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83話 料理対決 4

「料理大会ですか……」


 シドドイの顔が沈む。

 宿に戻ると、シドドイ達3人も戻っていたので明後日の動向を伝えたのだが……。


「あまり乗り気じゃないか?」

「いえ……ご主人様が出ろと言えば私は出ますが……自信がありません」


 自信なぁ。

 

 最初にどの奴隷を買おうか値定めしていた際、シルビアは戦闘センスについては何も言わなかった。家事全般……いや、掃除以外は褒めていたんだっけか。

 確か自分でも料理は得意とか言っていたような……ああ、そうか。


「安くつくれる家庭料理が得意なんだっけか」


 高価な素材でつくる料理の経験は浅いとか言っていたな。

 俺もそれきりシドドイに買い物すら任せきりであったため、一般的なものしかつくらせていなかった。


「はい……料理大会ともなればやはり周りはお高くおいしいお肉や野菜を使うと思います。その中で私だけ安いものでつくり浮いてしまってはご主人様にもご迷惑が……」


 そんなことだったのか。

 思っていたよりも大したことはなくて助かった。

 安価な素材でつくることが許されればいいということか。


「構わない。むしろシドドイにはそれを期待しているんだ。カッターラは言っていたぞ。奇抜なものを求めていると。そして印象的なものをと。むしろ浮いた方が記憶に残りやすいんじゃないのか?」

「そうでしょうか……」

「それに、ポンポンと高い素材使われたら俺の財布が薄くなっちまう」


 料理の素材は持ち込み制だとか。

 手間のかかるものは予め仕込んでおいていいらしい。


「自信を持て。安くても美味い料理がつくれる。それを言ったのはお前だろ?」


 シドドイの第一声。

 自身の誇る得意分野を語っていたのだ。

 俺はそれを間に受けて、グリセントから譲り受けている。……強請ったんだっけか?


「分かりました。不肖ながらこのシドドイ、全力を以て望みたいと思います」


 頑張れ。

 シドドイ、お前はいつだって切り札なんだから。


「さて、と。アイとシーなんだが……」

「はい」

「頑張ります」


 素材は持ち込み制。

 シドドイは金を預けておけば適切なものを買って仕上げてくれるだろう。


「シドドイから料理を教わる暇は……無かったよなぁ」


 教えればスポンジのように吸収していくらしいが、まだ教えていないものは吸収できない。

 それに期限も短いうえに教える方のシドドイには自分のことに集中してほしい。


「ま、好きなようにやってくれ。買い物はシドドイと行くように。シドドイが台所に立っているところを見学でもして、自分たちの出来そうなものをやってみろ」


 何事も経験というやつだ。

 放任主義ではない。任せきりというやつでもない。

 それに、またもカッターラの言葉を借りるのであれば


「アイとシーにしか思いつかない、つくれない料理もあるはずだ。味付けとか、結局は個人の好き勝手だしな」

「私達にしか……」

「つくれない料理……」


 なんてことを言ってみたけれど。

 シドドイと料理を被せるのだけは止めてくれよ。

 印象が薄れちまう。

 ……いや、そこまで馬鹿じゃないかこいつらも。


「アイ、何をつくる?」

「出来るだけ失敗しないのがいいよね」


 2人は早速相談し始めたようだ。

 俺も楽しみにしておこうか。


「では私も好きにさせてもらおうかな」

「別に俺も無理に口出しはしないさ」


 シドドイは俺が言わないと遠慮しちまうから。

 アイとシーは何をすべきか分からなさそうだから。

 あえて言っただけだ。


「俺の考えを押し付けたら、それはシルビアの考えじゃないしな」

「独創的な料理をつくれと、あの貴族様も言っていた」


 俺は俺で何をつくるか考えないとな。

 苦手なわけではないが得意というわけでもない。

 調理実習で困らない程度の腕前なくらいだ。

 シドドイには絶対に負ける、アイとシーよりは今はまだマシといったくらいだろう。


「詳細はこの紙の通りだ。それぞれ思い浮かべた料理を満足するまでつくるように」


 それでこの場の話し合いは終了した。

 後は買い物なり採取しに行くなり狩りに行くなり好きにしてくれ。







『選手一同に食材を選び始めました! それぞれ何を手に取るのか……目が離せません!』


 司会はカッターラの執事の男であった。

 会うたびに性格が変わっているが……今日は随分とハイテンションだな。


「……結構な人が集まったものだな」


 2日が経った。

 色々とあったなぁ……熊に追いかけられたり猪に追いかけられたり兎を追いかけたり……いや追いかけられたんだっけか。

 ずっと追いかけられてばかりだったが何とか俺の欲しい素材は手に入った。


「魔王討伐を祝うものだからね。そりゃぁ、街中が大騒ぎだ」


 横にいるシルビアが答える。

 もう数日は経っているはずなんだがな。

 それだけ魔王に苦しめられている人間が多いってことか。


「仮に……魔王全員が倒されたらどうなるんだ?」

「さあね。誰かに明言されたわけでもないし、実現されたこともない。世界がより平和に近づくのか遠ざかるのか……誰にも予想出来ない」

「平和から遠ざかるって、それだと倒す意味ないだろ」


 むしろ人間にとって味方じゃないのか?

 世の中を保っているみたいな。平和の使者みたいなやつじゃねえだろうな。

 案外と、悪いのは人間ってオチも漫画ではよくある話だ。


「それでも気紛れに人間に害を及ぼすからね。殺された人間の数も知れないくらいに」

「魔物と同じ扱いってことか」

「魔物を統べているからね。魔王を倒した時、魔物がその支配から解き放たれるのか、全滅するのか……これも学者の間では討論されているよ」


 まあ魔物を進化させちゃうくらいだしなアイツら。

 そうポンポンとコボルドレベルの雑魚を怪物に変えられちまっては人間側は敗色濃厚だろう。


「……血生臭い話はここまでにしよう。今はそれよりも楽しむべき。そうだろう?」

「だな」


 すでにシドドイ、アイ、シーは調理を開始している。

 カッターラ一人で審査するのだ。調理は時間を空けて順番に行われている。

 俺とシルビアは最後の方だ。

 

『名も無き少女選手は具材を煮詰めていますね……具材は分かりません……』

「……ん? あれは」

「あの医者のところの子だね」


 参加者を眺めていると知った顔を見つけた。

 【ドクター・ストップ】と呼ばれる黒魔法を使うモグリの医者――それでも黒魔法を用いた痛み止めや呪いの解呪は見事であったのだが――の奴隷の少女が参加しているのを発見した。

 ……というか選手名は名も無き少女でいいのか? 

 あの男はまだ奴隷に名前すら付けていなかったようだ。あるいは名前を付けるのを恐れているのか?


「……頑張るんだぞ」


 最前列で小さく応援している保護者も発見。

 小さく拳を握りしめている。


「声をかけるかい?」

「そんな野暮なことはしねえよ」


 せっかくの親子?水入らずのイベントだ。

 俺達が水を差しちまってはアイツはまず応援を止めちまうだろう。


「俺達は俺達が応援すべき奴らを見るとしようや」


 もしくは他の参加者を見るとしよう。

 なんといってもライバルだ。


「ほっほっ。それは良い心がけですな」

「っと……なんだ爺さんか」


 背後から声をかけられ、振り向くと金髪勇者の執事の爺さんが立っていた。

 全く気配が無かったぞ……。


「凄い……私も気が付かなかった……」


 シルビアも冷や汗をかいている。

 どうなってんだこの爺さん。


「此度は私も参加させて頂くことになりました。アマチュア部門ですので、この後は失礼することになりますが」

「アマチュアって……素人部門の方か」


 って、俺達と一緒かよ。


「シドウ、こちらは?」

「ああ。前に会った勇者のお付きの爺さんだよ。名前は爺」

「爺でございます」

「いや絶対に違うだろ。君も乗っからなくていい」

 

 爺さん絶対に料理美味そうだもんなー。

 これを越えなきゃいけないのか……。


「お嬢様がシドウ様を心配されていましたぞ」

「アイツが? 俺が苦しんでいないか楽しみにしていたの間違いじゃないのか?」

「その口ぶりでは魔王マモンとの闘いも無事に終えられたようで何よりです」


 ……やっぱりこの爺さんは俺が勇者だということを勘づいている。

 そして、マモンを倒したことも。


「そう怖い顔をされずとも、他言はしませんとも。勿論、お嬢様にも」

「それを信じろと?」

「さて。信じてもらうことくらいしか今の私には出来ませんが」

「……まあてめえが言いふらしたところで弱っちい俺が倒したことを誰も信じねえか」

「少なくともお嬢様は信じるかと思いますが」


 そんなわけないだろ。

 俺が勇者として弱いことをあれだけアピールしたんだぞ。

 金髪勇者が圧倒するドラゴンを俺は何とか足止めできた程度。


「シドウ様はあくまで支援としての力に秀でた勇者でしょう。ならば仲間の力を信じるべきかと」


 仲間を信じるとか。

 むず痒くなってきやがる話だ。


「お嬢様も貴方のように信頼できる仲間が――」

『おおっと、ここで同時に3組の料理が完成したようだ。ではカッターラ様の試食の時間となります』


 執事の爺さんが何かを言おうとした瞬間、カッターラの前に3つの皿が置かれたのであった。


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