三章〜課題をこなせ!〜
学校が終わって通常の世界へ帰ってきた夜桜はすぐさま姿を消している疾風に呼びかけた。ハルも一緒に付いてきた。
「疾風今、私達が立ち向かえそうで本とかに関する騒ぎを起こしている悪霊いない?」
疾風は名前の如く、早く吹く風の様に情報収集能力に長けている。そして風の力を借りて私達をその場所へと飛ばすことができるのだ。
「ちょっと待てよ。……あっ近くにいるぞ。でも俺は対抗したくないな、出来れば。太刀打ちできる奴じゃない。」
「…強い怨霊?」
「当たりっぽいよー。うちらの近くにおるみたーい!かなり強めやーん!なんか古風な服着てはりますなぁー。」
私より霊感が強いハルも難色を示している。霊感が常人より少し強いだけの私だが嫌な感が冴えてしまった。
「それって平安時代の貴族じゃない?」
私の勘がそう言っている。しかも強めの。違っていたら有り難いけど…ていうかむしろヤメて!
「多分道真だな。菅原の。」
「ウチらより強いでー、コレは。」
怨霊で、しかもかの有名な菅原道真だとー!菅原道真は大宰府に流されたことを恨んで朝廷に祟りを成したとされる怖い方ではないかー!(熱が入ると喋り方が変わる)
夜桜は日本史がヲタク級に好きなので心の中で連連と豆知識を並べはじめた。
百人一首では菅家として「このたびは」の句を詠んだとされているあの方がこの近くに居るなんて!
『このたびは 幣もとりあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに』吉野宮滝御幸に供奉した句で今回の旅は急なことで捧げ物の幣も用意がないので手向山の美しい紅葉の錦を神の御心のままにお受け取りください、という美しい歌なのです。(早口)
この句を詠んだ翌年、昇進するのですが僅か数年後にで流罪になったという悲しい運命を辿るのです。(by夜桜のヲタク情報)
とまぁこのようなお方が何故現在に出てこられたのでしょうか?なんの恨みが?
「最近パワハラが多いからなぁ。見兼ねて出てきたんだろう。」
…えっそんな理由?なんか簡単な理由。
確かに菅原道真さんは何も悪いことをしてないのに左大臣に嘘をでっち上げられて太宰府に流されてしまった(またまた夜桜のヲタク情報)から仕事関係の問題に首を突っ込みたいのは分からなくはないが…なんか単純。
「で、いまどこにおるん?」
「「…夜桜の目の前。」」
うん?なんか目の前に違和感を感じていたけど…。
「ってウワッ!ビックリした!」
なんと私の目の前に優しそうなオジさんが。え、おじさん?
「この人、一般人じゃないの?」
「我は菅原道真なり。貴女は害の無き方のごとし。なれば違ふ人を狙はむ。なほ悪しき居るべし。さればこれに失礼す。」
いや、喋り方からして昔の人だなぁ。まぁ確かに昔っぽい服装してるけど。何かの本で見た「公卿縫腋袍束帯姿」と呼ばれるあの格好に。
なにかよく分からないことを言って、どこか行こうとしているけど良いのかな。
やっぱり怨念が半端ないほど強かったけど、それって危険なんじゃ…?
しかも菅原道真なら昔に成仏しているはずなのに。
「夜桜、ハル、追いかけろ!奴はまた違う人を襲う気だ!最近巷でパワハラをした上司などを次々と呪い、雷を落とし続けている!」
もしかして道真さんは今さっきもっと悪い人を探しに行くって言ったのかも!
「夜桜、当たりだ。早く火影を呼んでくれ!アイツなら奴の動きを封じることが出来る!」
疾風は夜桜の心を読み、火影の助けを請うた。
「分かった!」
火影は幻の炎で周りを取り囲み、相手の動きを封じ、攻撃する事を得意とする。又、火影などの式妖を呼び出すには式妖が持つ主人からの贈り物とリンクさせ、主人の言霊で召喚するのだ。
ちなみに疾風は本の形をしたロケットペンダント、火影は紅葉型の栞を贈り物としてあげた。
早速、意識を集中させ家の方角に体を向けた。
「今、アイツは何をしているんだ…?」
「えっと…あっ、いた!何してるの!全く!」
火影は現在、オムライスを作る過程で炎を出している瞬間でした。しかも律儀にエプロンをして。(…いつ炎を使う所があるんでしょう?ていうかなぜオムライス?)
火影が炎を消し終わったのを確認するとすぐさま召喚した。
「火影の紅葉とリンク!」
私の姿が妖力を持った炎に囲まれる。
この炎は一般人には見えない。火影は火の属性を持つので召喚するときにはその属性を表す紅い炎を私が一瞬だけ身にまとうことになるのだ。
「火影を芙梓水稲荷神社へ召喚!」
その瞬間、紅葉型のしおりが夜桜の目の前にひらりと落ちた。
と思ったらボンッ!とその紅葉が煙に包まれ次に瞬きをすると、もうそこには火影が立っていた。
「もう、お料理中だったのに。どうしたの、いきなり。…夜桜?」
エプロンをつけたままで傍から見たら滑稽な姿をしながら、文句が止まらない火影だったが、夜桜の険しい表情を汲み取ったのか眉間にシワを寄せた。そんなことは構わず、夜桜は疾風に叫んだ。
「疾風、道真さんのとこまで吹っ飛ばして!」
「了解!火影、道真を止めてこい!」
疾風は言い終わるか終わらないかのうちに火影を吹っ飛ばしてしまったが向こうに行けば火影も異様なオーラには気づいて止めてくれるだろう。
後からえー!という慌てた叫び声は聞こえてきたが。
「疾風、今道真さんどこ?」
「響都駅付近。」
思ったより早い。このままでは確実に実害が及んでしまう。
「疾風、そこに連れて行ける?」
「問題ない。ただ時間がない。ハルも行くか?」
ハルは逡巡していたが意見が定まらずブツブツ呟いていた。
「行きたいけど、私が行っても足手まといになるだけやし…。」
ハルが行くのに躊躇しているとしびれを切らした疾風が叫んだ。
「行きたいなら、じゃあ吹っ飛ばすぞ!ヨイショッ!」
ブン!と妖力のこもった竜巻が起き、私達を取り巻いて文字通り響都駅の方向へ吹っ飛ばした。
ついに敵?が登場!
思わぬ強敵!しかも成仏しないと被害が拡大!
急いで夜桜達が駆けつけるも…?
次回やっと敵とバトルです!




