十二章~明かされた事実~
一方その頃、希の部屋では…
「ねぇ、夜桜。なんで疾風の方を渡しちゃったんだよ!」
残された希の部屋で1人火影が叫んでいた。
「いや、なんでってあんたを渡すと面倒なことになるからでしょ!」
反射的に逆ギレしてしまう夜桜。はっきり言っていい選択をした。−夜桜はそう思っていた。火影より疾風の方が冷静でいい対処ができると踏んだからだ。火影は能力にムラがある。出せるときはやり過ぎるまで出すし、やる気が出なかったら蝋燭の火くらいしか出ない。その点、疾風の風の力は一定以上から下に落ちない。あの力であれば大体のものは守る事が出来るだろう。
「まぁ2人とも落ち着いて。」
ヒートアップしていく二人の喧嘩に綾華が仲裁に入った。
「今は希からの情報を待つしかない。しかも伝えるべき事があるって言ってたし。」
「確かに。待つしかない。けど、他の『ROYAL』達とも集まりたいな。意見が聞きたい。」
希が今占って得た情報を共有しないといけない。しかもこの不穏な動きを止められる人がここにいると言っていたから私達にも何か出来ることがあるはず_。
「⚡︎♪〜」
突然頭に高く緩やかなハープの音色が響いた。それと同時に伝言も。
「この音が聞こえたなら【holy fort】に集まってね。by西園寺。」
聞き終えた後2人は顔を見合わせ、猛ダッシュしてあの【holy fort】へ向かった。2人が扉を開けた頃にはほぼ全員が集まっていた。そして何故か火影も入れるようになっていた。
「呼び出してすみません。急用があったもので。」
西園寺さんがみんなの視線の先に座っていた。夜桜は火影との喧嘩したテンションのまま来てしまったので西園寺の顔を見た途端、希が連れて行かれる時、柊sideにいた事を思い出し突然怒りが込み上げてきた。そして溢れ出した今の感情をありったけ西園寺にぶつけた。
「希は何故そんな長い期間拘束さらなきゃならないんですか?ここから情報を送ればいいじゃないですか?希は人見知りなんですよ。分かってますよね?」
「一度落ち着いて下さい。橘さん。」
西園寺が静かに諭した。まるで幼い子をあやすように。それほどに夜桜は気が動転していた。
「彼女は何度もこのような事を経験しています。しかも貴女が白狐の腕輪を渡していたでしょう。」
「でも…。」
正論で返され反論もできなくなった夜桜は頭を冷やすことにした。脳裏には連れて行かれる時の希の顔が。
希は確かに寂しそうな顔をしていた。と同時にその顔に諦めのような感情が読み取れたような気がした。まるで自分の運命を分かっているかのように。
「今回私が皆さんを集めたのは訳があります。」
西園寺が本題を切り出した。しかしその顔には迷いがあった。
「今から言う内容は絶対他言してはいけません。国家機密に当たります。理事長にも口止めされています。それでも私が言うのは貴方達の力が必要だと考えたからです。守ってくれますか?」
西園寺のいつも以上に静かな低い声に一同は深く頷いた。
その様子を見て覚悟を決めた西園寺は話しはじめた。
「今、日本の中で妖達が暴れているのを知っていますか?」
それって希が言ってた件のこと?きちんと聞けなかったけど。
「噂では相当いろんな所がやられたみたいね。」
「こちらでも水辺の情報が。斗月橋でも河童が暴れまわっていたようです。」
椿と大翔がそれぞれ報告した。
「これは何者かが起こした事件性があります。それで坪田さんが緊急収集されたのですよ。そして黒鬼くんも、もう国からの任務についてもらっています。それ以上は僕の口からは言えません。」
「武尊も?」
西園寺の言葉に綾華が反応した。その表情には不安と心配が入り混じっていた。
「ええ。彼の火の鳥を使ってね。」
その言葉に少しだけ、ほんの少しだけ綾華は納得したようだった。
「この件で理事長から橘さんに忠告があります。私が氷川くんに割り振らせたあの仕事、あと期限は2日でしたっけ。」
そこまで聞いて夜桜と遥はビクッとした。最近いろんなことがありすぎて忘れてた。まだ結界直しの1件しか片付いてない!
「すみません!まだ全然片付いてないです!すぐに片付けますから!」
焦りすぎて体が前のめりになる。失望されたら『ROYAL』から追放されるだろう。それだけは避けたい。
「いえいえ。謝らなくていいですよ。実は理事長から仕事をさせるなとの指示が来ておりますから。」
ん?なぜ?全く意味がわからない。新人の新人が何故いきなりやるなと言われるんだ?
予想外の答えに夜桜は目を丸くした。
「エ、どういう事ですか?やるべき仕事ですよね?」
「それには私も仕事を割り振った側として同感です。そもそも、新人が沢山の仕事をこなすことが掟として存在するでしょう。」
氷川が西園寺の言葉に反論した。それ以前にそんな掟があったとは。
「私も最初は反対しました。同じ理由でね。しかしそれよりも重要なことがあったのです。」
絶対に守るべき掟を覆してまで大切なこと…?
「それは、あなたが『inperium Deus』だからですよ。」
『inperium Deus』?聞いたこともない。疾風から必要なことは大体教えてもらったはずなのに。
「イ、『inperium Deus』⁉︎」
突如榊原が叫んだ。よく見ると私を見ながら先輩方は口をぽかんと開けている。綾華もだ。ただ、事情が分からない夜桜と遥は首を傾げていた。
「学校側は把握してたんだね。なぁんだ。知らないと思ってたのに。」
今まで口を閉ざし、ソファーのクッションで丸くなっていた火影が少しはやるじゃんと言いたげな表情で呟いた。
「火影、知ってたの⁉︎」
「いや、逆に知らない方がおかしいでしょ。生まれた時から見てるんだし。」
火影は心外だと言いたげに夜桜を見た。知ってたのなら教えてくれても良かったんじゃないか?
「理事長がどうせ、外にも出すなとか言ったんでしょ。」
「ええ。流石ですね。ほぼ同意見でした。」
あの、全く意味が分からないのデスガ。私は外に出たらダメなの?2人だけで話を進めないで!
「ちょっと待って。まだ分からへんのやけど。夜桜ってそんなに凄いん?」
凄くはないと思うけど。今までだって普通に生活してきたし。私も全く分からない。このままだと話に置いて行かれる。なんとかしないと。榊原先輩なんか口を開けたまま動かなくなっちゃったし。
「詳しく説明していただけませんか、西園寺さん。本人の私も式妖2人から聞いていないので。」
夜桜同様、全く分かっていない遥も深く頷いた。
「火影さん、良いですか?」
火影は退屈そうに頷いた。
「では説明しますね。『inperium Deus』、別名『神の支配者』とも言われますがかなり特異な存在です。」
そこから西園寺は『inperium Deus』について説明を始めた。
『inperium Deus』とは1000年に一度現れるか否かの存在で、何か世の中で大きな出来事があるとされる少し前に誕生する神様だけを召喚出来る生まれながらの召喚術師である。そして、その才能があるが故にその力を欲する人が多い。よって狙われやすいのだ。捕まえて欲しい人に売ろうとする輩もいる。一方で、その才能を持つ本人も強すぎる力ゆえ呑み込まれる人も少なくはないという。とまぁこのような説明をされた。
『神の支配者』という名はアメノサギリも口に出していた。アメノサギリは、私がそうだと分かっていたのか。
「それで、夜桜は家に待機させてどうするつもりだよ。授業に行けないじゃないか。」
そうそう。そこ大事。成績に大きく関係するから。
「ええ。でもそうでしか守ることができないのです。しかもあなた方が住まれている家は強力な結界が張られているでしょう。」
「まぁそうだけど。」
えっ?また聞かされてない事実。家に結界が張られている?全くそんな感じ無いけど。
「とにかく、坪田さんからの反応を待ちましょう。その間貴女は出来る限り、外に出ないことです。出席日数は学校側がどうにかしますから。」
「何なら、僕から疾風と連絡取ろうか?」
「…え。取れるんですか!」
さも普通のことのように放った一言に西園寺が驚いて前のめりになった。
「まぁ狐同士ならね。」
「先言ってよ!もう!」
みんなが一斉に文句を言う。その様子に火影はちょっと困った顔をしたが、次の瞬間にはもう悪戯な笑みを浮かべていた。
「てかもうすぐ来るんじゃない?疾風の気配がして来てるよ。絶対希からだね。」
その言葉にみんな文句を言っていたが一斉に口を閉じ、希が向かった方角の方を見た。
夜桜は希のいる方向に視線を向け、目を凝らすと一瞬白い竜巻がチラチラと見えた。
バトルを楽しみにしておられる方、なかなか出てこなくてすみません。
あと何話かで出てくると思います。
次の投稿をお楽しみに!
今後の展開に乞うご期待!
活動報告も随時見ていただければと思います。たまーに今後について書いているので。




