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第22話 門番さん無双

【前回のあらすじ】クック、偉かった。本性はエラい馬鹿だけど。

 俺たちは、関所内の少しだけ広々とした部屋で、すっかり打ち解けあっていた。


 正直クックとの距離感を見直さなければならないのではないか……と、ビクビクしながらではあるが。


 国の王女様とかだったら、すぐさまへりくだるんだけど……町長の娘ってほぼ一般人じゃね?



「お前、何でそんな大事なこと隠してたんだ?」


「別に隠してるつもりはなかったんだけどね。別に教える必要もないかなって」


「そういうことは最初から教えとけよな……心臓に悪いんだよ」


「ははははっ! だからそんなにフレンドリーなのですね」



 今、大きな声で笑った門番さんは、『ポーク』という名前で、代々関所の門番を生業としている家系だそうだ。


 その関係もあって、町長一族とは大変親密な関係で、幼いクックの世話もしていたらしい。


 ……それにしても、これがフレンドリーに見えるのか?


 クックを取り巻く人間は、ちょっとおかしな感性を持っているのかもしれない……というか、少しおかしな環境がクックの現在の人間形成に影響したのかもな。



「なぁ、俺ってこのまま無礼講のまんまでいいのか? 今さら『不敬罪で処刑だ!』とかないよな?」


「なら、とっくにしてるよ」


「そうですな、普通ならばアウトでしょう。しかし、ククルス様のお友達ということであれば、問題にはならないのではないでしょうか?」


「ねぇ、俺たち友達なの? お前が金魚の糞のように俺についてくるだけだろ?」


「……不敬罪で処刑だ! こいつ、こっちが引いてあげた途端つけ上がりやがったよ!」


「何だよ、いつも通り接してるだけだろ?」


「あのね、親しき中にも礼儀ありって言葉があってね……」


「だから親しくも何ともないって言ってるだろ? ただ、数日一緒に過ごしたくらいで何言ってんの?」


「だったらもっと礼儀をわきまえなよ! 大体、数日一緒に過ごしたんだから……仲良くならないほうがおかしいよ!」


「それはお前が勝手に思ってるだけで、俺はお前に迷惑かけられっぱなしなんだよ」


「それはこっちのセリフだっつーの! ふざけてんじゃねぇ!!」


「いつもふざけてんのはお前だ。あとな、自分が偉いのが判明した途端、権力振りかざしてくるのやめてくれない?」


「振りかざしてなんかないし! 君だって私に容赦ないクセに!!」


「ははははははははっ!!!」


「「!!」」



 びっくりしたぁ……。この人の声でっかいし、響くんだよなぁ。



「二人とも本当に相性ピッタリに見えますぞ。……どうですククルス様、タマキ殿を婿に迎えられては?」


「あんたもふざけてんの? 誰がこんなやつと!」


「待て、それはこっちから否定させてもらう」


「タマキにそんな権利はないよ!」


「また変なこと言いやがって……病院で診てもらうか?」


「む~か~つ~く~なぁ!!!」



 はぁ、いつもの感じもだいぶ疲れてきたな……。



「……はぁ、それよりもポーク! 何で私に気づかなかったの?」



 よっしゃ、矛先が変わったぞ。



「……いくら町を離れていたからって、この町の中で最も重要な人物の顔を忘れるなんて、門番失格なんじゃないかなぁ?」



 ……煽ってんなぁ。権力どんどん行使してんじゃん、パワハラじゃん。



「その節は大変申し訳ございませんでした。ただ……町長のご息女ともあろうお方が、まさか猫耳をなぞ身に着けているとは……思わないでしょう?」


「うっ……な、何着けようが私の勝手だし!」


「そんなことはございません。ククルス様は身分相応の嗜みをしていただかなければなりませんから。……それに……ちょっとダサいですよ?」


「っ……」



 ……この人、いい性格してんなぁ。完全にクックを手懐けてるよ。


 そして俺が思うに、たぶんこの人最初からクックのことには気付いてたんだと思う。


 ……畳みかけるように、門番さんの攻めは続く。



「それよりもククルス様。今回の長期にわたる家出、町長……いや、あなたのお父上様はお怒りでございます」


「……まだ生きてんのかよ」


「残念ながらご健在であります。そういうことですので……申し訳ありませんが、ウィステリア家の者がお迎えに上がるまで、ここでお待ちいただきます」


「嫌だ」


「聞きません」


「あのね、まず私は家出なんてしてないから! ちょっと暇つぶしにキャンプに行ってきただけで大騒ぎしやがって!」



 ……こいつ、家出してたのかよ。どうして……?



「……それに、何でこんな殺風景な何もない場所で待たないといけないの?」


「何もないことについては否定いたしません。……が、本質はそこにはありません。ある日突然、何の言伝も残さず家からいなくなることは、家出と呼ばずなんというのでしょうか?」


「……知るかよ!」


「あなたをここで拘束する理由は、お父上様から『馬鹿娘が帰ってきた際には保護するように』との命が、既に町全体に下っておりますので」


「……あんた今、私のこと馬鹿娘って言ったでしょ。言ったよね! うん、絶対言った!!パパに言いつけてやる」


「それは家に帰ってからいくらでもすればよいかと……。どちらにしろ、今回絶対的に悪いのはククルス様ですよ」


「うっ……うるさい! 門番のくせに!」


「はいそうです。私はウィステリア家に仕える門番としての職務を着実に遂行しているだけでございます。あなた様ももうクソガキしてるような年齢じゃないのですから、そろそろ次期町長としての自覚というものを持ってもらいたいものですね。……それが家出娘とは……ご主人様も気苦労が絶えないでしょうな」


「うぐっ……」


「それに、さっきから我慢して聞いていれば何ですか、その言葉遣いは。はしたない、情けない、不甲斐ない。そんなことでは、恥ずかしくて道を歩くのも恥ずかしい。今すぐ直しなさい」


「……はい、ごめんなさい…………」



 あーあ、こいつ完敗してやんの。

ようやく門番さんまで……。結構道のりは長かったなぁ……。

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