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第12話 あーもう我慢ならねぇ、限界だ!

【前回のあらすじ】スコップ回でした。新たな魅力発掘か⁉

 ちょっとだけ元気が出てきたので、何だかんだ俺たちは家路への歩を進めていた。


 クックは、コウゴウシイタケを人差し指の先で器用に回しながら、ウキウキのご様子。



「大体さー、キノコばっかり食ってると飽きない? たまにはツバメの巣とかフカヒレとかトリュフとか食べたくない?」


「……トリュフはキノコだけどな」



 それに、他のもの食べたくない……ってことで、キノコ採りに来たんじゃなかったっけ? 


 喰う前から飽きててどうすんだよ。



「それは一つ勉強になったよ、ありがとう。それにしてもさ、このキノコが売れた後のことを考えると……あぁ、妄想が止まらないよ」



 ニヤケ顔がシンプルに気味悪いなぁ。



「ふーん、何か買いたいものでもあるのか?」


「そうだね……まずは家かな! もっと広い家が欲しいの。それと……世界一周もしてみたいし、猫じゃらしのプールに入りながらおいしい食べものに囲まれて……とにかく、豪遊して暮らしたい」


「へー、お前山暮らしなんてしてる馬鹿なのに、俗人なのな、意外と」


「意外と、ってのが引っかかるなぁ」



 いや、引っかかるとこそこなんだ。



「……タマキはさ、夢とかってあるの?」


「俺? 俺はプロ野球選手になる……はずだったんだよなぁ」


「あー、ずっと言ってるやきう、ね」



 だいぶ近づいてきたな。



「そのぷろって何なの? ぷろになったらどうなるの?」


「あー、プロになるってことは、お前好みに言うなら野球で金を稼ぐってことだな」


「え、本当⁉︎」


「うん。ここでお前と遊んでなけりゃあ、将来は超活躍して、大金持ちコース間違いなしだったんだけどなぁ……」


「タマキ、もしかして君ってすごいの?」


「お前、俺がキノコ投げるの見てたろ?」


「うん、あれはすごかった。すごすぎてだいぶ引いちゃった」



 引いちゃったのかよ。


 ま、それは俺も全く同じ感想だ。


 あそこまで自分の球が超強化されているとは思わなんだ。


 ここ最近の練習試合も手抜き気味だったし、己の全力を測り怠っていたのも事実だ。


 あの威力だと、キャッチャーどころか球審……いや、バックネット裏の観客まで危険に及ぼしかねん。



「……さっきからさ、何だか君からお金のスメルがしてきたよ。私も一枚噛ませて!」



 ……わかりやすくがめつくなったぞ、こいつ。



「なんだ急に、普通に嫌だよ。何に一枚噛むつもりだよ?」


「私の懐が寂しくなったら、君の脛にかじりつくんだ」


「物理じゃねぇか! はぁ、何もする気ないのかよ。じゃあなおさら嫌だ」


「えー、そんなこと言わないでさ。……これからケチの称号を賜りたくなければ、おとなしく私の言に従っておくことだね」


「脅しになってねぇよ。……どうしても一枚噛みたいなら、対価を提示しろよ」


「……対価? いい度胸じゃん、言ってみなよ」



 こいつかじりつく側じゃなかった?


 何で上から目線なんだよ。



「そうだな、コウゴウシイタケ一口でどうだ?」


「はぁ? タマキ、それはお話になってないよ」


「いや、お話にはなってるだろ。お前が俺の将来的な稼ぎに一枚噛む代わりに、コウゴウシイタケに一口噛みつく。これでもこっちはかなり譲歩してるつもりだが」


「うまいこと言ったつもり? 全然釣り合ってないから! かじりかけのキノコが売れるわけないでしょ! それに、君の稼ぎは将来的なものであって約束されたものではないんだから、フェアじゃない!」


「そこまで言うなら、お前は何を提示できるんだよ」


「私という存在と一緒にいられることに対してお金を払って欲しいものだね、お友達料だよ」


「お前本当に馬鹿だな。クソガキみたいなこと言ってんじゃねぇ」


「それに君、私をおぶったってだけで宿代全部賄えたと思ってるの? 私ん家はそんなに格安なんかじゃないよ」



 ……何だこいつ、俺があんなに頑張って命を助けてやったってのにこの期に及んで……張り倒してやろうか!


 ん、待てよ? よく考えたら、俺ってこいつにいいようにこき使われているだけじゃあないのか?


 そう思うと……無性に腹が立って来たんだが。


 何より……この俺を金銭欲を満たすために利用し、汚した罪は重い。


 俺もちょっとは仕返しを……どうだったけな、口角を上げると勝手に笑顔になるんだったっけな。……爽やかに、ひたすら爽やかに。



「……わかったわかった。それじゃあさ、見せてくれるだけでいいよ、コウゴウシイタケ。ご利益ありそうだしな、それ」


「うーん、それならまぁいいかな。君にはもう一生縁のないものだと思うから、せいぜい瞼に焼き付けておくんだね」



 クックが差し出したキノコを受け取り、観察する。



「なるほど、こんなところにこんな出っ張りが……見れば見るほど美しいフォルムだ……」


「へー、目の付け所が中々いいじゃん」



 匂いを嗅ぐ。



「……この高貴な香り、この世のどの香りより繊細かつ甘美だ……素晴らしい」


「ふふーん、当たり前だよ」



 あらゆる角度からキノコを視姦し、香りを楽しむ。


 何度も何度も……もう二度と忘れないように。



 ―――――



 気付くとかなりの時間が経っていたようで……クックの関心はとっくにキノコから離れており、退屈そうな声色で――。



「……ねぇねぇ、もういいかな。もういいでしょ、返してよ。てゆーか、それのどこにそんなに見るところがあるのか私にはさっぱりだよ。うん、もう十分堪能したよね。ほら、返して」



 んなことを言っている。


 ……そろそろかな。



「いや、まだだ。堪能していないことがある」


「まだー? 君、面倒な子だよね」



 俺は、お前の方が100万倍面倒臭いと思うけどな。



「もうちょっとだけ」


「ん~、じゃあ早くしてよー」


「あぁ、堪能させてもらうよ。……最期にな」



 ……あむっ。



 ……。




 …………。





 ………………うまっ。

【ありがとうございました】

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