第13話 よっしゃー!
【前回のあらすじ】これで改心してくれることを切に願うぞ。
……不気味な帰り道。
「私のキノコ……私のキノコ……私のキノコ……私のキノコ……」
すっかり生気を失くしたクックが、俺の後をゾンビのようについてくるのは結構不気味だ。
……繰り返してる言葉が、少し卑猥に聞こえなくもない。
こうなった原因は簡単、こいつが売りさばくはずだったコウゴウシイタケを、俺がおいしく頂いたからである。
さて、コウゴウシイタケの効果は不老不死になるというものらしいが、俺の人体にはこれといった変化もない。
ま、不老不死なんて眉唾だもんな。
でも、正直言うと本当に楽しみだ。
もし不老不死になってたとして……永遠という時をどうやって、何をして過ごそう。
無限に時間があるわけだから……それこそいろいろと想像の余地はありそうだ。
まだ具体的には思いつかないけど、それをゆっくりじっくり考えるのもまた一興だろう。
だけど……あまり期待するのもやめておこう。
効果があるという実感がない以上、それを証明する方法もないし……第一、クックがでたらめを言っている可能性も捨てきれない。
こういうのは、ポケットからポッと出てきた一万円札みたいな感じで、忘れた頃にハッピーになれたらいーんだよ。
待つ必要もない、俺はいつも通りストイックに生きていればいいのだ。
……いい加減、クックの奏でるBGMも鬱陶しいな。
「おい、いつまで落ち込んでんだ。しつこい」
「……だって……」
「……だって?」
「だって……タマキが! タマキがタマキがタマキが!!!」
「馬鹿! 耳元でうるせぇ!」
「だってタマキが! タマキがぁ!」
「本当にしつこいからやめろ!」
「ううっ、えぐっ……ひぐっ、タマキがだべたぁぁぁぁっぁ……」
おいおい、ガチ泣きし始めちゃったよ……どうするよ。
この馬鹿娘……泣けばこれまでの傲慢が全部清算されるとでも思ってるのか。
それでも、長引くのはごめんだから……俺が一歩大人になってやるとするか。
「おい……ごめんな、俺もやりすぎたよ。ほら、早く帰らないと夜になっちゃうから……機嫌直してくれよ」
「…………ぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!」
あーあ、壊れちった。
どこかにお医者さんか飼育員さんはいませんかー。
「……あー、すっきりした。ほら、帰るよタマキ。暗くなっちゃう」
……切り替え早いな、おい。
「お……うん。……もう大丈夫なのか?」
「全然大丈夫じゃないよ、頭がおかしくなりそうだよ」
それはもう手遅れだから、安心していいぞ。
「……覚悟しといてよね、これからタマキは私の猫じゃらしだから」
猫じゃらし?
……つまり、何なんだよ。
―――――
クックん家に着いた頃、ちょうど夕日の明かりが闇に包まれようとしていた。
馬鹿がぐずったせいで、結構ぎりぎりだったじゃねぇか。
それにしても、この……込み上げてくる安心感……はどこから来ているのだろうか?
俺がここへ帰ってくるには初めてのはずなのに……不思議だなぁ。
てか、ここで目が覚めてから不思議なことでいっぱいだが。
「ふん! んぐぐぐぐぐぐぐg……ふぬぅ!」
クックは開かないドアと戦っている。
どうして開かないかというと、こいつが鍵を閉めたままだからなのだが。
「クック、鍵だよ……鍵」
「もういいよ……うりゃ!」
ボッ!
「お前っ、馬鹿!」
こいつ、魔法でドア燃やしやがった……焦げくっせぇ!
「……自分の家を大切にしろよ。燃え移って全部なくなったらどーすんだ」
「手加減してるからそれはないよ。万が一燃えてなくなったら、造ればいいじゃん……タマキが」
「何でお前が壊したものを俺がどうにかしないといけないんだ」
「言ったじゃん。君は私の猫じゃらしだって」
こいつにとっての猫じゃらしは、そーゆーものらしい。
「じゃあお前の言う猫じゃらしとやらになるのは、遠慮させてもらうわ」
「君に拒否権はないんだよ。だって猫じゃらしは喋らないでしょ?」
「だったら返答のしようもないから、俺は遠慮なく遠慮させてもらうわ」
「だから! 口答えするなって言ってんじゃん!」
……こいつ、調子乗ってんな。
「お前、忘れてるかもしれないが……俺はお前の『何でもするからぁ!』……を持ってるんだぞ」
「気持ち悪いものまねはやめてくれないかなぁ……気持ち悪い!」
お前だってやってたじゃん……それに、もっと語彙表現頑張れよ……。
「ま、それはともかく……俺を無下に扱ってみろ。とんでもない何かを要求することになるかもしれんぞ。せいぜい機嫌を取っておくんだな」
機嫌を取ろうが取らなかろうが、ものすごーい何かを要求するつもりなのは内緒だ。
「ぐっ、いい気になって……もういいよ!」
そう吐き捨てて、クックは隔たりのなくなった小屋に入っていく。
もういいよ……は、こっちの台詞だよ! お前の自己中っぷりには迷惑してるんだ。
「あー、ムカつく! ……よっこらせっ……と!」
グシャ!
クックがドカッと勢いをつけて飛び込んだベッドが、嫌な音を立てて倒壊する。
「お前には、物を大事に使おうっていう慈しみの心はないのかよ」
「……これで壊れる方が悪いんだよ。私の家に貧弱物はいらない」
いや、某エリート戦闘民族かよ、お前ん家は何と戦おうとしてるんだよ。
「あーあ、ベッド壊れちゃったよ。今日の寝床が……どうしようタマキ?」
「自己責任だろ知らねえよ。お前、猫なんだから外で寝たら?」
「家主に外で寝ろだって……私、女の子なんだけど! それにもしかしたら……君が寝ていた時に壊したのかもしれないじゃないか」
「こじつけもいいところだな。俺は確かにそれが壊れる音を聞いたぞ」
「あのね、ただ聞こえた音だけが真実とは限らないんだよ。経年劣化って知ってるかい?」
「屁理屈言うんじゃねぇ! つーか、いつから責任のなすりつけ合いになったんだよ」
「……面倒臭くなってきたね」
いや、お前が始めたんだけども。
「タマキ、温泉入ろ」
「……入ってくればいいだろ」
行くとは言っているが、小屋の裏手に行くだけである。
また、ドラム缶風呂であり、温泉などという大層なものでもない。
当然、一人までしか入れないので、どちらかが寒さに震えることとなる。
いつもなら残り湯を堪能されるのが嫌だとか言って、俺を先に入れるクセに……今日はよっぽど疲れてるんだな。
「一緒に入ろうよ」
「いや、あれに二人は無理があるって……」
「今日はドラム缶風呂じゃなくって……あのね、私が掘り当てた温泉がここからちょっと行ったところにあるんだ。そこに行こうよ」
「ん、行こうか」
【ありがとうございました】





