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86話 料理対決 7

「まずはこちらのお肉と山菜と茸を良い感じに切っていきます」


 材料はその3つだけ。

 火の通り具合にばらつきが出ないように、均等に切っていく。


「おいアレ……シビレソウじゃねえか」

「それだけじゃねえぞ! ゲキカラニクとニガミダケも使ってる。あいつ、正気か?」


 観客から声があがる。

 そうだ。もっと驚け。俺に注目せよ。


「ヒャハハ! そうれ、煮込むぞ!」


 鍋に入れた水が沸騰すればそこに先ほどの材料を入れていく。


「んー……これだけじゃ地味だな。【カースドパペット】」


 俺の懐から2体の藁人形が這い出てくる。

 そいつらはヨイショヨイショと木べらを持つと鍋の中をかき混ぜていく。


「何あれ!?」

「ねえ、見てよあれ」


 女どもが声を上げるぜ。

 余りのこいつらの可愛さに――


「気持ち悪……」

「え、なんで藁人形?」


 可愛さに打ち震えていやがるぜ。

 ……あいつらの足元に配置してやろうか?

 自分の力で踏まれる感覚を味わえば黙るだろうか。


「後は塩と胡椒で味付けをと」


 火が通ったことを確認したら味付けをして完成。

 ここまで味見は一度も無し。


「……余は貴様に対して多少は期待していたのだがな。所詮は大口だけであったか?」


 皿に煮込みを入れるとカッターラの前に出した。


「見ろ。あの男がつくった料理を。お前もあれくらいには上手くつくれていたぞ」

「あー」


 どこかで医者崩れが奴隷に向かって話していやがる。

 

「……何時までもお前では不便だな。娘であるならば親として名づけをせねばならぬか」

「あー?」

「今日からお前の名はホープだ。よし、帰ったら早速祝いの準備をしよう」


 それ、今やること?

 むしろ遅すぎない?

 この間、反省したような感じあったじゃん。なんでその後帰ってやらなかったの。名づけなんて重要イベントをこんな片手間で終わらせんじゃねえよ。


「見ろアオ。あの男、破れかぶれになったようだ。アレを食べればお前のつくった粥とて胃の調子を整えられまい」

「それは私の粥の評価を高く見積もっているのか……?」


 どこぞの金の亡者が笑っていやがる。

 

「フハハ! これほど愉快な展開になろうとは。誘って良かった。ああ、最高の日だ」

「私の料理を食べた時よりも嬉しそうだな……」


 弱み握った時には覚えていろよ?

 せいぜいふんだくって金を搾り取ってやるからな。



 そしてカッターラの困惑と失望の混ざった顔を相手にしなければならない。


「材料はそこらのモブが言った通りだ。シビレソウとゲキカラニク、ニガミダケの煮込み。これが俺の料理でお前が最後に食べる料理だ。」

「貴様はそれらがどういうものか分かっていて使ったのか?」

「ああ。単体で食べれば痺れる、激辛で汗が止まらなくなる、苦くて悶える嫌われものの食材だ。市場にも中々出ないから一から集めるはめになったぜ」


 幸いにもジルが暇していたから手伝ってもらえた。

 アイツの巨体を以てしても危ない場面がいくつかあったがな。


「料理とは調和だ。味と味はぶつかり合って時に邪魔をし、時に調和する。どの組み合わせが最適か、それを研鑽するからこそ料理の歴史は今も尚続いているのさ」

「ならばこれらは……」


 カッターラの目が変わる。

 俺の言っている意味が分かったのだろう。


「最悪な味のコイツらが邪魔し合ったか調和したか。それを判断するのはカッターラ、アンタだぜ?」


 さあ食べな。

 この味はきっと思い出になる。

 冷めることは料理への侮辱であるとカッターラは知っている。やがて意を決したかのようにスプーンを手に取ると一口、啜ったのであった。


「これは……舌が痺れて辛くて苦い。不味い!」


 カッターラは叫んだ。

 どうだ? 最悪な部分だけが調和しただろう。


「だ、駄目だ……【幸福変換】」


 カッターラはスキルを使いこの料理を無かったことにしようとする。

 だが……

 

「消えない、だと……!?」

「当り前だ。お前はこれを食べて幸せだと思ったか? いいや、違うね。幸か不幸かで言えば不幸だと感じたはずだ。不味い料理を食べて幸運だと思うのはよほどのマゾだぜ?」


 カッターラのスキルは幸運でなければ発動しない。

 よって、この料理を食べた時だけは不発となる。


「お題は『印象に残った料理』だったな? どうだ、消したくても消えない記憶になっただろう? ヒャハハハハハ!」


 勝利を確信した俺は高らかに笑うのであった。

 悪役みたくなっているか? 周囲が引いていようが気にしないね。

 勝利こそ正義なのだから。






『では優勝を、カッターラ様お願いします!』


 すでに2位までを発表し終わっていた。

 シドドイは惜しくも2位だったな。

 シルビアも入賞こそしたが下の方だ。

 ちなみに俺はまだ呼ばれていない。


『では発表いたします! 優勝は……』

『クラサカ家執事……本当に名前はこれで合っているのか? 本名とか他にあったのではないか?』


 優勝は執事の爺さんであった。


「え、俺は?」


 とりあえず抗議をしてみる。名前一度も呼ばれてないよ。

 もしかしてプロ部門に名前混ざっちゃった?


『美味いものは最低限の条件だ。言うまでもないことだから書かなかったのだが……次回への反省点を気が付かせてくれ礼を言おう』

「クク……ハハハハハハ」


 後ろでグリセント大爆笑だ。


『失格とまでは言わないが何かを与えることも無い。入賞した誰かに美味いものを食わせてもらって舌を肥えさせてからもう一度再戦するのだな』

「あ、それならシドドイに……じゃなくて、はぁ……」


 あれだけ苦労したのに何も無しかよ。

 まあ暇つぶしにはなったけど……って


「そもそも一位の【熱石】が欲しくて参加したんじゃねえか。誰だよ一位逃してんのは」


 暇潰せてよかったじゃねえよ。

 有限である時間を無駄に失っちまったじゃねえか。


「おや。シドウ様は【熱石】を所望でしたか」


 隣で執事の爺さんが話しかけてくる。

 その手にはすでに【熱石】らしき赤い岩が布に包まっている。

 あれか、私の布は熱を通しませんってか。

 もう片手には色とりどりの粉の入った袋がある。

 怪しさ満点だが、【温泉の素の粉】だろうな。


「でしたら、宜しければ差し上げましょう。当初は静かに調理をするだけでしたが、あのように魅せながら調理をする。そのヒントを頂いたお礼です」


 壇上ではカッターラが締めの言葉を語っている。

 朝礼で校長先生が話すくらいにはどうでも良くて長い。


「いいのか?」


 多分だけど、あの金髪勇者の命令でここまで来たと思っていたんだが。

 それを無視して俺に勝手に渡しても、怒られないか?


「【熱石】はオマケでございます。本命はこちらの【温泉の素の粉】。お湯など火を使えばいくらでも沸かせます」

「だけど、それがあれば簡単に沸かせるだろ?」

「ですが、沸騰したお湯に誰が浸かるでしょうか。火山の深奥から採掘されたのであればそれに見合った熱量を持った石です。温泉に向いている熱量だとは思いません」


 だったら何でセットでこの景品にしたんだと言いたくなるが。


「貴方がこれを所望していたのであればそれは武器の材料にするのでしょう? お嬢様は貴方をご心配なされていた。であれば、貴方が強くなるのに手をお貸しすることに私はお嬢様から何かを言われるとは思いません」


 そうなのかなぁ……そうなんだろうぁな。

 嬉しくも無い金髪勇者からの気持ちだが、くれるものは貰っておくか。

 最終的に俺の手に入っているのであれば問題は無い。

 【温泉の素の粉】が手に入らなかっただけ。それは俺にとって大した問題ではない。


「代わりと言ってはなんですが……」

「何だ? 俺がやりたいと思うことならやってやるぞ」


 出来ることなんて言った日には、面倒ごとを押し付けられかねない。

 爺さんは俺に【熱石】を押し付けてくる。

 その熱量に少しばかり圧倒されつつも受け取る。


「気が向けば結構です。お嬢様も本心は別として素直に喜ばれないでしょうから」

「で、俺に何をさせたいんだ?」

「お嬢様は勇者です。もし今後、魔王との闘いになればお力添えをお願いしたいのです」

「……力添えとか俺に出来ると本気で思ってんのか?」


 周囲から拍手が沸き上がった。

 どうやらカッターラの言葉も終わり、この大会自体もお開きとなったようだ。

 拍手と歓声に混じって爺さんは続ける。


「今代の勇者は未だ誰も魔王を倒していませんでした。唯一貴方だけなのです。その力は本物だと、私は確信しました。……いえ、この際偽物でも構いません。魔王を倒す力は無くとも術があるのでしたらそれで良い。貴方にお嬢様を託したいのです」

「てめえとか……あの愉快な3人組がいるだろ」


 俺の言葉に爺さんは微笑むと、


「あの3人は兎も角、私は――」


 爺さんの言葉は一際大きくあがった歓声によって潰された。

 壇上を一瞬だけ見て、再び視線を戻すと、爺さんは何時の間にか消えていた。

 

「……まあいいか」


 何はともあれ目当ての物は手に入れた。

 武器の材料集め、一つ目はこれでクリアだな。

 布に包まれた【熱石】をアイテムボックスに入れると、俺も静かにこの会場を後にするのであった。


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