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78話 黒魔法 4

「ちゃちな黒魔法はもうお終いか? 誇りも持てねえのなら切り札にするなよ。自分の力なら自信を持て。こういう風にな」


 相性の悪いことに女は私の『ペイン・コントロール』が効いていないようだ。

 そして、男は回復魔法を使えるのか……。


「……チッ」


 非力な私が2人の人間に敵う術は他に無い。

 この場から逃げ出す手立てを考えなければ。


「安心しろよ。別に殺すわけじゃない。少しばかり大人しくなってもらうだけだ」

「君、それは悪党が吐く台詞だぞ」

「悪党なら殺すさ。俺は無駄に殺さねえ」

「少し頭がいいタイプの悪党が言いそうだ」

「てなわけで、大人しく掴まってもらおうか!」


 男が人形を私に投げつける。

 先ほど男が作ったという、怨念を原動力とした藁人形のようだ。


「こいつがお前に止めを刺す。俺の新しいスキル『カースドパペット』がな」

「くっ……来るな!」


 足元へにじり寄る藁人形を蹴り飛ばす。

 

「……は?」


 その軽い衝撃に驚愕する。

 弱い。余りにも弱かった。


「こんな、こんなものに私の計画は潰されたのか! 情けなくなる。馬鹿らしくなって笑ってしまうぞ!」


 蹴る。踏みつける。足跡を付けるかのように、何度も何度も藁人形へと足を落とす。

 藁人形は一切の抵抗を示さず、ただ私の怒りを受け入れる。


「おーおー、酷いもんだな。弱い者いじめは得意ってか?」

「貴様らは私よりも強いだろう」


 憂さ晴らしと言ってしまえばそれまでだ。

 こいつらには勝てないだろうからこの藁人形を2人に見立てているだけに過ぎない。


「まあ、この人形はそんな私よりも弱かったようだがな」

「強弱ねえ、それは関係無いんだよなこいつの前では。なんせ弱いからこその力ってのもある」


 ……何を言っているのだ。

 いや、油断してはならない。

 なぜ藁人形を私の目の前に出したかは分からないが、結局2人の冒険者を前にしているという事実は変わらないのだ。


「そろそろだぜ。呪いは帰ってくる。やり過ぎは何時だって身を滅ぼす」

「……? ぐうっ!?」


 腹部に激痛が走った。

 続けざまに衝撃がいくつもぶつけられていく。

 顔に、足に、腕に……。

 

「これは……」


 とは言え、それはさほど強くない力で、私以外の者が受けたのであれば踏みとどまったのであろう。

 私だから……非力な私だからその場に倒れてしまった。


「私が人形を踏みつけたのと同じ力……か」


 私自身の力が本当に大したことが無かったのだと改めて実感する。

 あれだけの数の暴力を返されても尚、私は五体満足、内臓の一つさえ破裂せずに無事であった。……いや、さすがに内出血はしているだろうが。


「そう。それが『カースドパペット』だ。加えられた力をそのまま相手に帰す。さてここで問題です。俺は何体の藁人形を作ったでしょう」


 男の服の袖から、私の部屋の隙間から、いくつもの藁人形が這い出る。


「さすがに、あれだけ怨念があって1体しか作れなかったら燃費悪過ぎよな。……その残りも危ないし俺が有効活用してやるぜ」

「ぐっ……やめろ……」


 藁人形が樽を囲む。

 迂闊に攻撃すれば帰ってくる。

 それを知った今、藁人形に触れることさえ躊躇いが生まれてしまう。


「返せ……それを私に返すのだ!」

「やなこった」


 男の言葉と同時であった。

 一つの影が藁人形を押しのけ樽を奪ったのだ。

 

「ふー! ふー!」


 それは、奴隷の少女であった。

 男によって半分以上奪われたためか、私並みに非力な少女でも運べる程度には減量していたらしい。


 少女は樽を持ち入り口まで駆ける。

 藁人形が制止しようと足元に集ろうとするも蹴り飛ばされる。


「お、蹴ったな」


 男が嬉しそうに笑う。

 藁人形への攻撃。少女への痛み返しの条件が整ってしまった。

 しかも、蹴られた人形は複数体。

 返される痛みもまた同時にいくつも襲い掛かる。


 だが、少女は構わず走る。

 痛みなど気にしていないかのように。


「……『ペイン・コントロール』」


 相手が痛みを返すのならばこちらは痛みを制御する。

 いくら返されようと、今の少女は蚊に刺されたほどの痛みもない。巨大な蚊である『デス・モスキート』でない限りはな。


「……」


 少女は私を見てコクンと頷く。

 私の目的を知っており、何をすれば良いのかを理解している。

 街中にぶちまければいい、

 それは私でなくても出来ることだ。


「行かせるかよ。シルビア!」

「ああ。痛覚を遮断しているようだが、関係ない。掴まれば逃げるだけの力は無いようだからね」


 少女が藁人形を踏む。

 それに合わせて風が吹いた。

 突風にも似た強い風。

 藁人形を踏みバランスを崩しかけている少女を転倒させるには十分であった。


「あ――」


 少女の手から樽が落ちる。

 地面で一度跳ねた後に樽の蓋が解かれる。


「……ぃぎっ!?」


 樽の中身――液状の怨念は宙で撒かれ、少女へと降り注いだ。

 1滴で狂気に陥るに十分な濃縮された怨念が。


「……おいシルビアさんよ。随分と酷いことしてくれたなぁ。俺は捕まえればそれで良かったんだが」

「ち、違う! 私は転んだところを拘束しようとしただけで」

「そしたら樽も抑えとけよ! どうするんだよこれ……」

「――あぁぁぁっ!」


 少女は床を転げまわる。


「しっかりしろ!」

「ぎ、ぎぎぎぃ……」


 ……痛みか故か。いや、今は痛覚を遮断しているはずなのに。

 

「『ペイン・コントロール』」


 更に痛覚遮断を重ね掛けするも、効果は無い。

 苦しそうにのたうち回る。


「……よくもやってくれたな」

「いやいや? おっさんが用意した怨念だろ。原因はそっちにあるし」

「そ、そうだ! 私は悪くない! ……ごめんよ」


 男達を睨んでいても意味が無い。

 少女に降りかからずに床へと落ちた怨念も少女へと吸収されていく。

 まるでそれが一個の生命体であるかのように少女を目指し蠢く。


「……ひとまずこれ以上はやらせんぞ」


 黒い液体に向けて黒魔法を使う。


「『ダウン』」


 怨念の動きが鈍くなる。

 その隙に樽に再び怨念を詰めていく。


「……ほとんどがこいつから集めていたのが幸いか」


 怨念はその大半が少女から集めたもの。

 濃縮したからといってその元々の持ち主に帰っただけである。

 一滴で発狂する怨念も、元から少し精神的に病んでいることと合わせて効果は薄まったのだろう。


「そいつ、死ぬのか?」

「……このままではな。貴様も近づかない方がいいぞ。矛先が変わる」


 いっそのこと死んでほしいところだがな。

 しかし今はその時ではない。


「シドウ、君の先ほどの藁人形の魔法に使う怨念をこの少女から取れないのかい?」


 その手があったか。

 では、と男を見ると、


「いや無理。あれは場に溜まったもの限定だ。人体にある怨念を使えたら解呪師として喰ってけるっての」

「なら貴方はどうなのだ、『ドクター・ストップ』よ。医者なら何か手は無いのか?」


 無茶を言ってくれるものだ。

 医者としては未熟もいいところ。

 そもそもで医療知識も碌に無く、まして回復魔法等使えない。


 これの原因の一端が私にあるとしても、それであればこの場全員が引き起こしたようなもの。

 あれやこれやと3人で頭を抱えているのはむしろ不思議なことだ。

 この2人にとって奴隷の少女など無関係で、責任なんて無いのだから。

 

「死んじまったんなら俺がどうにかしてやるけどな。まだ生きているなら医者の本分だぜ?」

「……死にはしない。いや、死なせはしない。あまり使いたくは無かったが、手は有るのだ」


 この怨念の大半は奴隷の少女から生まれたもの。

 そして残りは私や、この街の住人の中でも私の下へ患者として訪れた者から頂いたものだ。

 どうせ裏の世界で生きる者ばかり。恨み辛みは積もっていた。

 ……私も似たようなものだがな。


「貴様にやったことと同じだ。この怨念もまた黒魔法によるもの。ならば抜き取って私の中に入れれば良いだけのことだ」


 少女の頭を撫でてやる。

 額に汗を流し苦しそうに呻く彼女はこちらの手を認識したのか少しだけ微笑む。

 まるで、自分は大丈夫だとこちらへ示すかのように。


「……強がらずとも、捨てはしないさ。引き取った私が責任を取ってお前を生かしてやる」


 少女の中に混ざった怨念を私へと移し替える。

 樽の中の怨念を被ったのとはまるで違う状況だ。

 直接私の中へと流れ込む怨念は少女の苦痛と混ざってより混沌としたものへと変化する。


「……ぐぅっ!」


 まだ大丈夫だ。

 少女自身の怨念は少女の下へと還ったことで無力化されている。

 そして私自身の怨念もまた同じ。


 受け入れなくてはいけないものはそれ以外の怨念だけ。


「……すぐに楽にしてやるからな」


 殺すという意味では無く生かすという意味で使った安楽という言葉は果たして少女に届いたのだろうか。

 様々な害悪の意思が全て私に流れた時、男女が何か叫ぶもその意味が分からないまま意識を手放すこととなり――


『初めまして……なのに君が無茶な人間と知った僕はどう接すればいいのだろうね』


 ――暗転した世界で私は目覚めた。


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