第19話 次の日の午後
【前回のあらすじ】一区切りついたんだ……。
……俺たちは、亀の歩みで町へと続く道を進んでいた。
山中の道のりはアップダウンが激しくただでさえ平地より体力を持っていかれるというのに、クックがだらだら歩いている姿を見ると俺まで疲れてくる。
「ねぇ、タマキ……私帰りたくなってきたんですけど」
お前は旅行地についた途端帰りたがる三歳児かよ!
「お前がついてくるって言ったんだろうが!」
……ついつい口調も尖ってしまうのには、疲れと……もう一つ理由があった。
無事に出発したのはいいんだけど……俺はとてもイライラしているのだ。
というのも、クックが日が傾きはじめるくらいまで惰眠を貪っていたのだ。
昼くらいにようやく起きたと思ったら、俺が空腹に耐えかねて作った料理とは言い難い昼飯みたいな何かを何の遠慮もなく食い散らかした後、水分補給とトイレを済ませてもう一度ベッドに入ってしまった。
自分から早起きしろって言ってたクセに……どうしてただついてくるだけの馬鹿にこんなに振り回されないとならないのか?
……ま、ずっと待ってた俺も俺だけどな。
清々しいぐらいに不言実行を貫いてくる姿勢は、こいつの唯一といってもいいブレない部分じゃなかろうか。
怒りに任せるというのは簡単だが……かくいう俺も、朝方はありえないくらい体が動かなかったのだ……もちろん眠いというわけではなく。
特別痛みがあるというわけではないのだが、とにかく全身が石化したような感じだった。
朝起床のだるさには慣れてるつもりだったんだけど……こんなことは初めてだ。
理由は……昨日の投球だろうな……それくらいしか思い当たらない。
威力の代償だとはわかっているけど……悔しい!
先発ピッチャーが一球投げただけでヘバるとか……ありえない、屈辱だ。
練習試合は5回コールドばっかだったから……それにしても、最近はブルペンにも入ってなかったし……スタミナ不足は否めない。
……詰まるところ、最大の原因は……俺の甘さだな。
そんな思いもあり、起床後のストレッチと筋トレはいつになく気合の入ったものとなった。
一方で、あんなすごい球を投げられたことに自分自身感動していたのも事実だ。
あの球をもう一度投げたい……その思いが俺の心を鷲掴んで離してくれない。
今は消耗が大きすぎるけど……もし、あの球が何球も投げられるようになったら……いいね、最高だ!
俺にはまだやるべきことがたくさんあって……伸びしろがあるんだってことがわかっただけでも、身体への異常という対価を払った甲斐はあると思う。
―――――
山を下り始めてからというもの、未だに俺の視界に入る景色にあまり変化はないけれど……クックによると、順調にいけば日が完全に陰るまでには着くそうだ。
「……ねぇタマキ、ただ歩くのって暇じゃない?」
「……お前さ、集中力なさすぎじゃね?」
「歩くのに何の集中力がいるって言うのさ?」
「何というかさ、散漫なんだよ。山ナメてたら、痛い目見るぞ」
「それを山暮らしの人間に言うなんて……君こそ、私のことナメてるでしょ」
「ナメてるよ、そのくらい察せねぇの?」
「……私のことナメてたら、痛い目見るんだから」
「見ねぇよ。むしろナメてないと痛い目見るよ」
「は? それはいくら何でもふざけすぎてるね」
「ふざけてないよ、お前を間違っても信頼なんてしてみろ……ろくでもないことになるに決まってる」
キノコ狩りだって、死ぬ思いだったし……あれは、俺もちょっとは悪かったけど。
「決めつけないでよ! 君、私が家に連れて行った恩を忘れたわけじゃないよね⁉」
「そもそも記憶にございません」
「ムカつく! もう助けてやんないんだから」
「お前、俺に助けられてばっかりのクセによくそんなこと言えたな」
「た、君に助けられた覚えなんて……あった」
こいつ、素直なところあるのに……本当にもったいない馬鹿だ。
―――――
「タ~マ~キ~お腹空いた、お腹空いたよ。このままじゃ私飢えちゃうよ」
「俺に言われても困るんだけど……食用猫じゃらし、持ってきてないのか?」
「全部食べちゃった」
「おう、じゃあ我慢しろ」
「我慢できないから言ってんじゃん……。責任持ってどうにかしなよ」
「いつから俺に責任が発生したんだ?」
「たった今発生したの」
……うざすぎる。
「……お前、自給自足って言葉知ってる?」
「ん? そんなの知ってるに決まってるじゃん、馬鹿にしてんの?」
常々馬鹿にはしていると宣言してるじゃん……。
「……じゃあさ、自分の食い物は自分で調達するってのが普通なんじゃないか? 森に暮らしてるんだからさ」
「……うん、そうだね」
「あと言っておきたいのは、我慢してるのはお前だけじゃないってことな。俺だって腹は減ってるんだよ」
「……はぁ、そう……」
「だから、何か食べたいならお前が自分でどうにかすべきだ。……ついでに俺にも何か採ってきてくれ」
「……君、やっぱろくでもないやつだよ」
お久しぶりです。
第2章、楽しんでいってね。





