十章〜希からの手紙〜
「あの部屋、僕たち入れなかったよ。」
火影は不満げだ。中に入れなかったことがそれほどショックだったのか。
「中はどんな感じだった?」
そこでハルと夜桜は中が英国風の部屋でソファーがフカフカだったこと、沢山の仲間と出会ったこと、執事がいたこと、強制的に外へ出されたこと、最後に希が走って占いに行ったことを話した。すると今まで黙っていた疾風がある情報を口にしようとした。
「最近あった式妖総会で話題に上がっていた事があったな。」
式妖総会って何⁉︎ていうかいつそんなもん行ってたの?私全然気づかなかったけど。
「あっそれ、僕も居たやつだよね!あの時、久しぶりに行って他の式妖達と盛り上がってたんだよ。楽しかったなぁ!」
「そうそう、昔の話とかで盛り上がってたよな。」
そんな楽しい総会って聞いたこともないんですけど。普通怖い顔をしながら今後について決めるものでは?
「それって各地の式妖が集まるってこと?楽しそうね。」
いや綾華、別にそこに乗らなくても。
「何それ!めっちゃ楽しそうやん!」
そこにハルも乗ってこなくていいから。ていうかみんな話ズレすぎ。
「結局何だったの?話題に上がってたことって?」
「ああ、それは……。」
その時、1匹のハリネズミが歩いてきた。口に紙を咥えている。首に赤いリボンが巻いてあった。という事は…。
「「希からだ!」」
そう、あのハリネズミは希の式神である。主人からの手紙を預かったのだろう。ハリネズミを見た途端目の色が変わる疾風と火影。目の奥には炎がメラメラと燃えている。
そしてここから疾風と火影のどちらが先に希の紙を見るかの争いが勃発する。普段は疾風だけだからそんなこと起こらないが、火影がいるから仕方ない。そしてなぜかしらハルが実況を始めてしまうのだ。ここ職員室前の廊下なんですけど…。(出来るだけ早く終わらせてくれ!)
「さてさて、白狐、疾風!普段クールな疾風だが希からの物となると結構熱い!今回こそは勝利をもぎ取れるか!」
疾風は希のことが好きだ。だからあまり本気にさせると怖い。そして疾風はハルを無視。ちょっとハルが可哀想に思われる。ていうか狐たちが見えない先生にとってはあなたが1人で大声をあげてるようにしか見えないよ、ハル。
「一方赤狐、火影!最近封じ込められていたこの狐。だがその前まではずっと勝利を獲得し続けていた。今日は火影が本命かもしれない!さあ、どうなる!」
どうもこうも今回2人とも強すぎてなかなか紙がゲット出来ない。徐々に紙がグシャグシャに…。
あー先生の目線が痛い。
しかも『ROYAL』になったとはいえ、まだ認識されてない。暴れていると捉えられても仕方がない。(『ROYAL』になるとある程度何やっても許される、と言われている。)
咥えていたハリネズミもどこかに行ってしまった。もう収集がつかない!10分以上格闘が続き、勝利を手にしたのは…。
「やったー!やっぱり勝者は僕だね。」
得意そうに希の手紙を掲げた火影だった。(結局紙はグシャグシャに。)その奥ではぶっ倒れた疾風が伸びていた。火影の手には希の手紙が。満足げな火影はそのまま手紙を読み始めた。
「えっと、[みんな15分以内に集まってください。でないと私は国の役人に占った結果を伝えるため連れて行かれてしまう。それまでに占った事を知りたければ早く来て!]ってヤバいやつだよ、これ!」
時間がない中伝えようとしてるってことは重要なことだ。早く行かないと!
「ねぇ、今何分か知ってる?」
綾華がみんなに聞いた。みんな一斉に背後の廊下の壁にある時計を見ると…。
「「「「「あと2分しかない!」」」」」
希がいる部屋まで大体走っても5分はかかる。絶対間に合わない。あぁ、変な小競り合いなんかしてるから。
「俺に任せろ!希の所まで俺が飛ばしてやる。その代わり希を全力で救え!俺も直ぐに行く。」
疾風、めっちゃカッコイイ。狐なのに惚れてしまいそう。みんなはその言葉を聞いて熱く頷き、疾風の近くに寄る。
「『大嵐』!」
疾風の魂のこもった嵐に吹っ飛ばされると…。
ストンッ!瞬く間に希の部屋の中に。(プライバシーもあったもんじゃない。)移動時間僅か1秒。愛の力、恐るべし。
希はまだそこに居た。
「危なかったね。もうちょっとしたら行こうと思ってたんだよ。」
「行くって何処に?」
「理事長室に。」
予想外の返答に夜桜たちは驚いた。
「命が危なかったんじゃない…の?」
「えっ、私そんなこと書いちゃってた⁉︎」
今度は希がビックリする方だ。あまりにビックリしすぎて肩に乗っていたハリネズミが振り落とされそうだった。そこに遅れて到着した疾風が居合わせた。
「希、大丈夫か!」
「疾風さん!私は全然大丈夫だけど…みんな揃ってどうしたの?」
希の手紙の「早く来て!」の言葉に反応して相当切羽詰まっていると思い込み、急いで来たことを伝えると希はちょっと笑った。希がみんなを早急に呼んだわけを話し始めた。国からの依頼で日本各地で起こっている不穏な動きを占い、今後どうなるかなどを国に説明する。そのため、自分は1週間以上この学校に来ないかもしれない。と、ここまで聞いたところで火影が泣きそうになり、希に引っ付いた。
「希、学校来なくなっちゃうの?そんなの嫌だよ。断れないの?」
いや、国の依頼断ったらどうなるか分からないのか、火影。全く。夜桜は静かに火影とつながっている腕輪がある方の手を後ろに下げた。その影響で1メートル距離が開いた。
「何するんだよ、夜桜。せっかく希に長く引っ付いておける良いチャンスだったのに。」
下心バレバレだよ、火影。バレバレすぎて腕輪が振動し過ぎている。夜桜は内心で火影に怒りながらも希に先を促した。
「今、国中が妖怪や魔物たちによって破壊されていってる。しかも成仏してたはずの霊も中にはいる。そしてその背景で操っている黒い影。1人の術者。今分かったのはそれくらい。てことは誰かが、ここ日本を征服しようとしているんだよ。誰かはまだ分からない。でもこれだけは言える。相手は…すごく強くて賢い。そしてこの術者は他の陰陽師には判断できないほど巧妙に隠れている。私も見落としかけた。」
それってどうしようもないやつじゃない!日本最高峰の術者の希でも見分けにくいってことは私達にとったら歯が立たない相手だ。
「私達にそれを先に教えてくれたってことは…。」
「この事は多分秘密事項だよ。だから誰にもこのことは話しちゃいけなかったかもしれない。でも結果を伝えるって自分が約束したからね。
私はこのまま国に監禁されて占い続ける未来が待ってるんだと思う。さっき1週間って言ったけどもしかするとこの騒動が終わるまでずっとかもしれない。
あとこれだけは言っておかなければいけない。この中にこの危機を救えるかもしれない人が紛れ込んでるんだよ。それはね…。」
ガチャ。
「間に合ったようね。坪田さん、あまり話さないでね。」
ドアを開けたのは柊理事長だった。そして後ろには西園寺と伊吹、それからSPらしき人が続いている。
「坪田さん、さあ行きますよ。貴女をみんな待ってるわ。」
そう言って立ち去ろうとする理事長たちに綾華は声をかけた。
「ちょっと待ってください。坪田さんを連れて行く理由は何故ですか?ここでみんなで一緒に対策していつも通り報告を上にあげれば良いだけの話では?」
「それがそうとも限らないのよ。関係ない貴女に言われる筋合いはないのよ、古兎さん。」
そう冷たく言い放つといよいよ希を連れて出て行こうとした。夜桜は咄嗟の判断で疾風の腕環を希に向かって投げた。それを上手くキャッチした希は直ぐにしっかり腕にはめて抜けないようにした。
そして口を動かし呟いた。
「ありがとう。」と。
希はそのまま理事長ら大勢に囲まれながら怯えた目で部屋を去っていった。その希を心配そうに見ながら付いていく疾風の姿もあった。
「行っちゃった。」
その場に残った夜桜、遥、綾華、 火影の4人はただ呆然と後ろ姿を眺めていた。
希が国に連れて行かれました…。
これから夜桜たちはどうするのやら?
そしてこのあと希が取る行動とは?
次回の投稿をお楽しみに!




