AIが友好的な挨拶を返してくれないなんて、聞いてない
≪作業開始報告≫
XX月XX日(月)
実験としてAIに恋愛感情を持たせる実験に着手。実験の期限は5日間の予定。
現在の進捗率 0%
本日の目標進捗率 20%
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「よし、報告終わり」
俺はタブレットのメール送信ボタンをタップし、実験対象に向く。
目の前にいるのは座っている女性型アンドロイドであり、実験用AIを積んでいる。
少子高齢化が叫ばれて久しい我が国は、労働力を確保するためにアンドロイドが出回っている。しかし、問題があって決まりごと通りには出来るけど、人間らしい行動は不得手だ。当たり前である、アンドロイドなんだから。
ただ、それだと問題だと思った、主に古いサービス体制を良しとする人々から評判がすこぶる悪いので、人間らしい行動をさせる実験をとらせるとの事。
いくつかのセッションに別れているのだが、俺の担当は恋愛感情だ。
…おい、誰だよ、今モテそうもない奴をなんで担当にしたんだよって言ったヤツ。
いや、全く否定できないんだが…工学系大学に入ったところから、女性とは縁はない。変な女には縁があるが…ヤツは普通に面白おかしくこれから始まる実験を見てるんだろう。
椅子を少し左に回転させ、黒いドーム型の監視カメラを軽くにらむが、どうせ睨んでも、笑っていそうな主事を想像して止めた。
「まずは恋愛感情を覚えさせるって何からやるかな…」
AIはなんでもできる訳じゃない。
AIはここでは機械学習という、自分で問題の回答を見つけ出していく方法を推理させる方法を指している。つまりは、恋愛感情を因数分解し、各問題として小分けにしてアンドロイドに認識、解答を求めさせなくてはいけない。
「…恋愛したことない俺に、恋愛感情を分けるってどうすりゃ…」
タブレットを見て、論文を読み込む。少し古い論文を見つけ、恋愛の構造化を見つけたので、これを参考にしようかな。方向性が見つかったところで、アンドロイドに電源すら入れてないことに気づいた。
「そういや電源いれないとな。…やけにリアルな人間型を選んだものだな、主事は。シリコンで覆われてるみたいだし、高そうだけど、この予算どこから出たんだろ?」
俺は立ち上がり、タブレットを手にしたままアンドロイドの後ろに回る。
首の当たりにあるボタンを長押しすると、アンドロイドが動き出した。目が開き光彩の回りを青く光りだす。準備体操よろしく動き出す様子はまさにロボット。手をかくかくしながら起動し、一度立ち上がり再度座る動作をした。
『ただいま準備中です。しばらくお待ちください』
俺は前に回りタブレットに目を向け、アンドロイドとの接続を試した。きちんとwifiは繋がったし、問題ないだろう。普通のアンドロイドの実験と同じく、タブレット内のアンドロイドに向かって手をスワイプさせると、同じように動いた。
動きは問題なさそうだ。
会話はどうだろう?
「君の名前を教えて」
『知らない人には名前を教えられません』
「は?」
思わずガバッっと監視カメラを見てしまった。…主事が大笑いしている姿が想像できてしまい、舌打ちしながらアンドロイドに視線を戻す。
いや、考えようによっては、これは良くできたAIだ。俺を知らないから、名前を言わない、と言ってきた。
「俺はキョウスケだ。君の名前も教えてほしい」
『はじめまして、キョウスケ。私はマドカです』
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≪作業途中報告≫
XX月XX日(月)
実験としてAIに恋愛感情を持たせる実験に着手。
セットアップをし、彼女に俺の存在を認識させた。
現在の進捗率 5%