ピアノの先生
幼馴染のユウちゃんはちょっとしたお嬢様で、保育園に入る前からピアノを習っていた。
私が遊びに行くといつも何かを弾いていて、とてもうれしかったのを覚えている。
毎日遊んでいたある日、ユウちゃんがピアノを弾いてみない?と私に声をかけた。
私はピアノは聴くものだとばかり思っていたので、とてもおどろいたのだけど。
「私、ピアノ教えてみたい!」
ユウちゃんは、ピアノの先生を目指していたのだった。
かくして突如始まった、ピアノ教室。
先生は保育園の年中さん。
生徒も年中さん。
先生は大変に手厳しく、なかなか授業は難航した。
まず、ドレミの位置が分からない。
さらに音符が読めない。
そもそも鍵盤の押さえ方が分からない。
それでも結局、先生は優しかったのだった。
手取り足取り、教えてくれた。
教えて下さったのである。
私は、一曲だけではあるけれど、ピアノをマスターした。
「ねこふんじゃった」
まさかの、両手で弾くアレである。
楽譜もまるで読めない私が唯一弾ける曲。
保育園児の先生の教えは、いまだ私の中にある。
保育園児の先生は、やがて成長して、大人の先生になった。
今もたくさんの生徒さんに、ピアノを教えている。
「ずいぶんたくさんのピアノ演奏者を育ててきたけれど、私の最初の生徒は貴方よ。」
そういってくれるのが、少しだけ、恥ずかしい。
大人になってからピアノをはじめる人も、最近は珍しくないそうだ。
はじめてみようかな。
迷う私に、かつての先生は。
「いつでもいらっしゃいな。」
にっこり笑って、私の前で一時間ほどコンサートを開いてくれた。
最後の曲は、もちろん。
「ねこふんじゃった」
私の弾く、がさつで乱暴な猫とは違う、雅で柔らかなすました猫が、そこにいた。
私の猫が、どれほど変わるのか。
今からとても、楽しみにしている。