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94話 【はにぃおいる】 3

「爺さん……」

「いやぁ、すみませんの。騙していたみたいで」

「いや、途中から何となく気づいちゃいたが……」


 なあ、とばかりにシドドイを見る。

 シドドイも俺の意図を察したのか頷く。


「はい。【王国騎士十傑】……騎士と呼ぶには貴方はあまりにも、騎士には見えないといいますか……」

「機械いじりの好きな爺さんじゃねえか」


 老体であることに加えて、剣を持って戦うとは思えない。

 体力は無さそうだし筋力も無さそうだ。

 辛うじて、歳を重ねたことによる経験はありそうだが……。


「如何にも、儂はただの爺。とてもじゃないですが、剣も盾も持てる力はありません。一振るいするだけできっと腰は砕けることでしょうな」


 ハッハッハと笑う爺さんと顔を顰める長身痩躯の男……アレクサンドル。


「儂は【機械技神】。自分で剣を振れぬなら、振れる機械を作り出すまで」

「青年よ。この卿はな……あろうことか甲冑を自在に動かし剣を握らせているのだ。元より命を持たぬ甲冑だけの騎士。ある意味では不死の存在だ。並みの者では太刀打ちできぬことだろう」


 不死の存在、ね。

 命無き甲冑騎士……か。

 俺の蘇生させた人形とどっちが強いものかね。

 俺の人形は素体次第か。


「こうやって操縦するのですがな、儂でも結構難しいですじゃ」


 爺さんが取り出したのは四角い箱。

 ボタンやら取っ手やらが付いている。


「……ラジコンかよ」

「同時に操縦するのは……まあ20領といったところでしょうか」

「めっちゃ多いじゃねえか」


 その数個のボタンと2つのレバーが付いたリモコンで何が出来るんだよ。

 

「ほれほれほれほれほれ」


 うわ、20の甲冑やマネキンが踊り始めた。

 くねくねと舞うその姿は気持ち悪い。

 一斉に三回転半のジャンプを始めて爺さんがドヤ顔をしている。


「どうですかな? この儂の指捌きは」

「どうと言われても、指捌き以前にその技術がすげえわ」


 よく見ればリモコンの側面に20程の小さな切り替えボタンが付いていた。

 それを押すことで同時に20の人形を動かせるのか……いや無理だろ。


「卿よ。いい加減そこまでにしておけ。時間が無いのは分かっているだろう」

「……ですな。そろそろ動かねば陛下が立ち上がってしまいかねません。陛下の代わりに儂が痛くて重たい腰を動かしたのでありました」


 人形の動きが止まる。

 そして、元の位置に戻ると爺さんはリモコンを懐へ仕舞う。


「お客様、申し訳ございませんが今日は店じまいとさせて頂きます」

「ただ飯屋と間違えただけなんだけどな。客もなにも、この店が何を売っているのか終ぞ分からなかったぞ」

「まあ儂も別に何を売っているわけでもないですからな。ただ儂の自信作を見せびらかすための店ですじゃ」

「それ、店じゃなくて博物館だからな」


 まあ俺もようやくこの爺さんから解放されるきっかけが出来たというものだ。

 このままおさらばさせてもらうとしよう。


「時に青年……その装いからして冒険者かね?」

「うん? まあそうだな。俺とシドドイは冒険者だ。ここじゃなくて隣のスジャッタで登録しているけどな」


 俺の服装と足元の汚れ、シドドイの弓を見てそう判断したのだろう。

 目聡いというか油断ならないというか。


「隣の街か。ならば悪いことは言わない。早いところ帰るがいい。数日かかることは承知だが、この街では今【爆弾魔】が騒ぎを起こしている。巻き込まれたく無ければ、な」

「悪いけど護衛依頼を受けている最中でな。俺1人で勝手に帰るわけにはいかねえんだわ」

「護衛か。見たところ剣士には見えぬが……?」


 護衛と言えば前線に立って剣や盾を振るうのが主流か。

 かたや俺とシドドイは全くタイプが違う。


「俺が魔法使いだな。補助がメインの。こっちのシドドイは見た通りの弓使い。街から街への移動が護衛内容だから今は休憩中だ」

「……なるほど。敵が接近する前に倒す、か。護衛対象を守るに相応しい形の1つやもしれぬな」

「ならこのやり方を広めておいてくれや。きっと頑丈な奴が突撃してきて壊滅するだろうさ」


 盾を持った敵がいれば弓使いなんてものは簡単にやられてしまう。

 接近戦が出来る敵に対しては、結局接近戦で対応しなくてはならない時もあるのだ。


「後学のために聞いておこう。お前達はどのようにして護衛対象を守って来たのだ?」

「そりゃ決まっているだろう。接近戦がめっちゃ強い奴がいたんだよ」


 実際は俺や医者崩れの魔法で足止めをしながらシドドイで止めを刺してきたが、まああまり勧められたやり方ではない。それどころか黒魔法に対してあまりこの国はいい印象を持っていないようだ。

 黙っておくのが吉だろう。


「……それは一本取られたな」

「別に取ったつもりはねえけどな。勝手にそっちが勘違いしただけだろ。ここにいるのが俺の仲間の最大人数じゃねえさ」

「……そうだな。名を聞いても?」

「シドウだ。スジャッタで最近売り出し中のゴレンさんに教えられている立場さ」

「覚えておこう。シドウ、そしてゴレンだな」


 いつのまにか爺さんが店内の人形を全て片付けていた。

 あれだけあったはずなのに今は店の中は綺麗なものだ。


「あまり見たことがありませんかな? 【アイテムボックス】というスキルなのですが」

「……いや、知っているぜ。そういやあったなって思い出したくらいだ」


 数少ないが持っている人は持っているといった程度の珍しさだったか。

 商人御用達だとか。


「またどこかで会えればゆっくりと儂の機械を見ていってくだされ。これ以外にもたんと用意はしてありますのでな」

「卿よ。そういったことは――」

「アリスは三段階の変形を残しておりますじゃ」

「ほう、詳しく聞こうか爺さん」

「卿よ、それは聞き捨てならないな」


 変形とか、そういうのあるなら先に言えよ。

 まさか合体もしちゃうのか? 

 可変式か? 腕からミサイルとか出ないのか?


「ただの愉快なお掃除ロボットかと思っていたけど、それなら話は別だ。また来るぜ」

『ろくでなしが増えるのはあまり歓迎できませんが』

「シドウ殿。アリスはまだ成長途上……体の話では無くて。いや、体ではあるか……」

『マスターもろくでなしでした』

「儂がまだ注ぎきっていない技術があります。これから更に進化しますし、未だ見せていない手もありますじゃ。是非とも機会があれば、鑑賞していってくだされ」

「ああ。特等席で見てやるよ」


 それが果たして俺に対して振るわれるのか、ただの見物人かは話は置いておくとしよう。

 爺さんは【王国騎士十傑】。作られたアリスとやらも間違いなく戦闘用。

 俺が冤罪で指名手配やらされて敵に回らないよう気を付けなければな。






 機械大好き爺さんの店というか博物館を出て、改めて飯屋を探す。

 

「【爆弾魔】というのは物騒な話だったな」

「はい。ご主人様が安心してこの街に滞在するには邪魔な存在ですね」


 ステーキ店のような店を見つけて入ってみた。

 お値段はかなりのものだが、旅行に来た気分で散財していこう。

 小遣いはまだまだある。

 ジルから頂いた宝物は売れないとしても、特別な力も無い金貨銀貨はさっさと使ってしまってもいいだろう。


「だな。曲がりなりにも護衛という依頼を受けているんだから、護衛対象の安否も考えると捨て置けない案件だ」

「さすがご主人様。自分のことだけではない。優しさを感じます」

「そう持ち上げてくれるなよ、シドドイ君」


 肉が運ばれてきた。

 俺は上等な肉の部位をレアで。量もそれなりに。米もパンもいらぬ。肉だけで腹を満たしてやるぜ。

 シドドイはしっかり焼いたものを適量。パンも合わせて頼んでいる。こちらが賢い選択だ。


「だけどまあ危険だと判断したらすぐ手を引くぞ。あくまで俺達の身の安全を保障するために調べるだけだ。手を出し過ぎてこっちまで被害が及ぶようでは、意味が無いどころか裏目に出ちまっている」

「どこまでが危険なのか……その判断が重要ですね」


 肉にナイフを入れると赤身の間から肉汁が出て来る。

 熱々のプレートで軽く表面を炙ると、口の中に入れる。

 ……溶けるように柔らかい。脂も甘い。しかし、しつこさを感じない。


「ひとまずは情報集めだな。最近は騒ぎも収まっているって爺さん達も言っていたし、逃げている可能性もあるかもだ」

「とすると、ギルドか何処かに行きましょうか?」


 シドドイは肉汁をパンに染み込ませて食べている。

 あれならば余すことなく肉を味わえるだろう。

 ……俺も頼めば良かった。


「当初も予定していた冒険者ギルドか」

「武器の素材となる報酬を確かめに依頼を見に行く予定でしたね」


 話しながらフォークを肉に刺そうとし……空ぶった。

 気づけば肉は消えていた。

 俺の皿からも、シドドイのも。

 

「ありゃ、もう食べ終えちまってたか」

「ふふ。お代わりを頼みますか?」


 ……財布の中身を心配する必要はない。

 肉の数切れくらいはまだ出せる余裕はある……が、


「腹八分目だ。これくらいの方が動きやすい」

「私もお腹いっぱいです。ご主人様、ご馳走様でした」


 席を立ちあがり、金を店員に渡す。

 店を出ると大通りから歩き出す。


「さあメインディッシュは終わったぜ。シドドイ、まだいけるな?」

「はい。先ほどは不手際でご迷惑をおかけしましたが、今度こそ問題は無いかと。旬の果実を使ったパフェのお店が近くにあります」


 甘いものは別腹かな。

 俺達は寄り道をすることなく次の店へと向かった。


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