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第18話 一日の終わり

【前回のあらすじ】大人の魅力。

 ……夜もすっかり更け、俺もいい感じに眠くなってきた。


 クックもさっきから激しい眠気に襲われているようで……時々白目を見せつけてくる。


 ここには夜更かしするような娯楽もないしなぁ、そろそろ……。



「おーい、クック。俺寝るわ。……ベッド使うぞー」


「……ん? なぁに?」


「ベッドだよベッド」


「え、ダメだよ。私が使うもん」


 もん、って。



「お前、さっき地べたがひんやりして気持ちいいとか言って寝転んでたろ」


「それはそれだよ。タマキこそ底辺らしく地べたに這いつくばってるのがお似合いだよ」


 いや、意味変わるだろ。それに、俺はいつの間に底辺になったんだ?



「うるせぇ、俺はベッドで寝る」


「わがまま言わないの!」


「わがままというか、当たり前の権利を主張しているだけなんだけど」


「自分に人権があると思ってたの? ここでのルールは私自身だから」


「毎度毎度勝手過ぎんなぁ! そんなにダメなのか?」


「まぁ、タマキがどうしてもって言うなら……一緒に寝る?」


「……毛布を一枚くれ。地べたで寝るから」


「……もう、つれないなぁ」



 ―――――



 ぶかぶかの上着を脱いで、上裸のまま毛布を掛ける。


 こたつでアイスを食べるのと同じ感覚、上はあったか下はひんやり……えもいわん心地よさ。


 清潔感には一抹の不安があるが……木の床はフローリングのようにきれいに磨かれていてすいばり事故とかはなさそうだ。


 そんなに抵抗を感じることなく、うとうとしていると……。



「あ、タマキ。明日からどうする気なの?」


 どうするも何も……。



「うーん、考えてなかった」


「じゃあさ、町に行ってみたら?」


 ……町、か。こいつの口からちょいちょい耳にしたけど……。



「町か……。悪くないな。どうせ暇だし」


「あ、あのさ、一つお願いしてもいい?」


「何?」


「私もついて行っていい?」


「ん、いいよ」


「うん……そだよね、私がいたら迷惑だよね……っていいの? ついて行って!」


「一人でなにベタな三文芝居やってんだよ。らしくねぇことしやがって」


「いや……、二人で町デートなんて初めてだから……。それに、タマキ……私のこと嫌いなんじゃないかって……」


 違った一面が見え隠れするのは全然いいことなんだけどな……本当にどういう方向にウケる子なのか。キャラ崩壊に近い臭いを感じる。


 しかもデートって……大げさだろ。ま、俺はこいつのデレてる時、いいと思ってるけど。



「別に嫌いだなんて一言も発してないだろ」


「じゃあ好きってこと⁉」


 ……あー、めんどくさい。グイグイ来ちゃってるよ。



「そういうのは好きじゃないな。つまりそうだな、別にどうとも思ってないってことだ」


「ねぇ、それ何だか一番嫌なんだけど。好き嫌いまでも行かないってこと⁉」



 ―――――



「つれてってくれるお礼にいいこと教えてあげる。……町に下りると鑑定士がいるっていう話はしたよね」


「したな。……したっけ?」


「読み返してきなよ……待って、私も不安になってきた」


 おい。



「まぁまぁ、鑑定士が町にいるんだよ。それでね、私の友達に鑑定士をやってる子がいるから……もしタマキが鑑定したいなら紹介してあげるけど」


「まじか。それは助かるかも」


「でもその子ね、性格に難があるってことを最初に言っておくね」


 ……何それ、超怖いんだけど。クックが難あり評価をつける性格って一体?



「……具体的に」


「えーとね、不愛想で偉そうで……ケチ。一言で表現するなら……クズかな」


「……お前、自分の友達クズ呼ばわりしていいの? 札束でぶん殴られんぞ」


「それは、ご褒美とも取れなくもないかな……。別にいいよ、本当のことなんだから」


「……お前の友達だもんな、何となくわかるかも。類は友を呼ぶっていうしな、うん」


「ちょっと、どこまで話したか忘れちゃうから……馬鹿にするのやめて! えーと……そう、でも安心して……」


「クズな時点で安心はできないんだけどな」


「あ~もう! 忘れちゃうから! 耳の穴かっぽじって相づちだけでいいから!」


「わかったよ。どーぞ」


「言ったからね! えーと、何度も言うけどあの子は確かにクズだよ」


「うん」


「でも、鑑定の腕は確かだし」


「うん」


「彼女は鑑定士だけじゃなくって」


「うん」


「アイテム職人とか」


「うん」


「アイテム商人とか」


「うん」


「酒場なんかも」


「うん」


「やって」


「うん」


「るんd」


「うん」


「ぁy」


「うん」


「……」


「うん」


「……コロス、コロシテヤル」


「おい、ガチになんなって、ごめんな。……でも、耳の穴かっぽじって相づちだけうっててつったのはお前だからな」


「このクズ野郎! ……ちゃんと聞いてた?」


「それはばっちりだ。なんせ耳の穴をかっぽじって聞いてたからな」


「パンツ一枚でいわれても説得力ないけど。とにかく、私の友達紹介してあげる。それだけ! じゃあ、おやすみ! 明日は早起きしてよ! ふんだ!」


 そう吐き捨てて、クックはベッドに入っていった。



 吹き抜けた窓から覗く、無数に輝く空を見上げる。


 雲一つなく、天体観測を阻む障害はなさそうで……魅入ってしまう。



 さて、明日はどんな日になるだろう。


 ……今日みたいな日もたまには悪くないな。



 これは俺の持論で根拠なんてないことだけど……今を精いっぱい生きていくのってかっこいいと思うし、憧れる。


 『将来は世界一の大投手だ』とか、『野球界を背負ってく存在』とか、いろいろ言われてきたけど……そんなのって実際わからないよな。


 俺はそれを実現するため、言い換えるなら『未来への投資』をこれまでずっとしてきたわけだけど……それは本当によかったのだろうかと考えさせられた気がした。


 それは『今』という瞬間を見ていないということだから、軽視しているということだから、精いっぱい生きていないということだから。



 ……いつから俺はそんな愚か野郎になったのだろうか。


 昔はもっと野球が純粋に好きで、好きで好きで……必死で白球を追いかけていたはずなのに。


 野球ではないけれど、そのワクワクを再び思い出された濃い一日だった。


 ……そんなつまらないことうじうじ考えるなんて、俺らしくないか。



 ……さて、町に行くとなると何をするにも金が必要だろう。


 今日の収穫はぶっちゃけると何もない。


 コウゴウシイタケも俺が食ったし、たくさん採ったキノコも置いてきてしまったし。


 ま、それは仕方のないこと……命には代えられない。


 というわけで、俺は無一文確定だ。


 ……クックもそんな持ってなさそうだし、つか、ニートだったし。


 それはまだいい。


 問題は、支出が意外とありそうということだ。


 食費もそうだし、服もユニフォーム一着じゃ心許ない。


 その中でも一番の出費は適正鑑定だろう。


 相場がどのくらいのもんかわからんけど……お友達のお友達価格でどのくらいまけてくれるだろうか?


 ……あまり期待しないでおこう。


 一つ疑問なのは、どうしてクックにそんなコネクションがあるのかということだ……コミュ力だけでどうにかなるようなもんじゃないと思うが。


 ま、気にしてもしょうがないか……詮索してもな。



 さぁさぁ、明日は早起きだから早く寝ないと……って、いつの間にあいつに決定権を乗っ取られたのだろう……ついてくるってだけじゃなかった、確か?


 ……はぁー、疲れた。


 どうなるかなんてわからないけど……頑張って生きていこう、俺に言えるのはそれくらいかな。


 ……それじゃ、おやすみ……。


 そう呟いた気がして間もなく、俺の意識はまどろむの波へ溶け込んでいった。

 これで第1章が終わりました。

 第2章は月曜日から投稿しますので、今週残りの連載はお休みになります。

 代わりに、番外編を投稿しますのでお楽しみに。

 ブックマーク・感想・レビュー等お待ちしております。

 読者の皆様、いつもありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願い致します、それでは。

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