84話 料理対決 5
『同時に完成させたのはアイ・シー選手のペア、アオ選手、そして名も無き少女選手だぁぁ!』
しかし叫んでいるな、あの執事の男。
慎ましい印象とは打って変わっての騒々しさだ。
別人では無いかと疑う程だ。
「アオって……あの犬っころじゃねえか」
なんだグリセントの奴も自分の手駒を出場させていたのか。
【蒼の群れ】からそのままアオとか安直な名前を付けたものだ。
「アイツは……ああ、あんなところにいたのか」
かなり後ろの方で、まるで興味なさげに、しかしチラチラと壇上を気にしている男がいた。
後でおちょくる材料がまた一つ手に入ったことに笑いつつ、俺もアイとシーの方が気にはなっているため壇上を見やる。
『まずはアイ・シー選手からです。これは……おにぎりでしょうか』
『おにぎりだな』
皿の上には2つのおにぎりが乗っかっていた。
一つはしっかりと、一つは少し歪に握られている。
『見た目は普通だが……ふむ、中の具材が特別なのか?』
『これにはカッターラ様も苦悩されている! 正体が分からない。おにぎりとは考えたものだ!』
たぶん何も考えていないぞ。
簡単だったからだと思う。
『中身は何も入ってないよー』
『塩はたくさん塗しました!』
嘘を付けない2人は素直にカッターラの疑問に答えてしまう。
『ふむ……塩むすびか……』
やっちまったぜアイツら……。
カッターラの視線はすでに次の皿へと移っている。
『粥か……?』
次はグリセントのところの犬っころ。
卵粥のようだが……
『ゲホッ……消化が良いからな……』
消化に良い?
確かに大喰らいのカッターラの胃は荒れているかもと思ってしまうが……
『カッターラ様のスキルは食べたことすら無かったことになりますからねー。実は胃もたれとかしないんです!』
司会がそう説明してくれた。
『だがまあ、優しい味付けというのも時には必要なことだな』
カッターラはまたも食さず次の皿へと目を向ける。
『これは……これは何だ?』
最後に医者のところの奴隷がつくった皿の中を見ると、カッターラは困惑していた。
『あー!』
『あーという料理か……余がまだ知らぬ料理があったとは……どこぞの地方に伝わるものなのか……?』
いやそれ多分話せていないだけだろ。
奴隷少女のつくったものはごった煮のようだ。
とりあえず色んな食材を煮込んでいるようで、色は紫。臭いは俺のところにまで届かないが、カッターラの様子から良い匂いでは無いらしい。
魚の頭とか動物の蹄とか、葉っぱとか。人体のものによく似た指とか見えてはいけないものまで見えている……。
というか、あれ……間違いなく怨念も混ざりこんでいるような……
『ふむ』
カッターラはそれら3つの皿を見た後に
『これは食べることは出来ないな』
そう述べた。
『え?』
『食べてくれないのですか……?』
『そうか……私の料理は口にすら運ばれないのか……ゲホッ』
『あー』
4人は落ち込んでいる。
「おいシルビア」
「ああ、乗り込むか」
よし行くぞ。
まずはシルビアの魔法でカッターラの席を一撃。
その後に俺はアイとシーを回収して逃げる、と……
『それらを食べさせたいのは余では無かろう? 本当に食べて欲しい者へ届けてきたまえ』
……おや?
アイとシーがこちらへとやってきた。
「ご主人様!」
「つくってみました」
「「食べてください!」」
2人とも目を瞑ってこちらへと2つのおにぎりを乗せた皿を差し出してくる。
小さいおにぎりだ。
あの、小さな手で一生懸命つくったのだろうと、その場面を容易に想像出来てしまう。
「……いただきます」
気づけば手を供えていた。
2つのおにぎりを同時に食べる。
塩気の良く効いたおにぎりだ。
塩味で、前の世界でも食べていた慣れ親しんだ味だ。
「美味えな……ありがとう」
2人の頭に手を置くとアイとシーは目を細める。
シドドイのつくるものとはまた違う、温かさを感じた。
遠くでは犬っころがグリセントへ卵粥を渡していた。
なるほど、馬鹿みたいに食べているのはカッターラだけでなくグリセントも同様。
胃に優しい料理をつくったのはグリセントの為だったか。
更に違う場所では奴隷少女が【ドクター・ストップ】に謎のごった煮を渡していた。
【ドクター・ストップ】は表情一つ変えることなくそれを口に入れ、奴隷少女の頭を撫でていた。
……ごった煮に練りこまれていた怨念は何故だか上手く取り込んだようだ。
倒れた直後から黒魔法の扱いに長けるようになっていたとか、シルビアが言っていたが。
『さて……これはどう判定したものでしょうかカッターラ様』
『すでに彼女たちは欲しいものを得たようだ。これ以上余から何かを与えるのは無粋であろう』
事実上のリタイアか……。
まあ他のライバルも一緒にいなくなっただけマシかもしれないが。
何より、アイとシーの飯を食えたのだ。
娘の成長を喜ぶ父親の気分を味わった気分だぜ。
『残るは数名の選手ですが……どうでしょうか?』
『手際は良いな。誰もが日常的に家事をする顔をしている。それも、自分のだけではなく愛すべき誰かのための料理だ』
『あ、愛すべきだなんてそんな……ご主人様、見てますか!』
シドドイが叫んでいる。
俺の手はそれぞれアイとシーが握っているため、おうと口で答えてやる。
届いたかは知らんが、まあ口の動きで察してほしい。
『選手それぞれ皿を出して来ました』
残りの参加者達も作り終えたようだ。
肉野菜魚、山菜茸海藻と旬のものや地産のものでつくられた料理が並べられている。
最後にシドドイ。
アイツが出したのは、
『鳥の香草蒸しか』
『はい。少し調理の難しい、獣臭いお肉を使いました。内臓を取って、そこに私の育った山で採れるハーブを入れて蒸しました』
『……米も入っているのか』
『肉の脂とハーブの香りがよく染み込んでいるのであっさりと、だけど食べ応えのあるご飯になっていると思います』
『頂こう……』
カッターラは切り分けた肉と米を混ぜて口の中に入れる。
二口目、三口目と入れた後に
「【幸福変換】」
カッターラの手元に金が生まれた。
そして、4口目と食べ続ける。
「あれって……」
「ああ。シドドイのつくった料理を食べたい、だけど満腹だから『幸福変換』を使ったようだね。シドドイの料理はスキルを使ってでも食べたいとカッターラに思わせたぞ」
好感触じゃねえか。
というか、俺も初めて見たぞそれ。
後で食わせてもらおっと。
『ふむ。美味であった。先ほどまでの皿を忘れてしまう程にな』
間違いなく前半戦で最も印象に残った。
その手ごたえはある。
「これはこれは、私も久しぶりに腕によりをかけて挑む必要がありそうですな」
そしてここに本気になってしまった爺さんが1人。
シドドイと執事の爺さんの頂上決戦とか、なぁ。
「シドウ様には申し訳ございませんが、彼女を越える――」
「おいおい、耄碌しちまったわけじゃねえよな? 俺達の中で参加しているのがアイツらだけだって俺は言ったか?」
「言ってはおりませんな」
「まだ俺とシルビアが残っていることを忘れるなよ。シドドイは俺達の切り札だが、ワンマンプレーじゃ無い。料理の腕前はシドドイに上を行かれちまったが、俺達は別方向からカッターラを攻めてやるぜ」
料理は美味さだけじゃねえ。
それを教えてやるよ。
「ほほう……別方向ですか」
「手の内は明かさねえ。これは俺の秘策だからな。だが、度肝を抜かれるんじゃ――」
「ところでシドウ。パフォーマンスの準備は整っているのか?」
「バカヤロウ」
なんですぐにばらしちゃうかな。
「パフォーマンス……なるほど、そうですかそうですか。それなら私もやれることがありそうです」
ほらもう。ヒント与えちゃったみたいな感じじゃねえか。
執事の爺さんは一礼すると去っていく。
『それでは後半戦に参りましょうか。カッターラ様、用意は宜しいでしょうか』
『構わない。すでに先ほどまでの料理は財産となった』
つまりは金になったってわけか。
「シドウ様、頑張ってください!」
「シドウ様のお料理……私も食べてみたかったです」
アイとシーに手を振られ、
「ご主人様。いつも通りで良いかと。気負い過ぎては包丁さばきも火加減も上手くいきません」
シドドイにアドバイスをもらい、
「行くぞシルビア」
「ああ。私達の料理を見せつけてやろう」
俺とシルビアは執事の爺さんを追うように壇上へ上がった。




