十四章〜本部への無線〜
黒鬼はひとまず息を整え、胸元につけたRの紋章を象ったバッチで本部と連絡を取った。暫くノイズ音が流れていたが、やがて周波数があったのかしっかりした声が聞こえてきた。
『国破れて』
「山河有り」
『城春にして』
「草木深し」
有名な漢詩の一節である。これが今の合言葉だ。国家機密の組織なので合言葉が漏れないよう3ヶ月ごとに文学作品の一部から抜粋し変更している。夜桜なら喜んで答えそうだ。(夜桜は文学作品もヲタクなのだ!)
「認証しました。『secret of silence省』ネットワークシステムです。用件をどうぞ。」
「こちら『ROYAL』の『phoenix purgatar』。ただ今藍緻県で任務遂行中。本部へ取り次ぎお願いします。」
「少々お待ち下さい。」
無機質な声との会話の後、しばらくして電話を取る音がした。
『こちら本部。どうした『phoenix purgatar』?何かあったか?』
「こちら『phoenix purgatar』。ええ。至急応援お願いします。できれば封印ができる方を。あと、『heal』もお願いします。」
『こちら本部。了解した。至急応援部隊を派遣する。状況を説明してくれ。』
すぐに指令を出したのか本部の音声に周囲の人の声が入り始めた。
「こちら『phoenix purgatar』。指定場所に行き、約300の僵屍と戦っていたはずですが、だんだん数が増加しました。不審に思い、辺りを確認したところ、『黄泉の穴』を見つけた次第です。そこから今も僵屍達が這い出てきております。」
『こちら本部。『黄泉の穴』だと?では精鋭の封縛師を手配せねば。』
「こちら『phoenix purgatar』。はい。お願いします。」
『こちら本部。ただ随分と時間がかかるぞ。計算すると…早くても3時間だ。待てるか?』
「こちら『phoenix purgatar』。ええ。一応距離をかなり開けて待機しております。」
『こちら本部。そうか。なら良いが。問題はその僵屍が街へ出てしまう事だ。その問題はどうだ?』
「こちら『phoenix purgatar』。その可能性を忘れてました。食い止めておきます。」
『こちら本部。ああ、よろしく頼む。では検討を祈る。Do your best.』
「As you pleasure.」
回線はすぐに切れ、風が唸る音しか聞こえなくなった。
黒鬼が今待機している場所は僵屍が前進する最前列よりかなり離れた森林の中だ。僵屍は以前よりスピードを落とし、街へ向かっている。ダリアは今、力を使いすぎて倒れてしまった。専用の鳥籠に入れ、回復を待っている。今動けるのは黒鬼のみ。待っていても仕方がないのでダリアをより強い結界で囲い、僵屍の方へ全速力で駆けた。
走っている間黒鬼は僵屍との戦いを振り返っていた。
初めは、なんの変哲もないただの僵屍だった。目に光もなく、この世に未練を残したであろう悲しみだけ。しかし襲ってきた僵屍は明らかに怨念に満ち溢れ目に赤い光が灯り、何よりも黄泉からの後押しを受け、数も力も増していた。
そもそも『黄泉の穴』が完全に開くことなどそうそうない。毎月SS省の役人が念入りに調べ開きかけていたら封縛師によって封印し、約20年は絶対に持つようになっている。それが1ヶ月もたたないうちに開くのはありえない。回線先で官僚が驚き、慌てているのも無理はない。となると問題は誰が開けたか、だ。ここ最近やたらと至る所で封印が解け始めている。誰かの仕業だとすれば相当の実力がある輩だ。もしくは人ではない別の存在かだ。これは上に報告をしないとまずいことになる。
そこまで考えた黒鬼は僵屍から十キロメートル離れたところで制服の内ポケットから長く白い棒を取り出した。そして地面につけ僵屍から約八キロメートル圏内の円になる様、地面に線を描き始めた。三十分経った後、漸く円を描き終えた。僵屍はまだ五キロメートルは離れて行進しているのですぐに襲ってくる心配はない。黒鬼は深呼吸を一つし、口を開いた。
「土地神様、土地神様少しお力をお貸しください。」
すると円が光を放ち始めた。
今回はあんまり展開が進みませんでした。
もう少し待ってください。
何やら黒鬼くんが前回に引き続きピックアップ!
次回応援来るかな?
では次回の投稿をお楽しみに!




