十一章〜お迎え〜
「どこまで言ったの?坪田さん。」
「…ほぼ何も言ってません。まだ明確な情報も言ってませんし。」
「それなら良かった。あなたの言葉1つでみんなの行動が変わってしまうから。」
理事長は安心したようにホッとため息をついた。
「それでは私は失礼します。」
ドアの手前に立っていた西園寺が一礼をし、出て行った。それを横目に見ながら1人希は今後について考えていた。
「それにしてもやっぱり早く出向いて正解だったわね。貴女なら事実を『ROYAL』のメンバーに伝えるだろうと分かってたから。」
「…。」
希が連れて来られたのは理事長室の奥の部屋。『holy fort』からも3kmほど離れている。そしてここは国の主要機関の中の1つで世間には知られていない『secret of silence 』通称ss省へとつながっている。
ss省とは、能力者を世間からできる限り隠し、保護する為の国の機関でこのラシーナ学園もこの省の配下にある。希はこの省の中の「予言者庁」からの召集を受けている。
あと10分で出発する予定だ。
「貴女がどう占ったかは分からないけど、あなたが一言言うだけで状況が一気に変わってしまうの。それは貴女が一番分かってることでしょ?」
「…。」
希は「予言者庁」が苦手だ。直ぐに帰してくれないし、いつも誰も隣に仲間がいない。心細い事この上ない。そして誰もが物珍しそうに私を見てくる。私は見世物ではないのに。
もうすぐss省から使者が迎えに来る。
狭苦しく暗いところへ連れて行かれるのだ。それからいつも通りの拘束期間が始まる。拘束期間はいつも1週間。だが今回の場合1ヶ月以上は向こうで過ごさなければならなくなるだろう。早く今持ってる情報を綾華達に共有しないと。絶対あの事は、あの事だけは伝えなければ。
でも、どうやって?
私のハリネズミは飛べないから放っても帰ってくるのに時間がかかる。
違う式を作ることもできるけど手慣れてないし、失敗して国にバレたらどうなるかわからない。ただでさえ国家秘密だというのに。
やっぱり伝えることなんて不可能か。ため息しか出ない。
*希、何か用があるのか?*
なにやら手首から声がする。銀色の腕環からだ。連れていかれる直前に夜桜が投げてくれた物。これは彼女が持ってる2人の狐のうちどちらかの物だ。
疾風さんと火影さん、どちらの?
普段あまり見たことないから腕輪では分からない。
でもこの声の主は…疾風さんだ!
「ええ。お願いします。」
希が周りの目を気にしながら静かに答えると腕環からスルリと狐火が抜け出てストンッと地面に着地した。その狐火はすぐに疾風の姿に変わった。
「どうしたんだ?」
疾風の声はいつになく心配そうだ。周りに見えないように妖力も調整している。気遣ってくれているのが一目で分かる。全て理解してくれているのだ。
だからこそ、今は疾風さんにしかできないことがある。
「疾風さん。私の頼み聞いてくれますか?」
その強い意志を持った問いかけに疾風は深く頷き、右耳をそっと近づけた。
希は一度息を整え、その内容を伝えた。
全て聞き終わった後、疾風は目を伏せた。
「伝える事はそれだけか?他に無いな?」
ぶっきらぼうに聞く疾風の言葉にはどこか優しさが含まれていた。その優しさを感じながら希は"はい"と返事した。このやりとりはごく隠密に行われた為、部屋の端にいたSPはもちろん、1メートル先に立っていた柊にすら聞こえていなかった。
希が答えた後すぐさま疾風は旋風のように細くなりドアの方向へ消えて行った。
疾風の姿を見届け、視線を柊に戻した。柊は目を閉じたまま迎えを待っている。
その直後小さく風鈴が揺れたような音がした。
迎えがきたのだ。壁からぬぅっと馬の頭が現れ、後ろには大きな馬車が。
その馬車から降りた官僚は丁寧なお辞儀をした。
「お迎えにあがりました。『Fate Affecter』。」
柊が応えるように官僚に一礼し、それに倣って希も一礼した。
「ではお乗りください。待っておられます。」
官僚に促され、希は柊に従って馬車に乗り込んだ。
無事に疾風が夜桜達のもとにつくことを祈りながら。
疾風と希、安心して見れる二人です。
疾風は無事に夜桜たちと合流できるのか?
次回の投稿をお楽しみに!




