘とまったりスローライフを満喫するのだ!!
……………………これで行こう。
【ありがとうございました】