死亡記事
十五日未明、各界で著名人として知られるアンデッドさんが死去した。年齢は二百五十三歳だった。
アンデッドさん宅の自室で本人が倒れているのを家族が発見し、救急車を呼んだが既に亡くなっていることが判明。
遺体の状態を見て、そのまま警察機関に通報した形となった。
警察では自殺・他殺の両方の線が考えられるとのこと。変死事件として県警に捜査本部が設置され、捜査が始まっている。
初見の検死報告によると、直接的な死因は原因不明の窒息死のようである。それとは別にアンデッドさんの体内から未知の毒物が検出された。
これは開発中の冥王星でつい先日発見された新種の劇毒物『サウロン』の可能性が高いと見られている。
しかし新種の劇毒物である『サウロン』は、冥王星基地とリンクし共有されたデータ上でそれと確認照合が出来るのみ。地球上での生成は現在不可能な毒物だ。
先日の発見後、研究中の新種の劇毒物を乗せて冥王星域から発進した運搬貨物船も、まだ地球へ帰航中である。
発見されたばかりで未知の部分が多く、地球上には存在もしない劇毒物がなぜアンデッドさんの体内から発見されたのか。それらは依然謎のままだ。
またアンデッドさん自身は過去に耐毒強化施術を受けている。『サウロン』に関しても多少の抵抗性があったと見られ、それにより毒物が直接的な死因にならなかったのではないかと推測されている。
この件に関して冥王星開発を担っている科学省と傘下の研究機関も大きな関心を示しており、警察機関への技術協力も目処に入れているとの話である。
他にもアンデッドさんの遺体には原因不明の斑点や傷跡などがいくつも残っていたとの報告があり、因果関係などより詳しい検死報告の発表が追って急がれている。
記者の取材を受けた遺族の話によると、アンデッドさんは生前に「もうすぐ始まる」などと意味不明な言葉をしばしば口走っていたという。
近年体調が優れなくなってからは殆ど自室に籠もりきりになり、外部との接触を拒んでいたとのことだ。
警察ではそれらと事件への関連性がないかが調べられている。
亡くなったアンデッドさんは様々な科学技術開発や文化的な作品の数々を多く世に残しており、今年の『連邦議会・名誉殊勲賞』候補の一人としても名前が挙がっていた。
なお故人による生前からのたっての強い希望もあり、その遺志に沿って葬儀・告別式は取り行わないとのこと。
通夜は二十日に近親者のみで済ませる模様である。
ジャンルはSFにしましたが現実的な所(自身の死亡記事な部分も)が残ってるので、大人の童話みたいに取ってもらえると幸いです。
ちなみに毒物の名前はロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)から取っています。
こういう記事って真実が全てそこに書かれている訳ではないですよね。だから全てを明かす必要がないという形式が気に入ってます。
今は亡き某携帯メール小説賞で最終候補まで残った作品でした。