81話 料理対決 2
「料理対決……だぁ?」
その前のふざけた文言はさておいて、要は料理を作って誰が一番美味く出来たかを競うってことか。
「開催日時は明後日。時間が無いわけでは無いが……急なものだね」
「だが、決して無理な話ではないと思うが? それに一般部門と達人部門に分かれている。料理人等の職業そのものが料理のプロと呼ばれる者らはそちらにしか出れん」
「一般ならそこまでレベルではない、か」
「可能性の話だ。趣味を極める者も多い。あるいは達人部門の方が劣る可能性とてあるのだからな」
まあ出るだけならタダかもしれねえが、その商品はいうと……
「1位に鉱石…ほう、グレン火山の最奥から取れた【熱石】か」
【熱石】って確か冷めぬ熱を放ち続ける石だったっけか。
熱の温度はそれが埋められていた場所次第。
湯に沈めておけば温泉が出来上がることから、そこそこの温度の石が最も流通しているとか。
そもそもで絶対数が少ないから貴重には変わりないが。
「お、シドウ! 副賞で【温泉の素の粉】があるぞ! 【熱石】と組み合わせればいつでもどこでも有名な温泉地の気分を味わえる」
「武器にするって言ってんだろうが。それにお湯くらい、お前ならいくらでも沸かせるだろ」
【熱石】はその数こそ少ないが、火魔法を使える者であれば特別その価値は無い。
「温泉地帯ならともかく、火山級の温度は普段使い出来なさそうだな。それこそ武器が相応しい」
「2位以下は……旅行券とか食事券とか食べ放題とかか」
「貴重な肉や魚もあるね」
怪魚に獣肉に果実……他にも色々あるな。
そっちはそっちで少し味見をしてみたい気持ちもあるけれど、そこはぐっとこらえる。
目指すとしたら1位以外無い。
2位以下はすぐに腹の中に消えちまう。
アイとシーは大喜びだろうが。
「参加人数の上限は無い。お前達2人が別で参加するも良し、タッグを組んでも良しだ」
「それなら俺とシルビア、アイとシーのペア、シドドイの4組の参加にするか」
「入賞の可能性を少しでも高くしておいた方がいいからね」
それにまあ、2位以下もかっさらってしまいたいしな。
「で、何を作ればいいんだ?」
ええと……料理のお題は、と
「『最も印象に残った料理が優勝』……どういうこった?」
「つまりは何でもいいというわけか。逆に困るね」
美味ければ何でもいいとか……審査員の好み次第じゃねえか。
今日の献立を考える妻じゃねえんだぞ。
「審査員はこの企画の責任者でもある貴族のカッターラ・マエストロフだ。さすがに知っているだろう?」
「さすがに知ってねえよ。誰だよそいつ」
「【食い倒れ】の異名を持つあの大喰らいだぞ? この街で流通する食材料理の9割がカッターラの胃袋を通過したと言われてもいる」
「残り1割もすぐ攻略されると言われているんだぞ」
シルビアも知っているらしい。
とりあえず俺の中では太ったオッサンのイメージが沸いた。
グリセントと気が合いそうじゃないか。
「酸いも甘いも嚙み分けた女傑だ。彼女を納得させる料理をつくるのは骨が折れそうだな」
あ、女なのか。
なら太ったオバサンだろうか。
肉でも焼いとけば満足するんじゃね?
とはいえ、それは料理で無い。
素材さえ良ければ誰にでも出来ることだ。
「とりあえずそいつの家教えてくれ。挨拶してくるわ」
「大会申込の申請であれば俺が受け付けるぞ」
「お前に言ったところで意味ないだろ。直接本人に会って、何か好物でもあるか聞き出してくるわ」
「……止めはせんがな」
渋々といった感じでグリセントはその貴族の家の住所を紙に書くのであった。
「気難しいわけでは無い。ただ、面倒臭いだけだ。あるいは、お前と気が合うかもしれんな」
「そりゃ、お前だろ。お前こそ面倒臭いやつと気が合いそうじゃねえか」
紙を受け取ると、ついでとばかりに言っておく。
「そういや、あの犬っころは元気か?」
「ふん。あいつはお前からは嫌な臭いしかしないと言って奥でふて寝しているわ」
「そりゃ残念。あの耳は一度触ってみたかったんだがな」
「……多分死ぬほど嫌がるぞ。俺でさえ食事時に辛うじて気を許している程度なのだ」
仲が良さそうで何より。
俺としては【緑の巨人】と並ぶ強さの一族と話してみたくはあったんだが。グリセントの部下ってことはちゃんと首輪付いているだろうし安全は保障されている。
つまり、どれだけ煽っても俺は安全というわけだ。
「さっさと行け……これ以上は俺の仕事に差し支える。あの娘にもやってもらわなければならないことがあるのだ」
へいへい。
粛々と俺達は部屋から退室し、その貴族とやらの家に向かった。
その貴族の屋敷はグリセントの商会からさほど離れていない場所にあった。
だから、もしかしたらこれまでに通っていたのかとも思ったのだが、屋敷に到着するやその考えはすぐに捨て去ることとなった。
間違いなく、見ていれば二度見必至である。
「……シルビアさんよ。貴族ってのはどいつもこいつもこんな家に住んでるのか?」
「ここだけが例外だよ。食べることの出来る家。幼い子供が夢見た願望を実現させる力があるんだ。国に許されるくらいの権力を持つ貴族がカッターラという女なのだ」
童話にあるお菓子の家。
あれは一体どうやって腐らせずに、そして鳥獣や虫をおびき寄せずにいたのだろうと不思議だったのだが、この貴族の屋敷はそれを越えていた。
肉や野菜、魚で固められた屋敷。
門も窓も壁も屋根も柱も全て全て食べることの出来る素材。
素材は生も焼きも煮物もある。炒めてもあるのだろうか……?
「何用か?」
門兵に呼び止められる。
当然ながら、素通りはさせてもらえないらしい。
どこか粘つくような視線を絡めながら門兵は俺達を見る。
「これの応募に来たんだけど、ちとここの主さんに挨拶したくてな」
「ふむ……カッターラ様は賄賂の類は受け取りませぬが、それはご承知か?」
「そんなつまんない真似はしないさ。あくまでこれは遊びだろ? 遊びに本気になりこそすれ、勝つために裏技使ったら誰も楽しくないものさ」
「……? まあ遊びと受け取るのもまた良いでしょうな。少しお待ち下され。カッターラ様にお伺いして来ます故」
そう言って門兵は屋敷の中へと引っ込んでいった。
代わりに別の門兵が門の前に立つ。
「時にシドウ。君はカッターラをどのような人物と想定している?」
「女版グリセント」
性格は知らんが、見た目はそんな感じだと思っている。
手当たり次第に食いまくって横に広がっていくような体型。
「くくっ……そうかそうか。やっぱり君もそう思うよな」
女装したグリセントでも想像したのだろうか。
笑いながらシルビアは微妙に引っかかる言い方をする。
「その言い方だと違うのか?」
「ああ。カッターラは線の細い女性だ。ついでに言うと食も細い。一度の食事に食べられる量なんて君よりも少ないと思う」
「……は?」
嘘だろそれは。
いくら俺がこの街に疎くても、騙されないぞ。
「この街の食料喰いまくったってお前とグリセントが言ったんじゃねえか。そんなやつが――」
「お待たせしました。カッターラ様は貴方方に会うとおっしゃっています」
先ほどの門兵とよく似た顔の、しかし執事服を着た全く異なる雰囲気の男が出てきた。
そいつは屋敷の奥を手で示す。
俺達は執事の開けた屋敷の扉の内側へと入る。
「ちょうど食事も終わった頃合いです。次の食事までの合間で良いなら時間を作ると」
「それで構わない」
シルビアが答えると、
「では急ぎましょう。なにせカッターラ様はすぐに空腹になってしまう」
執事の男は俺達を急かすように屋敷の扉を閉め始めるのであった。




