第0話 プロローグ
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『太陽でさえいつか燃え尽きて、消えてなくなる日が来るのだ』――。
――そんなどーでもいーことほざいてたのはどこの誰だか存じ上げないし、そもそも一言一句同じことを言った人がいたかも定かではない。
一つ言えることは……そんな感じの主張をする人は、先見の明を通り越して節穴だと思う。
おそらく人類が生きている間にそのXデーに直面することはできないだろうから。
そんな先のことをあーだこーだと議論をしようと大して意味などないのでは?
それに、そんなことよりもっと考えなければならない問題は山積しているはずなのに。
人間がどれだけ偉くなったつもりなのだろうか――。
―――――
……というわけで、今日も太陽は活動の衰えを微塵も感じさせることなく、我々人類に恵みとも苦痛とも取れる影響を与え続けている――という導入に至る。
今年の夏はとりわけ蒸し暑くなるらしく、夏の風物詩でお馴染み、あのセミですらだるそうに鳴いている。
いくら百戦錬磨の彼らといえど、近年の夏は生きづらいだろうね。心中お察しするよ、本当にご苦労様です。
――そんな凶悪な日差しの下に、我が高校の野球グラウンドも例外なく存在している。
いつも何かと騒がしいグラウンド一帯ではあるが、今日は一段と賑わっている。
こーゆー雰囲気、あまり好きじゃないんだけど……救いなのは、いつもより黄色い歓声が多いことかな。
歓声の行き先は、周りよりほんの少し申し訳程度に盛り上がったピッチャーグラウンド。
そこに立つ男の名は本作の語り手兼主人公、名を灼ツ橋球葵という。……そう、俺。
世代を代表する絶対的エース、プロ注目の剛腕サウスポー……その左腕から放たれる剛速球は天を穿ち、大地を破壊し、海を割る――ことは決してない、至って普通の高校球児だ。
つか、そんなことしてたら色んな意味で野球できなくなんじゃんか。やるスポーツどころか、生まれる世界を間違えてるから。
あと、やっぱこういう説明さ……苦手。
導入部分で読者を引き込むのって難しいよな。大事なのはわかってても、ついついおざなりになっちゃうよね。
あと、自分で自分のことを紹介するのが地味に苦行……魅力的に映るようにはしたいけど、盛りたくはないからさ、そのバランスがねー。
ま、ぐだぐだフリートークはこのくらいにしておこう。世界観とか設定は追々説明していくな! 後出しはなにかと融通が効くし……。
――っと、こっちの事情はいーんだよ。
……さて、唐突だけど、今試合してんの。もちろん野球のね。
状況を整理しておくと、現在4回表1アウトランナーなし。スコアは2対0、俺のチームが勝ってる。
ま、毎週恒例の練習試合だから、そこまで見応えはないと思う。
それにさー、俺、あと2アウトで今日は問答無用で降板なんだよね。今日は5回までって制限あってさ。
投げられるのに……本当にうちの監督は頑固だから。
あ、最初に言っておかないといけないんだけど、ぶっちゃけ本当に俺に主人公が務まるのかなと……不安でしかない。
なんつーかさ、読者の共感を得るような要素は俺にはないんだよ……。
だって俺、野球に限って言うなら、最強なんだもの。
ライバルと競い合おうにも、俺の球をヒットゾーンどころか前に飛ばせるやつがいないんだもの。
例えるなら、格闘ゲームで相手を動かなくして一方的に蹂躙するような感じかな……ほら、つまんないでしょ?
―――――
ここ数年で高校野球を取り巻く状況は大きく変わった。
『木製バットを使用するべし』――という新ルールが導入されたのだ。
前途有望な高卒ドラフト候補選手がプロ野球の環境への順応をスムーズにできるようにするためだとか、日本の野球レベルの底上げを目指して、低年齢層からの打力育成計画が推し進められているだとか、第三次世界大戦下で政府によって金属類を吸い上げられたとか……諸説あるが。
これが全国で一斉に統一されたのが、高校に上がる前――中3の冬だったっけな。
それまでの俺は、別に特別上手いというわけじゃなかったんだ。
3歳から始めて、ピッチャー一筋でそれなりにキャリアを積み上げてきたけど、才能ないんだなって子どもながらにはっきり実感するくらいにはヘボピッチャーだった……他の親にひそひそ言われてたのが懐かしいよ。
というのも俺、ストレートしか投げられなかったんだ。
そこそこ球速と球威はあったから、小学生まではまだどうにかなってたんだけど、中学生にもなると本当に通用しなくなった。
そっから気付いたことが……どうやら俺、真ん中にしか投げられないってこと――来る球来る球全部大失投なわけだから、そりゃ打たれるわな。
悔しくってさー、何度グラブを捨てようと思ったか。
でも、ずっとやってきたし……野球を捨てたら自分に何が残るんだって思ったし、なにくそ精神で練習してたんだよな。
ま、そんな簡単に長年付き合ってきた悪癖が治るはずもなく……ただただ速球が速くて重いだけで、2打席目からは慣れられてぼかすか打たれるみたいな、俺はそんな地雷ピッチャーだったというわけだよ。
そんなことも今は昔、懐かしい思い出、俺にとってはもう笑い話だ。
もちろん当時馬鹿にしてた連中は全然笑えないだろうけど、つか笑わせてなんてやらねえよ。
ん? どうしてこんなピッチャーが今は最強なんて大それたこと抜かせるかって?
ま、見て行きなよ。俺のピッチングをさ。
―――――
サインを確認した後、投球モーションに入る。
もっとも、ストレートしか投げられないのは今も変わっていない。だから、サイン確認はあくまで形式的なもの。
そう、俺は何一つ変わっちゃいないんだ。
それにさ、やった方がピッチャーぽくてカッコいいじゃん? ……いや、普通に正真正銘現在進行形でピッチャーなんだけどね。
本来、俺の投球にそんなもん必要ないんだ。
目標は、キャッチャーがどっしりと構えた一箇所、ストライクゾーンド真ん中。
そこに向けて……というより、俺の球は勝手にド真ん中に向かっていくので、投げればオールオーケー、あとはどうにでもなる。
『バッターと勝負する』――などという時代は、俺の中ではもう終わっているのだ。
強靭な下半身の力を余すことなく伝え、そこに上半身のねじりを加えて……打ち出す!!!
球は糸を引くようにキャッチャーミットに向かい、ド真ん中へ。
対するバッター――確かに速い、速いが打てない球じゃない――と、力いっぱい振るったバットはボールを捉える!
……が、木製バットは爆散する。
球威は衰えることなく目標に突き刺さり、アウトコールが響く――2アウトだ。
球場がどよめき揺れるのが堪らなく心地いい。指先に残る焦げ臭さが、そのえもいわん快感を助長させる。
これが今の、俺のピッチングなんだ。
―――――
あと1アウトで交代か――。
『まだ行けます! 投げさせてください!』……なんてね。
今日は調整なんでしょ、そんなことくらいわかってるさ。でも、こーゆー熱血系、好感持てそうだし一度やってみたいものだ。
本日最後のボール。
あらゆるパワーが指先に集約されていく感覚にピュンッと指にかかると同時にジュッという効果音。
あ、間違いなく今日の中では最高の球。
ここまでいい球だとバッター……あとキャッチャーが気の毒だ。
申し訳けど、ミットは買い替えてもらおう。
球は俺の予期した通りにバットを貫通、刹那ミットに着弾、なおも直進している。
……しかし、なぜか自分めがけて向かってくるものが一つ。
……え?
――――ガツンッッッッッ!!!!!
頭部にとてつもない衝撃……視界がぐらぐらと暗転していく。
その余韻に浸ることも許されず、俺は重力に身を任せる……それしかできなかった。
【次回の前書きからは、あらすじを書いていきたいなと思います。本当に荒いので、あまり参考にしないで下さい(笑)】
【後書きは、感想でもつらつら書こうかなー】