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72話 望んだもの 3

「……魔王に対して敬意を抱けなんて言わないけどさ、ちょっと雑過ぎない? せっかく僕の選りすぐりの魔物10選を連れて来たっていうのに土に埋まっちゃったじゃないか」

「なら掬い上げてみせろよ。てめえら魔王ってのに仲間意識があるんならな」


 古城に貼られた結界というのが攻撃に対してだけ作用するのであれば、今頃は泥砂が入り込み身動きが取れなくなっているだろう。


 その大半を土中に埋もれた古城の最上階……今は俺達と目線を同じくしているマモンは窓から俺達を睨みつける。


「救うのも掬うのも、魔王らしくないじゃないか。それに、僕達に相応しいのは配下であって仲間じゃない。君は、ソレらをどう呼ぶのかな?」


 マモンはシルビア達を見る。

 なぜだろうか。僅かに羨望が混ざっているように俺には感じた。


「仲間か配下か。魔王たる僕は自身しか信用しない。一騎当千の力を持っているんだ。大事な局面を弱い奴らに預けられないのは当たり前だよね」

「それは孤軍奮闘って言うんだぜ? よく覚えておきなお坊ちゃん。そしてこいつらは俺の仲間であり配下だ。大事な場面? そりゃ任せるさ。俺は1人しかいないんだからな」


 そう、と呟くとマモンは城から飛び出し俺達の前に着地する。


「口喧嘩なんて子供のやることだ。建設的な話をしようじゃないか」

「口論こそ大人のやることさ。子供はまず手を出したがる」

「……返事はどうだい? 数日経って気が変わったって言うんなら、この間のも今のも、水に流してあげるよ」


 未だ尊大に――自身では寛大だと思っているのだろう――こちらに問うマモンは、しかし俺の返答をどちらでもいいと思っているようだ。

 イエスと答えればそれまでだし、ノーと首を横に振れば殺す気でいる。


「俺に勝ったら考えてやるよ。独りぼっちの弱いてめえが俺達に勝てたら、そりゃ魔王の強さも折り紙付きだ」

「……殺す」


 マモンは表情から笑みを一瞬だけ消し、次の瞬間にはまた元通りの顔を俺達に向けていた。


「いいさ。他にも魔王の手足候補はいくらでもいるんだ。それに、僕の配下になるわけじゃない。アイツの強化をわざわざ僕がやってやる必要もない」


 そういやマモンはお使いに出されていたんだっけか。


「他の奴らにこき使われているようじゃ底が見えるぜ。文句を言いながら従っているってのは小物ポイント高いんじゃないのか?」

「……本当、五月蠅いよ」


 マモンが黒い靄を指先から作り出すと、俺達に向けた。


「死ね」


 靄は槍状になって俺達に飛ばされる。

 1本1本が螺旋を描いており、穂先は鋭く、そして太い。

 ……貫通力と破壊力を伴った攻撃か。


 そして厄介なことに回避はほぼ不可能。

 マモンのスキルである『斜角』は絶対命中のバフみたいなものらしい。

 

 つまり、10本近くの槍がそれぞれ貫通力、破壊力、絶対命中を伴っているというわけだ。

 ……無理じゃん。積みゲーじゃん。

 普通なら死ぬよなこれ。


「というわけで出てきなさい……コボルド軍団」


 地中から湧き出た10体のコボルドがその身に槍を受け、しかし尽きることの無い力で槍を押し留める。

 貫通力があろうと、破壊力があろうと、すでに自身の体で受けている以上離さないだけであるし、絶対命中も途中で壁に阻まれているのであれば俺達には届かない。


「……くっ」


 マモンは悔しそうな顔をしている。

 一撃で俺達を殺す気だったようだが、そうはさせない。

 少なくとも、前回見たスキルや攻撃だけであれば対処できるようにしてきたのだ。

 無策で魔王に突貫するほど馬鹿ではない。


 靄の槍の形状が解除され、マモンの下へと戻っていく。

 ……ふうん?


「さて、次は俺達の攻撃ターンでいいん――」

「『(フォス)封印(スフラギダ)』」


 俺の真横からマモンへ向けて矢が放たれた。


「……」


 マモンの額を狙った矢はしかしマモンが首を傾けることで回避される。

 振り向けばそこには弓を構えたシドドイがいた。


「すいませんご主人様。外してしまいました!」

「いや……別にそれはいいんだけどさ……」


 もう少し待ってくれれば俺も言い切れたんだけどな。

 仕方ない。

 シドドイの攻撃を以てして俺達のターンを開始しよう。


「シドドイに続け!」

「別にターン制じゃないでしょこの闘い。ゲームの世界じゃないんだし」

「コボルド軍団!」


 ――『メンテナンス』


 マモンの靄の槍が俺達に再び降り注ぐ。

 急いで直したコボルド軍団で受け止めさせる。


「……さっきより重くなってるじゃねえか」

「僕だってただ見ているだけじゃないんだしね。本数を少なくする代わりに配分を変更したよ」


 本数が少なくなったというのなら手の空いているコボルドが出て来るということだ。

 何とか2体で受け止めきれる槍もあったが……受け取めると同時に死体が崩れ去るコボルドもいた。

 

「まだ地中に隠れているのかな? あと何回受け止めたら限界が来るのかな? ハハハ! 言っておくけど僕のこの『黒靄』に限界なんて無いよ。盾なんて壊しつくしてあげる」


 ……限界か。

 弓矢であれば本数という限界が存在する。使い捨ての武器なんてものは使い続ければ無くなるのが道理だ。

 しかしマモンの槍は回収が可能だ。原形が靄であり、マモンが自在に操っているため実際は魔法のようなものなのだろう。

 シルビアがそういえばあれはスキルだと言っていたな。魔法にしろスキルにしろ魔力を消費する。

 だがマモンのあの余裕ぶりから見て魔力の限界は無いと考えるべきか……。


「いや……そういえばてめえが強欲の魔王だったな」


 なるほどなるほど。

 あの『黒靄』の正体も分かりかけて来たぜ。


「さっきまでてっきり魔法か何かだと思っていたんだけどよ、どうやら違うみたいだな。闇魔法を極めた先に使えれば俺も使おうかと思っていたのに……俺の純情を返して欲しいもんだぜ」

「残念だったね。これは代々マモンに就任した者だけが使えるスキルだ。君が使うとしたら……僕を殺してマモンとなることだね」

「冗談よせよ。他にも使う方法はあるぞ。俺がお前を殺して、そして蘇生させて俺の手足として使うことだ」

「それこそ冗談。僕は強欲であって奉仕精神は無い。誰かに使われるなんてまっぴらごめんさ」


 ……まだ靄の槍はコボルドに刺さっているな。

 

「アイ、シー! 出番だ」

「ようやくです!」

「シドウ様の敵はぶった切る!」


 アイとシーが獲物をマモンへと振りかぶる。

 マモンは下がり距離を置こうとするがそれを追いかける双子。

 2人の重量級の武器を、手に靄を纏い何とかマモンは受け止める。

 同時にマモンの足が地に沈む。衝撃は完全に受け止めきれていないことが分かる。


 そして、2人の攻撃は終わらない。


「ターン制じゃないんだよな? ならこのまま俺達のターンは継続だ」


 アイとシーは獲物から片手を離すと、柄に巻き付けておいた小さなナイフを手に取り、マモンへと切り付けた。


「なっ……!?」


 傷は浅いが確かにその身に最初のダメージを与えることが出来た。

 スキル『斜角』により自身を無敵だと思い込んでいたマモンにとってそれは途轍もない衝撃だろう。


「さて大人から子供に講義でもしてやろうか。てめえの弱点ってやつをな」


 驚いているマモンにアイとシーは攻撃の手を止めない。

 片手に斧やハンマー、もう片手にナイフを持ち交互にマモンへと振り下ろす。

 最も威力の高い重量級武器を靄で受け止めるが、ナイフまでは間に合わない。

 あっという間にマモンの体には小さな傷がいくつも出来上がっていた。


「弱点その1。ご自慢の『斜角』は直接的な攻撃には全く効果を発揮しねえってことだ。靄で間に合えば受け止められるんだろうが、手数を増やしちまえばそれまでってことだ」


 角度を調節されようと、振り下ろす最中にアイとシーだって調節は出来る。

 なにせその手で武器を持っているんだからな。


「そして弱点2。その『黒靄』は使う回数は限界が無いんだろうが、一度に使える量は限界があるんだな。攻撃している最中に、まだ解除していないうちはてめえの防御はがら空きだ」


 ……だがしかし、マモンを倒しきるには足らずコボルドに刺さっていた槍は靄へと戻りマモンを包み込んだ。


「アイ、シー。戻って来い」

「「はい」」


 アイとシーは攻撃の手を止めるとこちらへ戻ってくる。

 ……さて、これでマモンは迂闊に槍を放てなくなることだろう。


 靄は渦となりマモンの周囲を巡っている。

 ……これは迂闊に触れると切り刻まれそうだ。


「ひとまず待機――」


 と、俺が言いかけたところで俺はシドドイに押し倒された。


「な――」


 頭上を黒の靄が光線のように飛ばされた。

 槍のようなもの太さのあるものではなく、細く細く研ぎ澄まされた針のようなもの。

 

「……やばいな」


 俺とシドドイは無事だ。

 間一髪、俺とシドドイが先ほどまで居たところを靄がただ伸ばされているだけ。

 

「……話には聞いておりましたので、警戒はしていました」


 だが、アイとシー、シルビアの腹部には靄が突き刺さっていた。

 

「……カフッ」


 死体人形の癖に血を吐きシルビアは倒れこもうとするが、しかし貫いた靄がそれを許さない。

 俺が生前に行った所業の一つ、鳥葬とよく似た状況が俺の目の前で行われていた。

 3人を貫いた靄は空高く上げられ、そして解除される。

 空中から3人は落とされ土煙をあげる。それが晴れた頃、そこには落下の衝撃と共に全身の骨を砕き、本当の人形のように手足を不自然に曲げて地面に横たわっていたのであった。


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