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88話 護衛 2

「それではこれからシドドイさんの冒険者登録を始めていきますねー」


 近くにいた受付嬢にシドドイの冒険者登録を任せ俺は椅子で冷えた飲み物なんかを楽しんでいる。

 適当な魔物図鑑やスキル図鑑を眺めていると新たな発見もあって楽しい。

 お、【鑑定】の下位互換みたいなのもあるのか。【勘定】って、金換算のスキルって……何の役に立つんだよ。他人の価値が分かったところでどうしようもないだろ。すぐに価値なんて変わりそうなものだし。

 魔法も色々あるが黒と土は知っておかないと……あの闇医者の使っていた痛覚制御も楽しそうだ。土魔法もそろそろ攻撃系を覚えたいものだ。


「シドウさん、お久しぶりですね」

「アシュリー……久しぶりか?」

「久しぶりですよ! たまにギルドで見かけましたけど、なんで声かけてくれなかったんですか」


 あー、そうか。

 目は合ったけど話していなかったのか。

 顔を見ることはあったからそんなに久しぶりという気もしなかったけど。


「あの女性は……シドウさんのお仲間ですか?」


 すでに受付嬢の間で伝達されていたのか、アシュリーはシドドイが俺の連れて来た冒険者志望と知っていた。

 なんだその笑顔。初めて会った時よりもニコニコしやがって。


「綺麗な方ですね。どこでお知り合いになられたんですか?」

「奴隷商会で」

「どれっ!?……従業員だったのです?」

「いや、奴隷だった。買った」

「シドウさんが?」

「俺が」


 正確にはグリセントを脅したと言った方が正解だが、まあ細かいことはどうでもいい。

 シドドイが奴隷だったことを言わなくても良かったのではないかと指摘されるかもしれないが、なんかアシュリーの態度がむかついたからこれで正解だ。

 なんかショック受けてる風を装っても別に俺には関係ない。


「ま、まあ……冒険者の方が奴隷を買うのは珍しい話ではありませんがシドウさんなら奴隷でなくても仲間は見つかったのではないですか?」

「そうか? 俺の仲間4人のうち3人は奴隷だぞ」

「そ、そんなに……」


 あ、クエストといえばギルドの奴に聞くのが一番か。

 俺が探すよりも把握している者の方が見つけやすいだろう。


「なあアシュリー、どこかに凄い楽ですぐに終わって報酬が良いクエストないものかな」

「あればすぐに誰かが取ってますよ。それに、そんなクエストは依頼人自身が解決できるでしょう」


 それもそうか。

 俺がそんな依頼出そうとしたらまず自分でやっちまう。


「せめてその3つのうちの1つなら探せますけど……」


 凄い楽か、すぐ終わるか、報酬が良いか……前2つは報酬がしょぼそうだし、後ろのは難易度が高そうだ。

 

「ちなみに……報酬が良いクエストってのはどんなのがあるんだ? あ、報酬っつっても、金じゃなくて現物がいいな。武器の素材になるような木とか石とか金属とか」


 骨とか鱗とか皮でも作れるか?


「そうですね……やはりドラゴン退治なんてのは破格の報酬にはなりますが……シドウさんには難しいでしょうし」

「いつから俺がドラゴンを倒したことが無いと思っていた……?」

「え!? あるんですか!」

「いや無いけども」

「……」


 あるのは対峙しただけであって退治はしていない。

 それに俺には足止めが精いっぱいだった。


「……まあ探しておきますけど期待はしないでくださいね。シドウさんのランクではまず受けられるクエストに制限がありますから」


 そういやいくつだっけ今。

 金髪勇者にくっついって行った【フットスタンプ】は一応は倒したという扱いになっているけど、シャルザリオンはそもそもでいなかったことにしようと執事の爺さんが金髪勇者を言いくるめたおかげでそちら分はカウントされていない。


「簡単なクエストをコツコツと。それが皆通っている道ですからね。毎日顔を出してください」


 そう言い残してアシュリーは去っていった。

 次来るのは……まあ気が向いた時だろうな。


「む、そこにいるのはあの時の男か」

「お、闇医者じゃんか」


 珍しい顔というか、いるはずのない人間がそこにいた。

 【ドクター・ストップ】。黒魔法を応用する医者崩れだ。

 医療知識があるのかすら怪しいが、痛みを消すだけなら十分な腕を持っている。


「闇でもないし医者でもない。まだ未熟な私は一から始める途中なのだ」

「ふうん……? そういやあの奴隷はどうしたよ」


 言葉を紡げない奴隷の少女。理由は知らんが。


「ホープのことか。アイツなら家で留守番だ。いつまでも引っ付かれては困るからな、練習がてら1人で出てきたのだ」


 親離れが必要ってか。

 まあ娘のように懐かれてはいたけど。


「それで、どうしたんだよ。まさかアンタも冒険者になろうってのか?」

「いいや。私は冒険者などにはならぬよ。その力もない」


 まあ闇魔法しか使えない魔法使いってのは嫌われているらしいしな。

 山賊やらには人気らしいけど。


「依頼を出そうとな、そう思ってここに赴いたのだ」


 【ドクター・ストップ】は1枚の紙きれを取り出す。

 そこには何やら文字が書いてある。


「護衛任務、ねぇ」

「ああ、隣の街までな。私もホープも弱い。護衛でも付けなければ旅は危険なのだ」


 あの怨念でも撒きながら旅すればいいんじゃねえの、とかもう言える雰囲気じゃねえな。

 憑き物が落ちたかのように、命を大事にしてやがる。


「そうだ、確かお前も冒険者であったな。ならば隣の街までの護衛を頼めないか?」

「……へ?」

「そうだ、それが良い。お前とあの女の強さは私も知っている。素性も知れぬ者と旅をするくらいならお前の方がまだマシだ」


 なに、俺ってマシ程度で選ばれてるの?

 是非とも俺がいいくらいの人選じゃないの?


「実は今日出立したいのだ。急ぎで悪いのだが、頼めぬか?」

「あー、ちなみに報酬は?」

「金はあまり多くは出せないのだが……私は黒魔法を研究した時に余った素材が多くある。好きなだけ持っていくがいい」


 研究の素材、ねぇ。

 あの地下室でチラッと見た感じだと正体不明の鉱石やらもあったな。

 武器の素材にもいいかもしれない。


「隣の街だと……往復で2日くらいか」

「1日は向こうで用事があるから計3日だ。時間を取ってしまう上に報酬がそこまで良くは無いのだが……」


 金は別にいい。他でいくらでも稼げる。

 だが、【ドクター・ストップ】の研究材料には興味がある。

 それに、コイツは曲がりなりにも黒魔法を研究していた。


「報酬を一つ追加しろ」

「なんだ?」

「俺に黒魔法を教えろ。それで引き受けてやるよ」


 あの痛覚制御だけでもモノにしたい。

 俺の周りで黒魔法を使える奴も中々いない。

 今までは独学だったがこうして黒魔法仲間に出会えたことも何かの縁だろう。


「……私に使えるのはそう多くないぞ?」

「構わねえよ。アンタに使えるのは俺に使えないやつだからな」


 僅かな金と素材と黒魔法。

 それが3日の護衛で手に入る、か。


「あ、一つ言い忘れてたけど、あの時俺と一緒にいた女……シルビアは多分来れないぞ。別用があるからな」

「む……戦力半減か」

「代わりに違う奴を連れていく。冒険者に成り立ての新入りがな」


 丁度冒険者登録が終わったのだろう、シド土井がこちらへと駆けてくる。


「ご主人様、Fランクからですが登録が終了いたしました。これからクエストをどんどんと受けて……そちらは?」

「医者崩れだ」

「そうだ、もう医者ではない男である」

「はぁ……ご主人様は不思議な知り合いが多いのですね」


 類は友を呼ぶ。そんなことを考えている顔をしているなシドドイのやつ。


「私、スキルを新たに覚えていたんですよ。【弓の九光り】って言うんですけど」


 なにその親の七光りの上位互換みたいなやつは。

 ……ああ、【九の弓術】だったっけか。宿屋のオッサンはそんなことを言っていたけど、スキル名違うじゃねえか。

 格好悪いからどこかで名前変えたか?


「伝説の弓使い様の弓術を継承した新入り冒険者だ。どうだ?」

「ああ、申し分ないな……」


 【ドクター・ストップ】も満足げである。


「じゃあよろしくな……ええと、名前なんだっけ」

「クリストファー・スマイルだ。クリスとでも呼んでくれ」

「俺はシドウ、こっちはシドドイだ」


 と、スマイルとは程遠い男の依頼をこうして受けることになったのだ。


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