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第20話 お前、近づいてから言うことでもなかったろ

【前回のあらすじ】仲いいの羨ましいぞ。

「ねぇ~! タマキ! 町が見えるよ」



 俺たちは完全なる下山を達成し、同じ高さに町の外壁を見据える。


 クックはさっきから猫耳をヒクヒクさせ、喜んでいるように見える。


 ……つか、何でそんな生き物みたいにヒクヒクする理屈がわからない。付けてるだけだよね?



「うん、見えるな」


「えぇ、リアクション薄くない?」



 おっと、反応がお気に召さなかったようだ。


 勘違いして欲しくないが、俺だって結構ウキウキしてたりするんだぞ。



「……町が見えてきたらあれでしょ?」


「……あれ?」


「あれだよ、あ・れ」


「……あれって?」


「あれだよ! ……恒例の」


「だから何だよ、あれって!」



 何で頑なに言おうとしないんだよ!



「お前の中での恒例を押しつけられても知るわけねぇだろ」


「……君は少し考えることを覚えないとね」


「お前にだけは言われたくないセリフだな」



 特大ブーメランにも程があるぞ。



「……で、あれって?」


「もちろん、『クックちゃんプレゼンツ町に入る前に知っておきたい講座~レッツ・クッキングッド!~』だよ!」


「よし、そんなの初耳だわ」



 つーか、知っておきたい講座なのか、料理企画なのか皆目見当もつかないんだが。


 でも、俺は色んな情報が欲しいわけで……山ニートの割に、クックは結構博識だからな。


 総評としては、耳を傾ける価値は充分にありそうだ。



「ま、聞いといてやるよ……どうぞ勝手に喋って」


「いちいち棘があるなぁ……まぁ、じゃあ始めるね」



 さて、講座とはどんなもんかな……?



「町の北側にあるスラム街には絶対に近づかないこと。……はい、これにて閉講でーす」



 ……。


 …………えっ?



「……それだけ?」


「うん、これだけだよ」


「……」



 短っ!!!


 どこが講座だよ! 馬鹿にしてんのか⁉



「……君、今私を心の中で馬鹿にしたでしょ!」


「うん、馬鹿にしてるのはお前だと思うぞ」


「ほら、馬鹿にしてるじゃん! 論点をずらさないでよ」


「黙れ、俺の貴重な時間を無駄にするんじゃない」


「はぁ? 無駄になんかしてないよ!」


「してるよ! ついでに、長話になると思ってちょっと入れた俺の覚悟も返してくれよ」


「それは君が勝手にしただけじゃん! ……むしろ、これ以上ないくらい情報量を絞った講座内容だったでしょ!」


「絞りすぎだ! はっきり言うけどな、内容が薄すぎてさっぱりだよ。いくら絞ってても、伝わってないんだから時間の浪費だろ」


「君って本当に面倒臭いよ……。君がちゃんと聞いてなかったことを私のせいにされても困るんだけど」


「じゃあもっと聞いてもらえるような講座をしろよ……」


「……もう! 損するのは自分なんだからね」


「今、時間を損したんだけどな」


「減らず口うるさい! 黙れ!!」



 ―――――



「それじゃあ、スラム街について説明するね」


「それは何となくわかるというか……あのスラム街だろ?」


「本当にわかってるの……? まぁいいや、多分想像してることはおんなじだと思うよ」


「でもさ、今更そんなに強調するべきことか? ま、やばいのはやばいだろうけど」


「うん、やばい」



 ……俺はクックとか言うやばい奴と一緒にいるんだけどな。


 そのクックをしてやばいか……。



「ふーん、どのくらいやばいの?」


「そうだね、やばすぎてこれ以外の情報は講座の内容に入れる価値すらないレベルでやばい」



 ……それはお前の怠惰が原因じゃないのか?



「ふーん……で、どんな風にやばいんだ?」


「まず、スラム街の人々は貧困層どころかお金すら知らない連中だよ。そもそも、暮らす家なんて一つもないし。彼らのご馳走は専らドブネズミの死骸と雨上がりの泥水だよ。で、もちろん犯罪も当たり前。いつも殺し合いばかりやってるから、あちこちで死体の腐臭がするよ」



 ……やばいな、聞いた限りではアレの世界を想像してしまった。



「それと、あそこは町の中にあるけれど……町じゃない」


「……ん、どういうことだ? 町なのに町じゃないって矛盾してないか?」


「正確に言うと、町から独立してる感じかな。町の人々は区別する意味で、そこを『街』と呼んでるんだ」



 なるほどな……ってややこしっ! 読んだ感じは一緒じゃんか。



「というのもね、かなり当分くらい前に……」


「かなり当分前って、つまりどのくらい前なの?」


「ねぇ、忘れちゃうからそういうのやめてくれない?」


「あ、わりっ」



 ……何でこいつ、ちょっとピリピリしてんだよ。



「……だいぶ結構前にスラム街に一人の王が生まれたんだ」


「王? 長じゃなくって?」


「そんな細かいツッコミは今はいいの! そいつは王を名乗ってるんだからそう呼んであげるのが優しさだよ」



 変なところで優しさの無駄遣いすなよ……。



「でね、そいつがそれまでバラバラだった街の連中を瞬く間にまとめ上げちゃって……」


「へぇ、そりゃすげぇや。カリスマ性があるんだな」


「それをいい方向に行使するならね。実際は、町の法律を無視して勝手に自分たちの法律を作ったり、それに基づいて犯罪行為を正当化したり、町側にいちゃもんつけて土地をぶんどったり……なかなかにやりたい放題だよ」


「……そんなことやられて、町の連中は文句いわねぇのか?」


「言わないね」


「即答? ……何でだよ」


「……この町の構造の問題になるんだけどね、町の周りを囲ってる立派な壁の真ん中に大きな門があるのが見える?」


「あぁ、見えるよ。俺の目にはマサイの細胞が含蓄されてるから、多分」


「まさい……? また意味不明なことを……」



 ……通じねぇのか、まぁ、そうだよな。



「えーと、あの正門から私たちは町に入るんだ。


「……そりゃそうだろ」


「いいから黙って聞いてて! ……正式にいうと、あそこは南の正門なんだよ」


「ん? ということは北の正門もあるのか?」


「大正解! 北、西、南、東の四方位に、それぞれ一個づつ正門があるんだ」


「……うん、それがどうしたってんだ?」


「町の南には貴族とか大商人とか富裕層が住んでいるんだ。そこから北進すればするほど、どんどん貧しくなっていくんだよ」


「ふーん、で?」


「興味なさそうな反応は萎えるからやめてくれないかな? ……それで今、スラムはどんどん南進してきてるから……探偵ごっこが無性にしたくなる年頃の君ならもう気付いたんじゃないのかな?」


「……被害を受けるのは貧しい人ばかりってことか」



 ……どの世界も世知辛ぇなぁ。



「……うーん、五十点! 君に探偵はまだ少~し早かったようだね。私の助手にでもなるかい? ほれ、日が暮れる前に口にくわえる猫じゃらしを採取してくるのだ、●トソン君!」



 こいつの助手の定義とは都合のいいパシリということらしい。


 ……ポンコツ探偵もどきの助手などまっぴらごめんなんだが。あと何で●トソン君知ってんの?



「お前、知ってることを話してるだけのどこが探偵なんだよ。推理なんて欠片もしてねぇじゃん」


「これが探偵じゃなかったら君、一体私はなんなのさ?」


「ただのマウント取ってくるうざい馬鹿じゃないか?」


「罵詈雑言が過ぎるよ……。情報収集も探偵の大事な仕事の一つだと思うけどなぁ」


「だったら別に、必ずしも探偵じゃなくていいだろ」


「それもそうだね」



 いや適当……。



「……それはそうと、残りの五十点だね」


「ふーん、ケチ付けられるんだったら言ってみ?」


「ムカつくなぁ……まぁ、補足するね。……一部には襲撃を恐れてか長い紙には巻かれよなのか知らないけど、自らスラム入りをする人もいるんだ。これが一つ。……ごめん一回深呼吸させて。舌が攣りそう……。」



 ……そんなに頑張らなくてもいいぞ、そもそも、お前にそんな役割求めてないから。



「んー、ありがと。それで、今から言うこっちが重要なんだ。……今、町に入れるのはこの門だけってこと」



 ……ん?



「……お前、さっきスラム街は北にあるって言ってなかった?」


「……君、察し悪くなった? 一晩寝たら脳筋キャラになってました、って感じの人?」


「うるせぇ。脳筋に脳筋っていわれる筋合いはねぇよ」


「はぁ? 私のどこが脳筋だって! 肉球で圧殺されたいの?」



 そういうところだよ……。



「私ね、タマキのそういうスカしてるのさー、こう……胸がザワザワするんだよねぇ」



 素直に嫌いとかでいいよ、そこは。



「いいから続き、まとめて」


「んんっ……わかったよ。……つまり、今や北だけじゃなく東西の門もスラムの勢力下ということだよ。スラムがやばいこと……わかってくれた?」


「ま、ちょっとは」



 ……これから行く町はスラムがやばすぎて町滅亡の危機らしいです。

何とか20話まで投稿しました。

ありがとうございます!

明日も頑張っていきましょう。

私も頑張ります。

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