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Rの紋章  作者: 緋野蒼菜
第一節
16/16

十五章〜応援部隊と苺のミルフィーユ〜

 土地が答えた事を確認すると黒鬼は先を続けた。

「この地に住まわし土地神様よ。荒れ狂う不浄を、穢れを、此処に一度留めさせて下さい。神の御前(みまえ)において、穢れし者共、今そこで留まりたまえ。荒れ狂う苦しみよ。憎みよ。恨みよ。神の御力、聖なる壁と為りて阻まん!『浄化結界』!」


 言い切った途端、描いた線から光の壁が約10メートルほど立ち昇った。黒鬼の行動を察知したのか、スピードを上げて迫っていた僵屍が強固な壁に阻まれて体当たりしている。黒鬼が使った白い棒は、国から支給された黒鬼専用の保身用結界『α』だ。土地神の力を借りて、術を起動し結界を張ることができる。神の神聖な力で構成されるため簡単には破られない。彼自身の保身術不足を補う為のものだが、これは10年に一度しか使えない。ホイホイと簡単に使うものではないが、しかし今回ばかりは致し方ないだろう。

 一仕事終えた黒鬼はダリアの元に戻り鳥籠を抱えて、ポッカリと口を開き今も僵屍が溢れ出ている『黄泉の穴』へと向かった。

 半径およそ10メートル。結界の外側から『黄泉の穴』を観察した。すると黒鬼はあることに気づいた。『黄泉の穴』にはそれぞれ名前がつけられている。そしてそこが『黄泉の穴』である事を意味する五芒星が描かれている。しかしこの『黄泉の穴』には印がない。流石に役人が見落とすことはありえないので開けられたものだろう。


「ごめんね、武尊。途中で力尽きちゃって。」


 籠の中から声がする。くぐもった女声だ。


「ダリア。無理するな。人語を話すのは体に差し支えるだろ?」


 黒鬼はダリアを嗜めた。火の鳥は一応人語も話せる。しかし自分の力を削りながら話すので少しずつ体力がなくなってしまうのだ。普段なら力が有り余っているためなんの問題もないのだが、弱っている今話すのは一苦労だろう。


「分かったわよ。だけどもうすぐ復活するから伝えとこうと思って。」


「は?何言ってんだ。ゆっくり休め。」


 ダリアの言葉に黒鬼は驚きすぎてパサっと鳥籠の布をとった。出てきたダリアの顔はとびきりのスマイルだ。


「嫌よ!まだ戦えるし。」


 見てわかるほど頬を膨らませ、ダリアは怒るがどう考えても戦えるはずがない。


「本部に連絡して応援を呼んだ。」


 冷静な黒鬼の対応にますますダリアは怒った。もう頭に湯気が見えるくらい。羽もバタバタさせている。鳥籠の中も炎で温度急上昇中だ。このままでは妖力で強化された


「なんで呼んじゃうのよ!もうひと暴れしようかと思ったのに!」


「お前一人じゃ無理だ。また同じことを繰り返すだけだぞ。休んでたら苺のミルフィーユ買ってやるから。」


 落ち着いた黒鬼の対応と大好物の提示に諦めたのか、ダリアは熱を収めていった。


「そうだけど…。まあ良いわ。絶対に買ってよね。けど、絶対殲滅する時起こしてよね!絶対暴れてやるんだから。」


「分かったからさっさと寝ろ。」


 まぁ絶対起こさないけどな。黒鬼は渋々目を閉じたダリアを見ながら独りごちた。








********************






 数時間後、応援が到着した。

 応援部隊を率いてきた役人が黒鬼と向かい合った。


「『phoenix(フェニックス) purgatar(パーゲーター)』。応援により駆けつけた次第。封縛師精鋭10名。その他陰陽師10名、『heal』5名、そして…」


「久しぶりだな、黒鬼!俺らも招集されたよ。なんか大変なんだって?珍しいなぁ。」


「ちょっと不知火、危ないよ!人にぶつかるから突然前に進まないの!」


 応援部隊の列を掻き分けながら出てきた男達。その先頭にいた後ろから長身の男に説教を喰らいながらもスルーしている小柄な男が黒鬼に声をかけた。


「プグナ学園ご一行ですか。不知火さん、東雲さん、僵屍と戦闘しにきたんですか?お二方は平気でしょうけど、何人か死にますよ。」


 プグナ学園。ラテン語で戦闘。西園寺等の学園は生まれながらの才能を発展させる学校だが、この学園は主に妖と身をもって戦う武装集団を鍛える学校だ。体力自慢や能力を持ちながらその能力を生かす体術を習う生徒を主に募集している。今回の目的は、プグナ学園の精鋭の武力を図るための演習だろう。


「プグナはプグナでも一応『LEGIONIS(レギオニス)』だ。まだ体が強い奴ばかりだから軽いダウンぐらいで済むだろうよ。まぁひと暴れしてくるわ。」


「ごめんね、黒鬼くん。邪魔しちゃうと思うから挨拶だけしておくね。不知火は僕が出来る限り見ておくから心配しないで。僕もちょっぴり遊んでくるよ。」


 首をゴキゴキと鳴らしながら笑顔で離れていった小柄な彼はプグナ学園精鋭部隊『LEGIONIS』のリーダー不知火(しらぬい)(ウルフ)。『LEGIONIS』の狂犬(狼だけど)と言われている。素手のみ得物なしで数千の妖と戦い勝利して、なお「こんなもんか。」と言い放ったという伝説を持つ。歳は西園寺と同じだ。そして不知火に説教をしていた長身の男はサブリーダー東雲(しののめ)陽炎(かげろう)。大体不知火の保護者的役割を果たす。穏やかな性格で『LEGIONIS』をまとめている。しかし戦闘能力は不知火とも負けず劣らずほど強いという。とりあえず拳や足を当てていく不知火とは違い、冷静にかつピンポイントに強い衝撃を加え、相手に致命傷を与えるという戦法だ。不知火と同級生である。

暴れたいという欲求のもとに動く彼等だから今回はどれほどの数を殲滅するのだろう。これは見ものだと思いながらもう一度役人と向き直った。


「すみません。続けてください。」


 黒鬼は話を遮ってしまったことへの詫びを入れ、先を促した。


「あ、ああ。そしてさっきいた『LEGIONIS』10名。計35名だ。今の状況は?」


「現在街へ出てしまった僵屍はいません。僕の保身用結界『α』で食い止めてあります。半径およそ10メートル。封じ終わった後はきちんと五芒星を描き、名前を本部で決めてください。確認されていない『黄泉の穴』のようですから。」


 的確かつ簡潔に、黒鬼は報告をした。役人は頷きメモを取った。そしてすぐに部隊に指示を出した。各方面に散っていく能力者を見ながら黒鬼は最後に役人を呼び止めて忠告をした。


「後『LEGIONIS』は『黄泉の穴』の封印がまだ出来ていない時に多数がやられてきたらリーダー、サブリーダー以外は程々に撤退命令を出せるなら出したほうがいいですよ。その方が彼らの身のためです。」


 役人は小さく頷き会釈して再び指揮を取りに行った。







 30分ほどすると術者たちの手によって『黄泉の穴』は完全に塞がった。しかし僵屍はまだ数千ほど残っており、『LEGIONIS』も残り2、3人になった。相変わらず体力の衰えない不知火は瘴気を吸わないように黒いマスクをつけながら、なお走り僵屍を殴り蹴っている。東雲もマスク越しに分かるくらい楽しそうに致命傷を与えながら走り回っている。


「アーハハハハ!ま〜だまだ!どんどん来いやオラァ!」


 周りも若干引きながらだが応戦し続けている。戦わず側から熱中して見ていた黒鬼はモゾモゾと動く鳥籠に初めて意識を取り戻した。


「キューン。クルルル。あら?戦いは始まってるのかしら?」


 目を覚ましたダリアは目をしばしばさせながら音のする方を向く。そして何かに気が付いたのかハッとし黒鬼の方を振り返った。


「ねぇ、起こしてくれるって言ったじゃない!武尊のバカ!いくよ!」


 何時間か前に同じようなやりとりをした気がするが、やっぱり黒鬼はダリアを行かせる気はない。


「いや、もう終わるぞ。行かなくていいだろ。大人しく終わるのを待ってたら苺のミルフィーユケーキ買ってやるから。」


 ダリアの気をどうにか逸らそうと黒鬼はやっぱりダリアの大好物で釣ってみる。しかしそんなに単純ではなかった。ずっと先延ばしにされていた戦闘を諦めるという選択肢はもうダリアには存在しない。


「行くって言ったら行くの!この鳥籠燃やすよ。」


 流石に燃やされたら困るので仕方なく戦闘に向かうことにした。

 結界の入り口にいた役人に声をかけ先頭に加入することを告げて中に入った。やっぱり中は腐敗臭がしていたが思った以上に濃くなっていた。黒鬼も不知火達と同様、黒いマスクを付けてダリアを肩に乗せた。


「ぞくぞくするわぁ!やっちゃおう!」


 耳元で楽しそうなダリアの声が聞こえる。その声を聞きながら黒鬼は指示を出すタイミングを図っていた。タイミングを間違えると仲間もろとも火の海にしてしまう。慎重に機会を見定めていた。


「あ!黒鬼!待ってたよ!一緒にやろうぜ!アーハハハハ!」


「黒鬼くんも来たんだね!グランドフィナーレかな?」


 もう狂ってしまっている不知火に適当に相槌を打ち、東雲に礼をして、目の前の敵に照準を合わせる。右奥、『黄泉の穴』の隣。あそこなら今誰もいない。今だ。


「皆さん!絶対に奥に行かないでくださいね!」


 味方に大声を張り上げ伝える。みんな聞こえたらしく手を振り上げてピースサインを出した。場所は整った。


「ダリア!右奥黄泉隣だ。焼き尽くせ!」


 キューーーン!黒鬼の指示に応え、ダリアは僵屍の中に突っ込んでいった。そして中で火を吐き、大爆発を起こした。


「いつもながらこの光景は綺麗だねぇ!アーハハハハ!」


「綺麗な花火が打ち上がりましたねぇ。最高のフィナーレです!」


 隣で不知火はやっぱり狂ったように笑い、東雲は爆発に感動している。ダリアが大爆発を起こした煙が晴れると、そこにはもう動くものは何一つなかった。ただ燃え尽きた灰が残っているだけである。満足げにキュルルルと鳴きながらダリアが帰ってきて右肩に留まった。


「ね?すぐ終わったでしょ?」


「まあな。にしても1発爆破で終わらせるなんて珍しいな。」


「それは腹が立ってたから、腹いせに1発と思ったら意外と大きく作用しちゃってさ。」


 やっちゃったと言うかのように羽をバタバタさせた。黒鬼は白い目になりそうになったが、次の瞬間にはもう諦めしか残っていなかった。


「不知火さん、東雲さん、いいとこ取りしちゃってすみませんでした。」


「いーよ!楽しかったし。ていうかやっぱり黒鬼の鳥ちゃんはド派手だねえ!見てて楽しいよ!じゃーねー!」


「『LEGIONIS』のみんなも満足するほど暴れたみたいだし、そろそろお暇するね。」


 不知火と東雲は、周りでぶっ倒れてフラフラな『LEGIONIS』のメンバーと共に帰っていった。


「そろそろ俺らも帰るか。」


「そーね。苺のミルフィーユが待ってるし!」


ダリアは嬉しそうに羽をバタバタさせていたが、黒鬼は眉間にシワを寄せた。


「いや、待ってないぞ。戦闘に加わったからな。」


「えーーー!うっそーー!」


 苺のミルフィーユは、悲しげなキューーーンという鳴き声の下、消え去った。

お久しぶりです。作者です。ダリアちゃん喋りましたねぇ!ちょっと嬉しいです。

こっから展開どうしようと考えている作者です。

引き続き活動報告を読んでいただければ生きてるか死んでるか分かりますので読んでいただけると幸いです。

次回の投稿をお楽しみに!

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