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第28話 僥倖

【前回のあらすじ】年上合法ロリのピオーネちゃん。

 クックの話で意外と盛り上がったために、思いのほかあっという間に夜が更けた……。


 ピオーネは最初こそわかりやすく人見知っていたが、話をするにつれだんだんと打ち解けられた気がする。


 話してみると……この子は本当にいい子だよ、滲み出てくるもんいい子が。


 時折見せてくれる微笑は、とても愛くるしい。


 さて、体感的にはそろそろ寝るくらいかな……。


 それに、今日も昼からずっと歩きっぱなしだし、このソファがふかふかさと言い……いろんな条件が重なり、俺は今にも睡魔に負けそうになっていた。


 うつろな反応を繰り返していると、ピオーネも俺の眠気を察したようで……。



「あの……眠たいんですか?」


「あー……うん、結構。でも本題に入らないと」


「いや、無理しなくてもいいですよ。今晩はどうぞ泊まっていってください」



 そういや、今日は泊まる場所を確保していなかった。



「そっか、じゃあお言葉に甘えて」


「あ……では、宿泊の準備をしてきますので。ちょっと待っていてください」



 そそくさと立ち上がって、準備に向かうピオーネの背を見ながら、俺は少しだけ目を閉じた。



 ―――――



「……マキさん。……タマキさん。……えと、ぐっすり寝てるところすいません」



 ……目を開けると、目の前でロリお姉さんが眼前に立っていた。


 うっかり寝ていたのは俺なのに、なんだか気を遣っているようで少しだけ申し訳ない。



「むにゃ……あ、ごめん。すっかり寝ちゃってた……」


「いっ……いえいえ、謝らなくてもいいですよ」


「あ……うん」


「それより……えっと、ご宿泊の準備ができました。お風呂にします? ご飯にします?」



 ん? これってあの有名なやつ?


 ……乗っておくか。



「それとものやつで」


「えっ? それとも? ……えっと……あの……なんだろう……?」



 ……ごめんなさい。



「いや、冗談だよ。……じゃあ、お風呂にしよっかな」



 ……てか、食事まで準備してくれんの? 待遇が宿泊施設のそれなんだけど。



「あ……はい、こちらタオルと着替えになりますので……ではこちらに」



 ピオーネからそれらを受け取り、案内されるがままお風呂場に行った。


 脱衣所は一般家庭らしからぬ大きさで、大衆浴場を彷彿とさせた。


 造りこそ簡素で歴史を感じさせるものだが、大きさだけでなら立派な屋敷にあっても恥じないくらいではないだろうか。


 俺の想像はあながち間違ったものではなく、脱衣所の床を踏みしめるたびギシギシと音が鳴り、思わず顔を顰めてしまう。


 年季が入っているのに加えて、当分の間使われていないように見受けられた。


 脱衣所でやるべきことを済まし、立てつけの悪い風呂場のドアをこじ開けると、やっぱりちょっとカビ臭い。


 なんてところに案内しやがった、みたいな感情が若干表面化しそうになったが、不機嫌になるほどでもない。


 風呂場の明かりはいくつか壊れているようで、ところどころ暗くて見えづらい。


 しかし、今宵は月の明かりが強く、そこまで弊害というわけではないが、微妙に不気味だ。


 それらを除けば、一般的な家庭には有り余る立派な大浴場だし、風呂掃除も使うところに関してはきちんと手入れされていた。


 おそらく、俺が泊まることになって急ピッチで掃除をしたのだろうから十分すぎる出来だと思う。


 あまり文句は言わず、ありがたく使わせてもらうのがいいだろう。


 ……ささっと一通り洗った後、大風呂に肩まで浸かる。


 昨日入った露天風呂もなかなかのものだったが、こっちも負けず劣らず気持ちいい。


 ま、大して風呂マニアってわけでもないし、入れたらそれでいいのかもしれないが。


 それにしても一日一日が濃い。


 せっかく異世界に来たのだから、もっとまったりしたいものだ。


 それでも、心配なことはある。


 今思いつく中で一番深刻に考えているのは、ずばり時間だ。


 異世界に来て幾日……その間、あっちの世界ではどのくらいの時間が経過しているのだろうか。


 もし仮に、流れる時間が同じだとしても、悠長にはしていられない。


 地区予選はおよそ一カ月後……つまり、あと30日で帰らなければならない。


 欲を言えば、準備等々でもっと早く帰らないとならないだろう。


 でも、過ごした感想としてはそこまで悪いものではなかった。


 馬鹿な娘の馬鹿な行動に振り回されたり、馬鹿な娘の馬鹿な言動に甲斐甲斐しく突っ込んだり、いろいろ大変だ。


 それは元の世界ではとうの昔に失ったものだ。


 心の底では、この退屈ではない異世界がとても気に入っているのかもしれない。


 野球は確かに好きだ。


 それは紛れもない本物だ。


 もはや中毒といってもいい。


 でも、俺は強くなりすぎて……野球を愛しすぎた。


 俺より上手いやつなんてもはやいるはずがない。


 俺の球を打てるやつなんていない。


 俺の愛に誰もついてこれない。


 結果などわかりきっている。


 俺が出たなら、必ず試合に勝つことができる。


 そんな現実に飽き飽きしつつあった。


 だから、たとえ偽物だとしても俺はこの異世界にいたいという気持ちは募っていく。


 異世界は新鮮で、予想外で、前途多難だ。


 俺はそれを求めていたのかもしれない。ここにはそれがある。


 俺の欲求を満たしてくれるスリルがあるのだ!


 ……なんてな。こういうこと、考えちゃいけないんだろうな。


 大丈夫、一時の気の迷いだ。


 きっとお風呂でのぼせて、思考がふやけてしまっただけだろう。


 きっとみんな心配している。俺が帰ってくるのを待っているに違いない。


 なんせ俺がいないと、緒戦すら怪しいだろうから。


 つまらないことを考えたと少しだけ後悔していると、入り口からノックをする音が聞こえてきた。



「あのぅ……えっと、タマキさん。湯加減はどうですか?」



 ピオーネの声だ。



「あ、めっちゃ気持ちいいよ。最高の湯加減だよ」


「それはよかったです。……えっと、その……」



 しばらく沈黙が続いたが、何かいいことを話す予感がして黙っていると……ピオーネが再び口を開く。



「あ、あの! 私も入っていいですか?」



 俺は、瞬時に了承の旨を伝えた。

投稿遅くなってごめんなさい。

私にとっては、まだ日付が明けてないんだけどな……。

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