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第1話 不思議そうで別段そうでもない出会い

【前回のあらすじ】痛いの痛いの飛んでけー。





 ――あれ。



 ……俺、死んだのか?


 ということは、ここは天国? ごーとぅーへぶんしちゃったの⁉︎


 ……いや、地獄だろうな。安易に天国に行けるなどと思うなかれ……俺はそんなにいいやつじゃない。


 それに、天国に行けると思ってて地獄に落ちるのと、地獄に落ちると思ってて天国に行くの、どっちの方が気持ちの持ちようとして楽か、わかるだろ? ……そーゆーことさ。


 まとめると、常に最悪のケースを考えて行動するってのが俺の信条だってこと。ま、たいていは考えすぎってオチが多いんだけどさ。



 さて、地獄に落ちたにしては……居心地はそこまで悪くない。


 俺が根っからの極悪人だったなら、しっくりくるんだけどなー。


 天国に行けるほど善行を積んできたわけでもなく、かと言って地獄に落ちるほどの悪行を犯したわけじゃない――こーゆーやつって、死んだ時結局どこ行くんだろうね?


 それを踏まえて、俺はもう一つ思いついた方を信じることにした。


 俺は十中八九まだ生きている、そう思うことにしたのだ。


 もちろん、断定してしまうのは早計だろう。


 人は他人から認証されることによって初めて存在することができるらしい。


 換言するならば、俺が生きているという存在証明を誰かがしてくれなければ、俺は存在していることにはならないということだ。


 俺、一匹狼だから――とか抜かしてる人だって、結局は他人から認証された上でこの世界に存在できているわけで……単なる友達を作れないぼっちの言い訳に過ぎないというわけだ。


 ……そんなつまらない持論を展開している場合ではなかった。ちなみに俺のことではないぞ、えぇ決して。



 さぁ、話を戻そうか。


 とりあえず俺が今すべきことはと……ま、自分の置かれている状況の整理かな。


 まずは、現状何もしなくても入ってくる情報から処理していこう。


 その①:沈み込むような柔さと何かが覆い被さってる感覚……ベッドの上にいて、覆い被さってるのは掛け布団――。つまり、俺は寝かされている……ということかな?


 そうだと仮定すると、ずいぶん考えやすくなるな。自分の部屋か保健室、もしくは病院か……?


 ここで、その②:――にしては、外から吹き込む風から濃い緑の香りを感じる。


 俺ん家も学校もここまで風通しよくないし、病院にしてはやけにその匂いが強すぎるような……ここらの山の中に病院があるなんて聞いたことないしな。……うん、不可解だ、保留!


 気を取り直して、その③:――幸い、体は今すぐでも動かせそうだ。


 スポーツマンともなると、こーゆー部分においては敏感になるんだよ。職業病だな、まだ稼げてるわけじゃないけど。


 結論:だとしたら簡単、自分で動いて情報を集めれば万事解決。――ということで、俺自身は非常に脳筋チックな決定をした。あんまり考察意味なかったな。


 それに基づいて、体を少しもぞらせた直後――


 

「お、やっと起きた?」



 !!!


 ……お、女の声? つか誰かいたのかよ、気配なさすぎじゃね?


 ま、人がいるってことは俺が生きてるってのはほぼ正解だろうな(←この男、単純である)。

 それがわかっただけでもオーケーだ。


 そんな感じで安堵しきった俺が、ゆっくりと両の瞼を開くと――。


 …………ほぉ。


 整った顔立ち、左右均等に結ばれたツインテ、反り返った尻尾に……猫耳を装着した美少女が、俺の寝起きでだらしないであろう顔を覗き込んでいた。


 美少女は笑顔で、耳に心地よいボリュームと優しい音色で――。



「おはよう」



 ――そう言った。


 ……。


 …………か、可愛い。


 それしか、思い浮かばなかった。


 そんなことで頭の中が埋め尽くされてしまうほど……超俺好みのケモ女子が、俺の眼前にいたんだ。


 ハッ――何言ってんだ俺。……俺ってケモ女子が好きだったの? そんな設定あったの⁉︎ もしくは、め、目覚めてしまったのか……この一瞬の間に。



「……お、おはようございます」



 俺は内心内乱状態ながらも、極めて模範解答の返事ができた。でも、そうしたくてそうなったわけじゃなくて、これは反射的なもの。いまいち役に立たない体育会系の習性が、ここで見事に役に立ったというわけだ。


 美少女は作り込まれた芸術品のような微笑みを微塵も崩すことなく――。



「よく眠れた? ごめんね、私のベッド、あんまりいいものじゃなくって」



 ――こう続けた。


 ……何だろう、特別なやり取りなんて一つもしてないのに――何でこんなに気持ちがいつまでも落ち着かないんだ……?


 いやいや、いいベッドだなんてそんなの気にしなくていーのに。


 つーか俺、この子のベッドでずっと寝てたのか……申し訳なさと背徳感がすごいというか――どうも、ありがとうございます!



「あっ、大丈夫……です」


「私の名前はククルス!」


「へっ?」



 唐突に自己紹介⁉︎ 思わず変な声出ちゃったよ。



「《クック》って気軽に呼んでよ!」



 いやいや、展開速すぎん⁉︎ 一気に距離縮めに来るじゃんこの子。ま、俺としてはすごい助かるけどさ。


 つか、この子の名前、外国の方なのかな? 日本語めっちゃ上手いじゃん。



「あ……えっと、灼ツ橋球葵です」


「へー、君にも名前あったんだ」


「いや、あるでしょ」



 思わずツッコんじまったよ。……ま、ま、わかるよ、名前があることが当たり前だと思っちゃダメだよってのは――うん、無理があるな、このフォロー……。



「それにしても難しい名前だね、やつはし……たまき●?」



 ……ちょい……その発言、女の子として大丈夫なの?


 つか、その呼ばれ方、まじで小学生以来でびっくりしてる。もしかしてこの子――。



「違います、球葵です」


「どっちでもいいよ、君の名前なんて微塵も興味ないから」



 あー、やっぱ一癖ある子だったー……しかも悪い方に――。



「あの……俺もあなたの名前なんて聞いてないんですけど」



 ちょっとカチンときて、俺も強めの口調で反論してみた。わかりやすい煽りだけど――。



「は? 君の意思なんて知ったこっちゃないんだよ。私は君に貸しがあるんだから」



 乗ってくるのかよ!

 しかも他人の言うことは全無視、自己肯定100パーセント。こーゆータイプ、俺の拙い経験上でも判断できる……間違いなく面倒。


 つーか……。



「あの……貸しって何ですか?」


「あー、君は知らなくても無理ないか。知らなくても」



 ……いちいちムカつくな。



「君が倒れていたところを拾ってあげた上に、私のベッドまで引きずってあげたんだよ」



 おい、雑じゃねぇか! 扱いが!



「だから、私は君の命の恩人というわけだよ。つまり君はもう私のモノってことさ」



 引きずっておいて恩人気取りかよ。ずいぶん自分中心に偏った考えをお持ちのようだ。


 しかし、お礼の言葉も言えないほどに俺も腐ってはいない。



「そうですか、ありがとうございます。……では」


「ちょっ……私の話聞いてた? 君は私のモノだって言ったよね⁉」


「そう言われても俺、家帰るんで。つーか、今何時ですか?」


「君、結構強情な子だね」



 お前がそれを言うのか。



「今はね……お昼だけど」



 いや、太陽出てるから……燦燦してるから。



「そんなことくらいわかるんですけど」


「……ねぇ、反応冷たくない? それが質問に答えてもらった人の態度?」



 俺の質問に対して答えてないんだからそんなもんだろ。性格悪い上に、話も通じないようだ。



「はぁ、じゃあここどこですか?」


「私の愛に溢れるお言葉を無視しないでくれるかなぁ? ここ? ……私ん家だけど」


「だからそういうことじゃなくってですね……」


「なるほど! 森、森の中だよ!」



 いや、まったく参考にならん。どこになるほどしたのだろうか。


 性格悪くて、話も通じない上に、馬鹿らしい。つまり……こいつは使えない子。


 使えないものを使おうとする暇などありはしない。



「そうですか、いろいろとお世話になりました。それじゃ……」


「待ってよ! 何でそんなに帰りたがるのさ!」


「さっきも言いましたけど、俺は早く家に帰りたいので」


「あのね、私も何度も言ってるんだけど、君はもう私のモノなの! 私のおもちゃなの!」


「あなたのおもちゃになる気はありません。それに貸しとか言ってますけど、それはあなたが勝手に貸しだと思い込んでいるだけで、俺は貸しを作った覚えなんて微塵もないんですけど」


「人の善意をそんな風に言うんだ! 最低っ!」


「笑わせますね。もしあなたの行いが善意だというのなら、そこに貸し借りなんてありませんよ。したがって、俺があなたのおもちゃになる必要はないんです」


「わかったよぉ! 遊んでよぉ! ちょっとだけでいいからぁ!」



 性格悪くて、話通じなくて、馬鹿で……そして、ちょろいようだ。

【ありがとうございました】

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