第27話 密会っぽいこと
【前回のあらすじ】あやしがりてよりてみるに、つつのなかひかりたり。
……背丈は俺の半分ほどしかなく、金髪に可愛らしいリボンをつけている。
とても端正な顔立ちで……童顔、かわいらしい子だ。
身長もドアの半分くらいしかなく、ドアの取っ手には手を伸ばしているようやく届くようだった。
そんな一言で表してしまえば……幼女が、くりっとした目をきょろきょろさせながら不審そうに俺を見て……。
「あのぅ……どちら様ですか?」
いかにも不安を抱えた頼りない声色……そりゃそうだよ、こんな夜中に大男が来ちゃビビりもするけど……。
「泥棒ですか? 取り立て屋ですか? ……それとも借金取りですか?」
うん、とりあえず悪い人なのは間違いないんだね。それに、取り立て屋と借金取りはほぼ同じだよ。
一言聞いてわかったけど……この子、人見知りなんだろうな。
俺は怯えさせないよう、できるだけ自然な笑顔で返答する。
「えーと、夜分遅くにすいません。友達の紹介で来たんですけど……」
「……あの、大きなお友達ってやつですか?」
「違います。……門番のポークさんって人から、連絡はなかったですかね?」
「あ……えと、ありました。……あの、何で知ってるんですか?」
「知ってるも何も……俺がお願いしてやってもらったからで……」
「えと……あ、怪しいです」
……どうやったら信じてもらえんだよ。言ってもダメなら、見てもらうしか……。
「……とりあえずこの紙を見てもらえませんかね?」
俺はポケットからクックにもらった紙取り出して渡すことにした。
幼女はそれを受け取って……こちらをちらちら上目遣いで見ながら、手紙に目を通すと……。
「あ……あの、中へ入ってください」
……えっ、いいの?
一体どんな魔法の言葉が書いてあったんだよ……。
……ドアが内側から引っ張られて、内なる光に直に触れる。
「えーと、お邪魔します」
内装は外装と何ら変わらない質素な雰囲気で、家具も最低限のものがあるだけだ。
その中でとりわけ目を引くのが一つ、立派なバーカウンターがある。
「あ……えと、とりあえずお掛けください……寒かったですか?」
「いや、あまり寒くは……」
「あ……えと、何かお飲みになりますか?」
「あ、そこまで気を遣わなくても大丈夫ですよ。突然押しかけて申し訳ないし」
「あ……ごめんなさい」
別に謝らなくてもいいんだけど。
それにしても、この子が本当にクックの友達なのか?
穏やかそうだし、何よりいい子そう……やっぱりクズはクックだったか。
カウンター越しに、俺と少女は向かい合う。
彼女は、小さな体をせっせと動かし、湯気が漂うコーヒーを注いで俺の前に出してくれた。
「……あの、あなたは……クックさんの子分の方なのですか?」
あの馬鹿は本当に何を書いてやがんだ!
「違いますね。俺はその馬鹿の……えーと、友達? ……いや、知り合いです」
「やっぱり……! えと、クックさんらしいというか……。あの……失礼しました!」
「いやいや、そっちが謝らなくてもいいですよ。悪いのはあの馬鹿ですから」
「いやいや、私の友達の無礼ですから……」
どうやら、クックの友達ということは間違ってなさそうだな……。
「……俺、灼ツ橋球葵……タマキでいいです。そっちのお名前も伺っていいですか?」
「あ……えっと、『ピオニ・フリンデルネ=フリンダラー』と言います。よろしくお願いします」
……長い名前。
「あ……うん、俺名前覚えるの苦手でさ、何て呼んだらいいですか?」
「あの……えと、町の皆さんは私のことを《ピオーネ》と呼んでくださいます。でも、あう……強制ではないので、どうぞご自由に呼んでいただいて構いません」
「……じゃあピオーネって呼ばせてもらいますね。よろしくお願いします」
「いえいえ……こちらこそよろしくお願いします」
……。
…………。
何、この幹事がいなくなって静まり返っちゃった気まずい合コンみたいな空気は!
あんまり話しかけるの得意じゃないけどな……おそらく待ってても、この子から話を振ることはなさそうだから……ちょっと頑張るか。
「えと……あんまりかしこまるのもよくないだろうし……普通に話してもいいかな?」
「へっ……あっ……もちろんです」
「んっ、ありがとう。じゃあそれで」
「あの……ピオーネはさ、なんでクックなんかと友達なの?」
「え……あっ、あの……どうして友達なのと聞かれましても……友達は友達であってですね……えと……友達って何なんでしょう……いや、ちがっ……んん~……」
……ごめん。いきなり失敗したわ。めっちゃ概念的な問題まで行っちゃったし。
「ああ、ごめんな。そういうことじゃなくって、どうやって知り合ったのかなって。いや、俺が見た限り二人は全然違う性格だからさ」
「あ……ごめんなさい、そういうことでしたか。えと……クックさんとは、親同士がとても親しくしていた縁で……小さい頃からよく二人で遊んでいたんです」
小さい頃って今も十分小さいと思うけど……。
「へぇ~、じゃあピオーネもお嬢様だったり?」
「いえ……そんなことはないです」
俺が話した感じ、育ちはなんちゃってお嬢様のあいつよりよっぽどよさそうだけどな。
「クックさんは今でも仲良くしていただいて……とても優しい方です」
その優しいクックさんはというと、君をクズと呼ばわりしてたんだけどね。
……これはチクってもいいのかな?
「ふーん。俺にはあいつが優しいとは思えないけどな」
「……いえ、クックさん……実は演技してるんです」
「……演技?」
あのネジがぶっ飛んだあれが? 演技⁉
「いえ……演技というか、あれが本当の彼女ではないというか……」
「話が見えないな……どういうことだ?」
「あの……えと、とにかく、彼女は変わってしまったんです」
「ふーん、変わったねぇ。昔のあいつはどうだったんだ?」
「……一言で表すとなると難しいのですが、次期町長にふさわしいお方でしたし、彼女もその自負はあったと思います。……今の彼女はよく笑うのですが……どうしても無理をしているように感じられるのです」
あれが無理して笑ってると……?
「もしかして何かあったとか?」
「……えと、彼女のお母様が亡くなられてからですかね……」
結構ありがちなやつだな。
「……確か私が九歳の頃ですから、ちょうど十年前のことですね……」
……えっ、十年前に九歳?
「……それより、ピオーネって十九歳なの?」
「……そうですけど、どうかしましたか?」
ひ~、やけにしっかりしてるなとは思ったけど年上かよ!
合法ロリだ!!
「いや……いいと思います」
やっと真打登場だよー!ここまで来れて本当に嬉しい!でも、こっからが頑張り時!





