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99話 犯人捜し 1

 貴族を中心とした爆弾を用いて強盗を繰り返す殺人者。

 通称【爆弾魔】は【王国騎士十傑】の2人がクナリスを訪れてからはすっかりと鳴りを潜めていたらしい。

 連日あったとかで、被害は10件。

 毎日最低一件、酷い時には3件貴族の屋敷が襲われたとか酷い話だが――酷いとは勿論警備面で――それ故に、流石に10件目ともなればそれだけ警戒はされていたはずだ。というか、この街貴族多いな。しかもまだ狙われる余地のある貴族残っているとか。

 爆弾なんてものは設置して起爆させる。この手間が必要であり、事前に仕掛けるにしろ、その場で仕掛けるにしろ、剣で相手を斬り殺すよりも準備に手間取る。

 自分も巻き込まれかねないために、仕掛ける場所にも気を払い、更に見つからない場所を選ばなければならない。

 果たして強盗という犯罪において爆弾は向いているのかどうか。

 そこから考える必要は……無さそうだ。


「実際に爆弾使われているんだから手段の有用さについては別にいいよな」

「はい。考えるとすれば何故爆弾を用いたのか。剣の心得が無かったか、投擲に自信があったのか……」

「投擲……? そうか、そっちもか」


 時限爆弾式の設置型のようなものを使ったのだと考えていた。

 見つけたら赤青どちらの配線切ろうかなとか、賭けに出るつもりだったがよく考えれば爆弾と一口に言っても種類は一つではない。

 手榴弾とて爆弾だ。

 安全ピンを抜いて投擲する。

 後は爆破するのを安全圏から眺めればいい。

 人一人程度を殺す威力であれば盾なんぞの向こうで籠っていればいい。

 建物を吹き飛ばす威力なんざ、殺しには向いていても強盗には向いていなかったか。


「いや……別に一つと限らなくていい話か。投擲と設置、併用すればより現場の混乱を招くことが出来る」

「その場にいなければ二か所で起きている爆音のどちらに犯人がいるのか分からないでしょう」


 俺達はクナリスの冒険者ギルドの隅の席に座り、爆弾事件の詳細が書かれた書類を前に座っていた。


 『【爆弾魔】を見つけるか、新たな証拠を発見せよ』


 これが俺達の受けた依頼内容である。

 クナリスの冒険者ギルドで引き受けた正真正銘の依頼だ。


 余所者の、それもランクとしては低い俺がなぜ引き受けられたか……それは俺のランクが思っていたよりも上がっていたことにあった。

 金髪勇者と共に受けた【フットスタンプ】の討伐。俺は何もしていないが、同行者ということで金髪勇者と同じだけランク報酬も受け取ってしまっていたらしい。

 そのため、他の街においてもある程度の依頼を受けることが出来るようになっていた。

 そして【爆弾魔】は数日現れていない。

 これによって【王国騎士十傑】が訪れたことにより逃亡したと思われており、緊急性が薄れてしまったのだ。

 だからギルドとしても駄目元で出した依頼。

 まさか隣町の成り上がりのランクを引っ提げた男が受けるとも知らずに出したのだろうが、まあ上手く利用させてもらおう。


「生き残った奴の話だと【爆弾魔】は男。顔はフードでよく見えなかった、と。体格で男だと判断したみたいだな」

「男と分かる体格であるなら、尚更爆弾を使った理由が謎ですね」

「爆発が好きだったんじゃねえの? 芸術家気取りの爆弾魔ってのも考えられるぜ」

「ただの強盗犯なんですけどね」


 爺さん曰く、軽傷と重症者がいるんだったか。

 爆弾の近くにいたやつが重症もしくは死んだのだろうけれど、軽傷だからといって目視出来ない位置にいたとは限らない。


「目撃者に当たってみるってのも一つだな。もう散々にやられていることだろうけど」

「10件のうちで軽傷な者は……129名ですね」

「散々やられていることを俺達が繰り返しても無駄だな。別に俺達は特別聞き上手でもねえ」


 そして名探偵でも刑事でもない。

 少しの手がかりから何かを導き出すことなんて出来ない。


「ご主人様は……良い意味で諦めが早いですね」

「諦めじゃなくて切り替えだ。必要になったらちゃんと聞き込みだってやるさ」


 だけどこう多くては、2人では追い付かない。

 それに、そう難しくないことはすでにやっていることだろう。


「では、どちらへ向かうのですか」

「んー……少なくともこうやって話しているだけってのは違うだろうけど。129っていう数字を聞くから多く感じるんだよな。もっと少ない数字で……そうだな、10くらいでいいか」

「10……爆破現場ですか。確かに129と比べればまだ少なくは感じますけれど……10か所巡ることには変わりませんよ?」

「気持ちの問題だ。暇つぶしに始めたことなんだから楽しくやりたいだろ」


 面倒と思ってしまってはこの依頼を受けた意味が無い。


「それに一つ一つ詳しく現場検証する気はねえよ。何か共通点でも無いか見に行くだけだ」

「共通点、ですか」

「この街にいくつの貴族の屋敷があるか知らんけどよ、その中でも何故選ばれたのか。それを知れば犯行動機ってやつも浮かんでくるんじゃねえのか?」

「犯行動機って、お金の為では無いのですか?」

「そうとも限らねえぞ。金目当てに見せかけて実は殺された貴族や護衛に恨みがあったりな」


 とは言いながら実は金が目的だったのではないかと思っていたりする。

 10件の現場があり、10人の貴族全てが殺されている。

 それが故意なのか爆破に巻き込まれたのかは分からない。

 護衛も殺されていたり殺されていなかったり……隊長クラスが殺されている傾向のようだが。

 

「死者は21名のようですね」


 シドドイが書類の一点を指さす。

 だが、俺の目は別の一枚を凝視していた。


「おいおい……この街の貴族一覧とかあるのかよ。どうもまだ狙われていないのって、ぱっとしない貴族ばっかりのようだな」


 武功を立てていない。

 金が無い。

 人望が無い。

 名声が無い。

 

 それこそ名ばかりの貴族とてある。

 護衛など配置せず、そこらの庶民と同じ様に家族だけで暮らしている。

 そんな貴族もいるのだが、そちらは全く狙われていなかった。


 この街を支える、力ある貴族だけが狙われていた。


「この街そのものに恨みがあった……とかでしょうか。【十傑】が来なければ犯罪者で溢れていたでしょうから、そのまま街が荒れ果てていたかもしれません」

「後はただの愉快犯とかな。恨みは無くても、ただ街が終わっていく様を見たかったとかあるかもしれねえぜ」

「そこまでのことは……」

「するんだよ。頭のイカれた奴は何するか分からねえぞ」


 街を植物で埋め尽くそうとした【緑の巨人】も愛が理由であり、本人には街を、人間を害そうという意志は無かった。

 意図せず、ということもある。

 何を目的として、結果的に爆死体を作り出したのかは分からない。

 

「しかしご主人様……今回は何というか、余裕が見られていますね」

「俺は何時だって余裕を持っている男だが……そう見えるか?」

「普段であれば私はシルビアさんに調査を命じ、ご主人様は司令塔の立場でいるはずです。しかし今回は、普段であれば面倒臭いと言いそうなことも自らやっておられる」

「なに、俺ってそんなに面倒臭がりだっけ?」

「はい」


 はい、じゃないよ。

 

「……まあ一応策はあるんだよ。ただ、迂闊には使えない、最後の手段って奴だ」

「それはご主人様の抱えている秘密に直結することですか?

「……まあな」


 そういえばシドドイには俺が【ねくろまんさぁ】であることを伝えていない。

 凄い回復魔法の使い手という認識だったはずだ。


「ご主人様の魔法、あるいはスキルがただの回復魔法で無いことは何となく予想出来ています」

「……そっか。まああれだけやっちまえばなぁ」


 そもそも俺が傷ついた際に自分を回復していない。

 シドドイの怪我も回復薬を使ってきていた。


 俺がシドドイの前で傷を直したのはアイとシー、シルビアのみだ。

 そろそろ、明かす時が来たのかもしれない。


「そうだな……裏でこっそりやるつもりだったけど、見せてやれるかもしれないな」

「ご主人様の……よろしいのですか?」

「共に魔王を倒した仲間だからな。別にあの直前にだって言うつもりはあったんだぜ?」


 それに、これからマモンと同程度以上の強さの敵が現れた際にシドドイが俺のスキルを把握しているのといないのとでは戦略の幅が変わってくる。

 シルビア達を囮に出来ることを知っていれば俺とシドドイの負傷は最低限に抑えられるはずだ。


「百聞は一見に如かず。使う時にでも教えてやるよ。それまでは楽しみに待っていな」


 俺のスキルを明かし、シドドイが恐れ戦いたら……それどころか周囲に言いふらそうとでもしたら……その時はやるべきことは一つだな。

 口封じをした上で蘇生する。

 シドドイという人材は今や貴重。

 これだけの戦力は簡単に捨てたくない。


「ともあれ現場検証だ。犯人も現場に戻ってくる可能性があるかもな」

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